このところリテールメディアネットワーク(RMN)の人気が高まっている。RMNには、キャンペーンをすぐ販売につなげる力があるからだ。
M&M'sやペディグリー(ペットフード)といったブランドを所有するマースにとって、RMNには現実的な価値がある。マースは、米国や中国などの市場で、RMNを販促のためのパフォーマンスツールとしてだけではなく、ファーストパーティデータを利用して、チャネル横断で活用してきた実績がある。
「事業の健全性を測定したり検証したりする場合はいつも、どのキャンペーンがより販売につながったのかを判断基準にしている。リテールメディアはそのために作られたものだ」と、マースでグローバルメディア担当シニアディレクターを務めるロン・アムラム氏は、滞在先のシンガポールで、Campaign Asia-Pacificの取材に応えてそう語った。
「リテールネットワークの中には、自社チャネルで売ることに重点を置き、各ブランドやタッチポイント全体をあまり考慮しないところもある。チャネルを横断的に利用できるリテールネットワークは私たちにとって効率的だが、そうではないところには『貴社の単価は高すぎる』と言っている。私たちはそれらにランク付けをし、売れている市場では、テストと分析にかなりの金額を費やしている」(アムラム氏)
アムラム氏によれば、RMNには「優秀」なところから「劣悪」なところまで大きな開きがあるため、マースは提携するRMNを選別しているのだという。
米国では、アマゾン・アドバタイジング、ウォルマート・コネクト、ターゲット傘下のラウンデルといったRMNがあり、店舗やオンラインでの閲覧行動や購買行動に基づいて、買い物客をターゲティングできるよう広告主を支援している。
APAC地域には、グラブアズ(GrabAds)、カルーセル・メディア・グループ(Carousell Media Group)、パンダ・アズ(Panda Ads)、ゴジェック・アズ・ネットワーク(Gojek Ads Network)などのRMNが存在する。
「広告を提供しているからといって、そのリテールネットワークが有効だとは限らない。だが、私たちはこの3年間、うまく機能するリテールネットワークを構築し、利用して効果を上げてきた」と、アムラム氏は説明する。
「中国が良い例だが、中国以外の地域でもベンダーとのミーティングで優れた実績が見られ始めている。私たちは、そうした地域の小売企業とミーティングを重ねている。そこでは素晴らしいスーパーアプリが開発されているため、貴重な学びも得られる。優れたスーパーアプリは単なるRMNではなく、人々の生活をより楽に、より良くするのに役立つツールであり、力でもある」
さらにアムラム氏は、「重要なのは、消費者の生活を楽にすることだ」として、「食品小売企業が、オンライン販売を選択するか、アマゾンのようなRMNでの販売を選択するかによって、消費者の買い物の仕方は変わる」と説明した。
「私たちが変えようとしているのは、消費者のブランドとの関わり方だろうか。買い物の仕方だろうか。それとも彼らを楽しませる方法だろうか」と、アムラム氏は問いかける。
マースでグローバルデジタルパフォーマンス責任者を務めるナターシャ・モリス氏も、シンガポールでCampaignの取材に応じ、RMNが独立したプロダクトになることもあり得るが、マースが注目しているのは、RMNをメディア戦略全体の中にどう組み込んでいくかだと語った。
数年前まで、プログラマティックは独立したプロダクトだったが、今ではメディアプランの中に統合されている、と同氏は指摘する。小売企業は、リテールメディアを単独で販売し続けたいのか、それとも総合的なデジタル施策に組み込むつもりなのか、それが課題だと付け加えた。
「多くのデマンドサイドプラットフォームが、小売データへのアクセスを可能にし、ブームを巻き起こしている。では、それらは今後どのような形に発展していき、その長期的な戦略的ビジョンはどうなっていくのだろうか」とモリス氏は語る。「どこかの時点で収斂していくと私は考えている。今は、商品販売のチームと緊密に連携し、メディアとしてどのような役割を果たせるのかを議論しているところだ」
マーケティングミックスにおけるリテールメディアの位置づけ
ほとんどのブランドは、既存の予算枠からリテールメディアに予算を振り分けているのが現状だ。だがマースは、販促予算を、全体のマーケティング予算に組み入れ、リテールメディアもその中の1つの大きな予算だと捉えている。
