目黒圭佑
(OpenX カントリーマネージャー)
アドエクスチェンジ大手OpenXは、2013年に日本市場に参入。目黒氏は当時から同社事業を牽引する。
参入当時は国内業界のプログラマティック広告に対する認知度は低く、市場も国内企業数社による寡占状態だった。やがて多くの欧米アドテク企業が撤退する中、OpenXジャパンは目黒氏のリーダーシップのもと業績を伸長。現在はアジアで最大かつ最長のオフィスとなった。
同氏の顕著な功績は、コロナ禍にあって149件もの事業を確保したことだろう。新たなパブリッシャーの獲得、既存のパブリッシャーへのサービスのアップグレード、そしてエージェンシーへのプログラマティック広告の普及……。日本の4大広告エージェンシーとも良好な関係を築き、広告主のオーディエンス拡張、広告支出の価値最大化に貢献した。
また、カントリーマネージャーとして社内の合理化にも着手。各従業員の役割と責任を明確化し、「信頼の文化」を構築。その結果、従業員1人当たりの売上高、全社の生産性、各部署のモチベーションを向上させた。
さらに、アドテク界のサステナビリティーにも寄与。OpenXはCO2排出量の96%を削減し、環境保全プロジェクト企業「クライメート・インパクト・パートナーズ」が認証する世界初の「カーボンニュートラル・アドエクスチェンジ」となった。2020年のスコープ2(他社から供給された電気や熱の使用に伴う間接排出)削減量は、前年比50%に及ぶ。
同氏はOpenX入社以前、モバイル広告スタートアップ「ノボット」で広告ネットワーク「アドメーカー」を開発。2011年に医療系コンサルティング会社「メディヴァ」がノボットを買収すると、メディヴァのビジネス開発マネージャーに就任。KDDIのハウスエージェンシービジネス(HAB)立ち上げなどに尽力した。
杉山元規
(Droga5、アクセンチュアソング グループクリエイティブディレクター)
10年以上にわたりクリエイティブに携わってきた杉山氏は、アップルやマクドナルドといったグローバルブランドのブランディングと広告を手掛け、2020年にアクセンチュアソングに入社。Droga5(ドロガファイブ)の東京オフィス開設に尽力した。
アクセンチュアソングの市場参入を実現するため、これまでクライアントビジネスの改革・創造に注力。現在は40人から成る同社クリエイティブチームを統率し、クリエイティビティーとコンサルティングを掛け合わせた独自のアプローチを試みる。
手掛けた主要なプロジェクトの1つが、アマゾンミュージック。日本で後発となる音楽ストリーミングサービスに求められたのは、ブランドパーパスの再定義と若年層への直接的なアピールだった。同氏はアーティストが興味を抱くクリエイティビティーに焦点を当て、ファンがアーティストと一体になれる新たなプラットフォームを開発した。
また、Z世代をターゲットとした日本初のデジタル銀行「みんなの銀行」のクリエイティブディレクションを担当。新たなカスタマーエクスペリエンスを創出するアプリは広告賞を獲得し、昨年のカンヌライオンズのトークショーから招待を受けた(日本から招待された唯一のプロジェクト)。
社内では若手従業員のスキル向上・知識転換を図るため、ドロガファイブのグローバルネットワークを活用した「バディー・システム」を考案。日々のクライアント業務を他国で働くスタッフと共同でこなす取り組みを行う。さらにクリエイティブの採用プロセスも劇的に変え、社内初のインターンシップ制度を確立した。
ボランティア活動にも積極的で、新たなインクルーシブ教育を目指す「さやか星小学校」を2024年に開校予定。長野県の廃校を再利用したこのプロジェクトでは、クラウドファンディングやPR、デジタル戦略のノウハウを駆使。行く末は日本のみならず、アジアや世界への進出を目指す。
荒井信洋
(TBWA HAKUHODO シニアクリエイティブディレクター)
荒井氏はiPhoneが日本で初めて発売された年、広告界にデビュー。これは運命的符合とも言え、これまでモバイルを活用した数々の「創造的破壊」で、TBWAのみならず日本のクリエイティブワークの質の向上に貢献した。
