まるで1995年に戻ったかのようだ──第57回スーパーボウルのテレビ中継で流れるCMを見たら、そんな気分になるはずだ。
カンザスシティ・チーフスがフィラデルフィア・イーグルスと対戦する今年、視聴者はCMで、1990年代の大スターたちを目の当たりにすることになる。
マーベル・スタジオとハイネケンのパートナーシップのもと、「アントマン」主演俳優のポール・ラッドが、アントマンのコスチュームで登場し、ノンアルコールビール「ハイネケン0.0」と「アントマン3」を訴求。フー・ファイターズのフロントマン、デイヴ・グロールは、カナダのウィスキーブランド「クラウンローヤル」のCMに、スタジオでレコーディングしている本人役で出演。サラ・マクラクランは、1997年リリースの『エンジェル』を用いた米国動物虐待防止協会の啓発CMに出演していたが、今回は、それをセルフパロディーした、ビールブランド「ブッシュ・ライト」の広告で笑いを誘う。
50歳以上にリーチするために大金を払う大手ブランド
2022年のスーパーボウルの視聴者数は2億800万人を超え、今年の視聴者数はさらに増えると予想されている。これほど大勢が注目するのだから、FOXで放送される番組中の30秒スポットが、昨年の650万ドルから、今年は700万ドルという記録的な価格で取引されているというのも意外ではない。
数百万ドル規模のビッグゲームへの投資を最大限に活かすため、十数社に及ぶ大手ブランドが、50人以上のセレブを起用している。例を挙げると、マース リグレーのM&Ms(マヤ・ルドルフ)、プランターズ(ジェフ・ロス)、ポップコーナーズ(ブライアン・クランストン)、ミケロブウルトラ(ブライアン・コックス)、ワークデイ(オジー・オズボーン)、バドワイザー(ケビン・ベーコン)、ウーバー(ショーン・コムズ)、ドリトス(ミッシー・エリオット)、Netflixとゼネラルモーターズ(ウィル・フェレル)、Booking.com(メリッサ・マッカーシー)、ヘルマン(ジョン・ハム)といった具合だ。
若年層が消費を控えるなかでは、今年のスーパーボウルで、50歳以上の視聴者を重視したマーケターは賢明だ。
ノスタルジアは最強だ。ソーシャルメディアがニッチなサブカルチャーを生み出したことで、ブランドが1つの広告で幅広いオーディエンスにリーチすることはかなり困難になっている。しかし、ノスタルジアは依然として安全な賭けであり、X世代(1960年代初めから1970年代生まれ)にリーチすると同時に、彼らの親世代や子供たちにも響く可能性がある。X世代は、デイヴ・グロール、サラ・マクラクラン、ポール・ラッドといった90年代のスターを好ましく覚えていて、当時の想いを再燃させる。彼らを起用することで、すべてがシンプルに思えた時代を、消費者に思い起こさせることができる。
可処分所得が多い。消費支出調査によると、米国の消費支出のうち50歳以上の層が占める割合は半分以上。毎年、この層は18歳から49歳の層より4580億ドル(約61兆7970億円)多く消費し、世帯純資産の中央値は若い層より66%も高い。また、55歳以上の世帯は92兆ドル以上、つまり米国における総資産の69%を保有している。それでもブランドが彼らを無視するなら、それはもはや自己責任ということだ。
テレビに集中する。テレビの生中継を視聴する層の大半は50歳以上が占めている。そして、この世代はマルチタスクではなく、見ている画面に集中する。2022年、アテンション測定会社TVisionは、55歳以上の視聴者がスーパーボウルのCMに最も注意を払っていることを明らかにしている。
この重要な層にリーチするためには、マーケターはまず彼らの信頼を獲得し、ユニークで共感を呼ぶメッセージで彼らの関心を引く必要がある。従来の常識では(また米高齢者団体AARPも調査で認めているように)、関心を引く最良の方法は、試合当日のCMに、彼らと同世代の人々を登場させ、彼らにとって意味のある体験や価値を映し出すことだ。
第57回スーパーボウルで、広告主はまさにそれを実践している。50歳以上のスターを数多く起用し、往年のポップカルチャーにも触れている。
時代を象徴する映画を蘇らせる。マーケターたちは、『クルーレス』や『ボールズ・ボールズ』など、80年代や90年代のヒット映画を広告に利用している。例えば、俳優ブライアン・コックスを起用したミケロブウルトラの広告は、1980年の主演映画『メディア王~華麗なる一族~』に登場する架空のゴルフコースが舞台になっている。
過去の広告に目配せする。バドワイザーは、ケビン・ベーコンを起用したローカルCMで、古典的な「This Bud's for You」のキャッチコピーを復活させている。また、テレビ番組『Historical Roasts』で歴史上の人物を酷評(roast)しているコメディアンのジェフ・ロスは、広告界でもとりわけ古いセレブのMr.ピーナッツを”ロースト”してみせる。
古典的なロック。オジー・オズボーンやジョーン・ジェットといった往年のロックスター50人以上が、ワークデイの1分間のスポットCMに登場した。ボタンダウンシャツにネクタイ姿のオズボーンは、唖然とする同僚2人に「ピアスをしたいのはどっち?」と問いかける。
50人を超えるスターたちを自社製品の顔に起用するマーケターたちは、経済面、文化面で影響力をもつこの年齢層の消費パワーを喚起する象徴的な有名人の力を理解している。高視聴率のスーパーボウルの広告となればなおさらだ。今年のスーパーボウルの勝者がどちらのチームであれ、50歳以上の視聴者が歓喜したのは間違いないだろう
ダニエル・マクマレー氏は、AARPメディア・アドバタイジング・ネットワークのマーケティング担当バイスプレジデント。