その全体予算の中で、マースが特に注目し、ますます投資を増やしているのがノンリニアTVだ。
「CTV(コネクテッドTV)とOTT(インターネット配信)が、私たちの予算の大きな部分を占めている。リビングルームでの体験、リラックスした環境でのメディア消費、クリーンな画質や音質での長編動画の視聴は魅力的だ」と、アムラム氏は説明する。「従来のリニアTVは衰退しつつあるが、CTVが新しいTVとなっている」
マースがRMNに求めるもの
RMNがマースのようなブランドを相手にメディアネットワークの価値をアピールするには、消費者行動の影響をより詳細に測定できるようにする必要がある。
「あらゆるブランドのあらゆるメディアプランは、毎年変わる。では、そのためにRMNが行っている改善は何か。それは主に測定に関わることだ」と、アムラム氏は言う。
「私たちはブランドメディアだけでなく、リテール、ショッパー、eコマースのメディアも持っている。マースではこれまで、ショッパーやセールスの予算は、ブランディング予算とは別だった。そのため、ショッパーやリテール、eコマースと、ブランディングとのあいだで予算の適切なバランスをとるため、全体最適化を図らなければならない。例えば、M&Msにはmyms.comがあるが、これはブランドメディアにeコマースを取り込むための手段のひとつになっている」(アムラム氏)
マースは、販売促進とブランディングの適切なバランスについては、主に店舗売上をベースに判断している。
「必要なのは、常に測定し、確認することだ。市場やブランド、それにブランドの成熟度によって、(このバランスが)変わることがわかっている。また、キャンペーンのサイズや時期によっても変わる。そのため、このバランスに対する感度を高め、適正なモデルを構築することが欠かせない。適切なバランスへの答えは、『状況に応じて対応する』ことだ」と、アムラム氏は語った。
モリス氏によれば、リテールメディアを活性化する鍵は、消費者が携帯電話やコンピューターを使うとき、あるいはテレビを見るとき、それぞれのデバイスでどのようにメディアと関わっているかを理解し、デバイスに応じた消費者との関わり方を見つけ出すことだという。
ブランドの予算は、チャネルを横断して、より流動的に投下される。RMNは、クリエイティブやメッセージを工夫し、測定結果の違いについても考慮する必要があると、モリス氏は説明する。
「ウォールドガーデンによる断片化のため、成果を測定することが難しくなっている。しかし、結局のところ、すべては消費者に帰結するはずだ」とモリス氏は言う。
「私たちに必要なのは、彼ら(消費者)の体験や彼らのブランドとの関わり方を理解することだ。オーディエンスを理解する取り組みには、常に改善の余地がある。消費者にサイロ化された体験だと感じさせてはいけない。私たちは小売パートナーや社内のチームと協力して、購買における消費者の目的や期待を理解することに努めている」
そのためのコラボレーションの一つが、メディアエージェンシーのエッセンスメディアコムとの協業だ。そしてそれはメディアがどのように目的の達成を支援し、強化できるのかを探る取り組みだ。また一部の小売パートナーは、世界各地で、自社のデータを広告入札に利用できるようにしており、マースはそのデータを活用して顧客体験の強化を図っている。
さらにマースは、自社のリテールメディアサイトで起きていることを可視化し、そこから学んだことを生かして世界中でアプローチを改善している。
エッセンスメディアコムでグローバルアカウントディレクターを務めるニック・ジェフリーズ氏は、消費者がブランドメディアとパフォーマンスメディアを区別していないにもかかわらず、マーケターは往々にして「ブランド対小売」や「ブランド対パフォーマンス」の議論に陥ってしまいがちだと指摘する。
「消費者は、オンラインで買うか店舗で買うかを必ずしも区別していない。ただ商品を買っているだけだ。したがって、全体的な測定が欠かせない。そうしなければ、オンライン販売だけを最適化することになってしまうかもしれず、それはで広告本来の目的を果たせない」と、ジェフリーズ氏はCampaignに対して説明した。
「販売に対して最適化を行うには、より広範な測定が欠かせない。リテールメディアチャネルが、リテールメディアの結果しか見ていないのは、業界として残念だ」