2013年、ドミノ・ピザのために開発した革新的な宅配アプリは売上げを大きく伸ばし、スマートフォンを活用したビジネス成長の先例に。このプロジェクトで、同氏はモバイル広告大賞(日本)の最年少グランプリ受賞者となった。2016年には女性ヒップホップアイドル「リリカルスクール」と組み、「世界初のバーティカル(縦型)ミュージックビデオ」を発表。無名のアーティストが手掛けた楽曲は瞬く間に拡散し、広告費を一切使わず、わずか2週間で100万超の再生回数を記録した。
オーストラリア観光局のキャンペーン「GIGA SELFIE(ギガセルフィー)」では、モバイルによるクリエイティビティーの可能性を広げ、カンヌライオンズのゴールドを含めた数々の広告賞を獲得。他にも周到な戦略でTikTokを日本の主要メディアに押し上げ、ソニーをワイヤレスイヤホン市場のトップブランドにし、ペイディ(Paidy)を日本のフィンテック業界初のユニコーン企業(評価額10億ドル以上で、設立10年以内の非上場ベンチャー)に躍進させた。
13年間のキャリアで獲得した広告賞は150以上。過去2年間、ピッチで負けたことはなく、新たなクライアントとしてソニーやペイディ、S.RIDE(エスライド、タクシーアプリ)、コアラマットレスなどを獲得した。
未来の才能を育てることにも積極的で、TBWA HAKUHODOが主宰する「DISRUPTION SCHOOL(ディスラプション・スクール)」や広告業界誌「宣伝会議」の講座で自らの経験・スキルを次世代に語り継ぐ。また、子どもを持つ女性従業員が働きやすい職場環境をつくるため、自らの部署では午後6時以降の打ち合わせを禁じている。
リッシュ・ゴパル
(ビーコンコミュニケーションズ、ピュブリシスグループ 国内外コンテンツ担当責任者)
ボリウッド映画の脚本を書いたこともあるゴパル氏。ソーシャルメディアがコミュニケーションに及ぼす影響力の大きさを知り、当初は英国広告業界に活躍の場を求めた。
26歳の時にオグルヴィ・シンガポールのグローバルデジタルストラテジストに就任し、2017年に日本へ。使命はピュブリシスグループにソーシャルメディア部を立ち上げることだった。
日本市場に関する知識はほとんどなく、言葉もわからず、友人やクライアントも皆無の状態で、同氏が注力したのはデータ。まずはグローバルキャンペーンを日本向けにローカライズすることから始め、やがて日産インフィニティ、ミニ、マクドナルド、ABI(IT企業)といったブランドをクライアントに獲得。ピュブリシスジャパンのソーシャルメディア、インフルエンサービジネスの売上げを大きく伸ばした。やがて自身もコンテンツ担当責任者に昇進。
今年のピュブリシスジャパンの顧客維持率は100%。マクドナルドのツイッターページは530万人という日本有数のフォロワーを誇り、オーストラリア観光局のオーガニックリーチ(有料広告を使わないリーチ)は50%に達している。
コロナ禍はゴパル氏にとって試金石だったとも言えよう。20社以上のクライアント業務をソーシャルメディアにシフトする作業に追われたが、ほぼひと晩で達成。どのクライアントもこれまで通りの戦略を支障なく継続した。
現在、同氏の部署には22人のスタッフがいるが、今年の従業員定着率は90%。目標に掲げるのは相互の信頼性と透明性を高めることだ。部署の誰かが問題を抱えれば、全員で解決するのがモットー。それが仕事上の課題でも、個人的課題でも分け隔てはしない。
日本ではデジタルやクリエイティブを担うのは主として男性だが、「ベストの人材」にこだわる同氏の部署は3分の2が女性。育成にも熱心で、チーフトランスフォーメーションオフィサーの小山聡介氏と共に従業員のための研修講座を主宰。コンテンツやメディア、データ、テクノロジーなどに関する最新知識の共有に余念がない。
「40 Under 40」の全受賞者はこちらから
(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)