Alfonso Asensio
2025年3月13日

AIはあなたのブランドをどう考えているのか? 新たな測定法「シェア・オブ・モデル」

デジタルマーケティングの世界に転機が訪れている。鍵を握るのは、検索エンジンに依存しない全く新しいアプローチ、「シェア・オブ・モデル」だ。

AIはあなたのブランドをどう考えているのか? 新たな測定法「シェア・オブ・モデル」

人工知能(AI)に対する概念は、長らく我々の社会的潜在意識の中に埋め込まれてきた。それは映画『メトロポリス』(1927年)に登場するロボット人間「マリア」から、『2001年宇宙の旅』(1968年)のコンピューター「HAL 9000」に至る系譜を見れば明らかで、オープンAIが2022年末にChatGPT(チャットGPT)を発表するずっと以前から、我々はAIがどのような進化を遂げるのか、常に好奇心を抱いてきた。そしてチャットGPTがユーザーフレンドリーなチャットインターフェースを実現することで、AIによる大規模言語モデル(LLM)というテクノロジーが一般の人々にも利用可能になった。

しかし、LLMを通じて我々が今目の当たりにしているAIの影響力は、「文化の原型」に近いと私は考える。その原型とは、古代ギリシャの「デルフォイの神託」だ。

古代ギリシャでは、神託は神の声として崇拝され、神聖な洞察・予言とみなされた。謎めいたデルフォイの神託は個人や国家を導き、大きな力を発揮したのだ。一般の人々は、神託は神の知識とミステリアスにつながっていると考え、デルフォイの神託を特に重視した。世俗的に言えば、宗教的信仰・儀式を利用して人々を指導し、社会秩序を維持する「機関」がデルフォイの神託だったのだ。神託は神々との対話や、超自然的な知識体系へのアクセスの結果ではなかったが、利用できるデータ(政治の現状や経済・社会のパターンなど)を駆使し、新たな見識や選択肢を請願者に示した。

つまり、AI と同じなのだ。

今日の急速に進化するデジタル環境では、LLM は単なるツールではなく、情報と意思決定の強力な裁定者と言えよう。LLMは今や神託と同じように、人のインタラクションに多大な影響を及ぼすまでになっている。そして新たな時代のオンラインマーケティングでは、ブランドがどう表現され、認識されるかについて直接的な発言力を持っている。

「キーワード」から「認知度」へ

デジタルマーケティングの世界では10 年以上にわたり、ブランドはグーグルなどの検索エンジンで露出度を高めるため、ウェブサイトの最適化に努めてきた。しかしチャットGPTやグーグルのGemini(ジェミニ)、メタの Llama(ラマ)、アンソロピックの Claude (クロード)といった高度な LLM の出現によって、その戦略は書き換えられつつある。こうしたシステムは膨大なデータセットと構造化されたインプット、そして高度な感情分析を活用し、ユーザーの質問に直接的に答える。その際、従来の検索結果を素通りすることもしばしばだ。

これは、ブランドにとって極めて重要な変革になる。ユーザーが見つけやすいキーワードへの注力ではなく、AI システムがブランドをどう認識し、どうユーザーに推奨するかが新たな課題となるからだ。

新たな測定法、「シェア・オブ・モデル」

この大変革に対応するには、ブランドプレゼンスを改めて理解しなければならない。それに欠かせないのは「シェア・オブ・ボイス(SOV)」や「シェア・オブ・ サーチ」ではなく、様々な AI システムが見たブランドの影響力を測定する「シェア・オブ・モデル」だ。このアプローチは従来の検索エンジンの結果を考慮するだけでなく、 チャットGPT からジェミニ、リマに至るまで、あらゆるAI システムがどのようにブランドを理解しているかに着目する。

このアプローチは極めて重要だ。なぜなら、これらの AI プラットフォームは毎月数十億という人からの質問に答え、消費者の選択に直接的影響を与えるからだ。コンテンツの収集・要約、製品の推奨……そして消費者行動全般にまで影響を及ぼす。例えば、ジェミニは複数のグーグル製品に組み込まれているため、AI主導のインサイトは 20 億人を超えるユーザーに届く。また、メタのアルゴリズムはフェイスブックやインスタグラム、メッセンジャー、ワッツアップで重要な役割を果たす。

ウェブページのインデックスに依存する従来の検索エンジンとは異なり、AI モデルはテキストや画像、動画といった様々なデータインプットを取り込むことで答えを作成する。したがって新しいデジタル界におけるブランドの認知度は、ウェブサイトの最適化に限られなくなった。代わりに求められるのは、ソーシャルメディアや動画コンテンツ、インフルエンサーとのコラボレーションなどを包括する頑強なエコシステムだ。

今日のデジタル環境で成功を収めるには、あらゆるオンラインチャネルでブランドプレゼンスを入念に管理し、影響力を増すAI システムに確実に認知させ、ユーザーに推奨させることが基本となり、必要不可欠となる。

AIの認識プロセスを理解する

ブランドが競争力を維持するためには、「リバースエンジニアリング」でAIの認識プロセスを理解しなければならない。例えば、高度な分析と API 主導のインサイト活用で、LLM がどのように競合他社や市場動向を評価するのか調査をする。AIにポジティブな推奨をさせるには、どのような要素が必要か −− それを分析することで、メッセージやコンテンツを効果的に修正できるのだ。

先進的な企業の中には、すでに AIからのフィードバックをクリエイティブや広告戦略に組み込んでいるところもある。様々な広告フォーマットや製品説明、ビデオコンテンツを発表前にAI モデルでテストし、どのような要素が AI から最も好意的な反応を引き出すか判断するのだ。

AI 主導の競争環境に備える

AI 主導のインサイトがデジタル市場で主流になるにつれ、競争環境は劇的に変化しようとしている。以下、ブランドにとって有効性の高い新たな留意点を挙げる。

●  「ウォールドガーデン」効果 : AI システムは往々にして自社のプラットフォームのコンテンツを優先する。例えばグーグルのAI は ユーチューブの動画を、メタのAIはフェイスブックやインスタグラムの投稿を優先する場合が多い。

●  コンテンツ作成 :  AI はテキストや画像、動画といった様々なコンテンツをシームレスに統合する。つまり、マーケターはこれら全てのフォーマットで適切に機能するコンテンツを作成しなければならない。

●  クロスチャネルパフォーマンス :  特に日本のような洗練された市場では、グローバルブランドはあらゆるプラットフォームで戦略的プレゼンスを発揮することが極めて重要になる。単に「存在」しているだけでは不十分で、ブランドはAI がデータに利用するプラットフォーム上で優れたパフォーマンスを発揮しなければならない。

今こそ、新たなアプローチを

古代のデルフォイの神託は、市民の考え方を形成した。宗教的・政治的に多大な影響力を及ぼしたため、王や政治家、哲学者などは寄付や政治的圧力などの手段を用い、神託を覆そうとした。

同様にAI も、現代社会で多大な影響力を持ち始めている。特にオンラインマーケティングでは、ブランドはシェア・オブ・モデルの向上に注力すべきだ。オンライン上のブランドプレゼンスを AI が求めるものと一致させれば、将来のマーケティングで優位性を保つことができる。急速に変化する現在の環境で、AI に適応できるブランドは成功を導き、適応できないブランドは顧客との関係性維持に苦労することになろう。


アルフォンソ・アセンシオ氏は、ジェリーフィッシュ ジャパンのマネージングディレクターを務める。

 

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