音声はメディア消費のかなりの部分を占めており、香港、シンガポール、日本で実施したアンケート調査では、多くの人が毎日、あるいは毎週、ポッドキャストなどの音声フォーマットを聴いていると回答した。
Acastの「Sounds Smart Asia 2022」レポートによると、リスナーの90%がポッドキャストのエピソードをすべて、または大半を聴き終えている。また、他のメディアよりも、ポッドキャストを利用する時に最も集中できると回答した人は70%にも上り、テレビ番組のストリーミング(64%)、ソーシャルメディア(60%)、ラジオ(51%)などを上回った。
このレポートではまた、音声広告はすでにアジアに影響を及ぼしており、約71%の回答者がポッドキャストで広告を聞いた後に行動を起こしたことがあると述べている。また一方で、商品やサービスのさらに詳しい情報を検索したと回答したのは33%だった。
クアントキャスト(Quantcast)のアジア地域アカウントマネジメントを率いるシビル・ウン氏は、スポティファイやAcastなどの大規模なプラットフォームが、日本、インドネシア、シンガポールといった国々で躍進しているのに、なぜプログラマティックオーディオの案件数が大きく伸びないのか疑問に思っている。
ウン氏はCampaign Asia-Pacificに次のように語る。「これらの市場における成長は、主にコロナ禍の影響によるものだ。全国規模でロックダウンされた国々では、前例のない規模で、家庭向けエンターテインメント・ソリューションが消費され始め、結果的にこのセクター内で雨後の竹の子のような成長が見られた」
では、広告主はデジタルキャンペーンのリーチを広げ、顧客層をファネルの下方へと移すために、オーディオ広告という成長中のこのチャネルを利用すべきなのだろうか?
その答えはイエスだと話すのは、クリムタン(Crimtan)の日本・アジア太平洋地域担当コマーシャルディレクター、ジョシュア・ウィルソン氏だ。というのも、同氏はこのチャネルにより、広告主が高度にエンゲージされたオーディエンスにアクセスできると考えているからだ。
ウィルソン氏によると、プログラマティックに精通したマーケターは、プログラマティックオーディオ広告を活用することで、オムニチャネル戦略を強化できることを理解しているという。一方で、プログラマティックに不慣れなマーケターは、基本を理解するために、さらなる教育が必要だ。
「スポティファイやAcastなどのプラットフォームは、広告主がオーディオチャネルの利点と広告購入のための適切なアプローチ法を理解できるようサポートする必要がある。予約型オーディオ広告の場合は、広告主がコンテンツパブリッシャーから直接広告を購入できる反面、リーチやターゲティングの柔軟性に欠ける」
「広告がオンエアされると、広告主はもうコントロールの余地がない。しかし、プログラマティックでは、広告主が自動的かつリアルタイムに広告を購入し、ターゲティングされたオーディエンス層に配信することができる」と、ウィルソン氏はCampaign Asia-Pacificに語った。
また、ウィルソン氏の考えでは、プラットフォームは広告主に対し、視聴環境、可視性、測定指標、キャンペーンの効率性を評価する方法など、購入前に必要な検討事項をすべて説明する必要があるという。
Acastのインターナショナル・オートメーションマネージャーを務めるジェイミー・スクワイアズ氏は、以前Campaign Asia-Pacificに、Acastは知識と経験を共有し、ポッドキャストサプライの自動実行に前向きな広告主との関係を築くために多くの時間を割いていると述べていた。同プラットフォームはまた、ポッドキャストのチャネルでプログラマティック技術をより良く機能させるため、広告主と協力することにも意欲的だ。
ノヴァ・エンターテインメント(Nova Entertainment)のデジタルおよびデータ担当ディレクター、ティム・アームストロング氏は、熟練した広告運用チームは、動画のような他のプログラマティックチャネルと同じようにデジタルオーディオを購入しようとするが、オーディオで同様の機能をサポートするためには、まだ進歩が必要だと指摘する。
「オーディオパブリッシャーとして、当社は過去から学んだことを活用し、価格の整合性を維持している。しかし、多くのパブリッシャーにとって、予約型とプログラマティックの、どちらでオーディオ広告を購入しても価格差は生じない。つまり、広告主にとってはどちらでも同じなのだ」と、アームストロング氏はCampaign Asia-Pacificに語った。
プログラマティックオーディオを利用し、CPC効率とCTRを向上
一本の広告が即座にコンバージョンにつながることは稀だ。そのため、一部のプログラマティックオーディオ広告プラットフォームは、クリックを促すコンパニオンバナーを提供している。しかし、その効力はコネクテッドメディアのアプローチからもたらされるものだと、ウィルソン氏は指摘する。
同氏の説明によると、コネクテッドメディアのキャンペーンでは、広告主はオーディオ広告を配信し、ディスプレイ環境のバナー広告でフォローする。コネクテッドメディアのキャンペーンは総合的に見ると、クリックなどのエンゲージメント率は往々にして高くなるという。
「しかし、現在の主要なオーディオプラットフォームは、みな同じ視点を持っており、成果をCPCだけに限定しない高度なプログラマティックオーディオ広告ソリューションを提供している」とウィルソン氏は評価する。
「これらのプラットフォームは、広告主に対して、 文脈に沿ったブランドセーフな環境で、高度にターゲティングされたオーディエンスへのアクセスを提供し、プログラマティックにメディアに接続できるようにしている。例えば、サステナビリティに関するポッドキャストに、サステナブルな商品の広告を配信し、さらに文脈的に関連するサイト上にバナー広告も表示できる」
クアントキャストのウン氏はまた、オーディオ広告を提供していない大手の事業者が、音声なしの視覚だけでアピールできる広告を設計し提供していることに注目し、その逆もありえると考えている。
「アジアでは、スマホのアプリ内インベントリが大量に利用されていることを考慮すると、これは理にかなっていると思う。消費者は曲を聴いている間、頻繁にデバイスを見たりするだろうか。私なら滅多にしない」とウン氏は言う。
「オーディオ広告は、オムニチャネル戦略の一環と捉えられていると思うが、興味深いことに、当社はこれまで需要の急増をそれほど経験していない。アジア全域で、需要の平準化が必要だ」
キャンペーンの最終目標がCTRである場合、オーディオ広告枠を予約型で購入するのは得策ではないかもしれない。広告主はプログラマティックバイイングにより、キャンペーンの目的に応じて、いくつかのメリットを享受できるからだ。
ウィルソン氏によると、プラットフォームの多くは、厳選されたプログラマティック取引を通じて、幅広いオーディエンスへのアクセスやカスタマイズのためのデータインサイト、コンテクスチュアルターゲティングやリアルタイム入札、デマンドサイドプラットフォーム(DSP)利用による柔軟性などを提供しているという。
「だが広告主は、各キャンペーンにおいて、消費者のライフサイクル全体を掌握する必要がある。オーディオは広告のリーチを最大化するためのプラットフォームのひとつにすぎない」と、ウィルソン氏は話す。
「当社の経験では、複数のフォーマットで広告に接したユーザーは、クリックする確率が約10倍高くなる。プログラマティックの技術は、データシグナルを使用することで、広告主がオーディオ環境だけではなく、チャネル横断でカスタマージャーニーを構築するのに役立ち、コンバージョン率を大幅に向上させる」(ウィルソン氏)
音声プラットフォームはリアルタイム入札を提供すべきか?
やがて音声プラットフォームでも、広告主がすべてのインプレッションをリアルタイムで選択できるようになり、メディアエージェンシーはクライアントのための最適な購入方法を選べるようになるだろう。
しかし、アームストロング氏は、広告主がオーディオ環境とその仕組みを理解するためには、まずは十分な教育が必要だと指摘する。そして最終的には、オムニチャネル戦略におけるオーディオの長期的な効果や役割について理解する必要がある。
クリアコード(Clearcode)のマーケティング担当責任者、マイケル・スウィーニー氏は、広告主にさまざまなメディア購入オプションを提示するのは、良い考えだと話す。あるブランドには有効でも、別のブランドには通用しないこともあるからだ。
スウィーニー氏はCampaign Asia-Pacificにこう述べている。「ある広告主では、予約型広告が最も効果的かもしれないが、別の広告主ではプログラマティックオーディオ、特にリアルタイム入札(RTB)の方が、スケール面で良い結果が出るかもしれない」
プログラマティックオーディオプラットフォームが増えている国では、パンドラ、アップルミュージック、スポティファイ、ユーチューブミュージックなどの大規模オーディオプラットフォームの大半が、無料モデルと有料サブスクリプションを組み合わせて提供しており、後者では広告が表示されないのが一般的だ。
ウン氏によると、複数のサブスクリプションモデルを提供することは、加入登録のハードルを下げる一方、ユーザーの嗜好に合わせて広告モデルを導入できるため、消費者にとってもメリットがあるという。
「突き詰めれば、消費者が喜んで広告を見るのか、それとも素晴らしいコンテンツにはお金を払うのか、という二者択一のバランスだ。したがって、プログラマティックオーディオ広告が生き残るのか、それとも衰退していくのかは、引き続き見守っていく必要がある」とウン氏は説明する。