音声チャットアプリのClubhouse(クラブハウス)はまだベータ版だが、流行のソーシャルメディアプラットフォームとして存在感を増している。有名人やテクノロジー業界のエリートがユーザーに名を連ねており、その盛り上がりは明白だ。しかし、ブランドはどうすればそうした盛り上がりを利用し、定量的な測定結果を得られるだろうか?
答えはあまり明快ではない。Clubhouseは測定ツールを提供していないため、ほかのプラットフォームで成果を定量化するために使われているソーシャル指標が通用しない。とはいえ、Clubhouseを活用することや、効果を測定することが不可能というわけではない。
Clubhouseを利用するメリットの1つは、シンプルにアーリーアダプターになることだ。特にテクノロジー企業にとっては、アプリ上でプロフィールを確立し、早期にフォロワーを獲得するチャンスとなる。ブランドや個人の場合、それをソートリーダシップとなる機会と捉えればいい。
デイ・ワン・エージェンシー(Day One Agency)の共同創業者でCEOのジョシュ・ローゼンバーグ氏は、「私たちはいつもクライアントに、オーディエンスがいる場所に行くよう助言している」と話す。Clubhouseで会話に参加したり、会話を促したりすることで、ブランドは「オーディエンスをエンゲージし、新しいやり方でコミュニティとつながる」ことができる。
たとえ従来の測定ツールを使用できなくても、専門家たちが推奨する代替手段がある。
ハンター(Hunter)のパートナーで、ソーシャルおよびデジタルメディアプラクティスを率いるドネッタ・アレン氏は「Clubhouseはリーチが限られ、拡散もせず、コンテンツも残らず、測定ツールも欠如している、にもかかわらず」ブランドは前向きだと話す。
「成果を測定したければ、ルームに入った人数、セッション中にスピーカーになった人の数や会話の長さなど、基本的な指標を使うことができる」とアレン氏は補足する。「しかし、ブランドにとってのチャンスはむしろ、ブランドの熱意を示すこと、革新的なプラットフォームと歩調を合わせること、志を同じくするパートナーや顧客を見つけることにある」
ターゲット顧客との距離が近いことも貴重だと指摘する専門家もいる。
MSL米国法人のデジタル担当シニアバイスプレジデント、トム・ポンペイ氏は「ブランドとしてエンゲージしたいオーディエンスを選択できる」と話す。「プラットフォーム上に広告を出すことや、他のプラットフォームにClubhouse上での会話を持ち出してコンテンツを作ることはできないが、消費者や従業員と直接話すことで、ブランドに関する貴重な知見を集めたり、コミュニケーションしたり、アプローチやメッセージなどのマーケティング戦略をテストしたりできる」
多くのジャーナリストがClubhouseを利用しており、それもチャンスにつながる要因だ。ローゼンバーグ氏は、会話を聞くためルームに立ち寄る記者やインフルエンサー、ソートリーダーなどに注目することを提案している。もし会話がツイッターなどのプラットフォームやほかのメディアで紹介されれば、それも成功の指標になる可能性がある。
「そこでの会話のインパクトがソーシャルメディアへの投稿やメディアでの記事につながることもある。そして、これは測定可能だ」とポンペイ氏も同意する。
PRのプロたちは実際、Clubhouseで行ったアクティベーションの成果としてこの点に着目している。クレンショー・コミュニケーションズ(Crenshaw Communications)のCEO、ドロシー・クレンショー氏は、ある顧客がClubhouseでルームをホストした事例を挙げた。彼は成果を測定するため、参加したリスナーの人数、メディア関係者の有無を調べ、会話の長さと質も考慮に入れたという。
PR企業オグルヴィ(Ogilvy)の香港法人もClubhouseで顧客のためにルームをホストしてきた。
コンテンツ責任者のレイ・ラム氏とMDのクララ・シェク氏は「私たちはClubhouseでの参加レベルと会話の質、そして、Clubhouseイベントとそれに関連する話題を紹介した複数のメディアでの露出の複合的影響に基づいて効果を測定した」と説明する。
「ルームへの同時参加者数はピーク時で764人になり、ブランドが主催するClubhouseのライブイベントとしては最大級だった」とオグルヴィは報告している。「また、我々の取り組みをテーマにしたさまざまなケーススタディやイベントに関するオンライン記事も目にした」
Clubhouseは現在ベータ版なので、多くのマーケターにとってはまだ代替的な測定で十分だが、より使いやすい測定ツールが登場するのも時間の問題かもしれない。
「Clubhouseは有料化も視野に入れているので、ブランドによる利用を広げるには、指標が利用できるようになると同時に、参加規模を拡大する能力が不可欠になるだろう」とアレン氏は指摘する。
アレン氏の見方を補足する形で、Mブース(M Booth)のデジタル担当シニアバイスプレジデント、マット・ハンツ氏は「Clubhouseは収益化計画の一環として、測定に関してブランドとの連携を強化していく可能性が高い」と予想する。
「測定のタイプを想像するのは難しくない。おそらく他のソーシャルプラットフォームで用いられている指標と同様なものになるからだ。具体的には、リスナー数、平均聴取時間、誰が聞いていて、どれくらい影響力があるかといったデータ、リスナーは議論に反応しているか、あるいは受け身で聞き流しているだけかを示すエンゲージメント指標などだ」ハンツ氏は続ける。「参入障壁がとても低いので、ブランドは測定についてあまり心配していないと思う」
PR企業とその顧客は長年、測定技術と専門知識を磨いてきたが、Clubhouseで成功を目指すブランドにとっては、指標が存在しないことは必ずしも敬遠する理由にはならないだろう。
「測定について議論されているのは確かだが、大きな障害になっているとは思えない」とハンツ氏は指摘する。「Clubhouseを利用しているブランドがまだ少ないのは、おそらく単なる怠惰か、実験を行うことへの意欲の欠如によるものだろう。コロナ禍以降、全般的に企業のリスク許容度が下がっているように思う」
クレンショー氏も同意見で、自身や顧客にとって指標が存在しないことは問題になっていないと述べている。
「現在、私たちは予行演習を行っているようなものだ。ブロードウェイの舞台に立つことを目指し、オフ・ブロードウェイで力を試すのに近いだろうか。未熟な部分を修正する必要があるので、今はまだリスナーがそれほど多くなくても構わない」
Clubhouseがまだオフ・ブロードウェイの段階だとしても、企業幹部が専門知識を共有する手段のひとつになっていることは間違いない。クレンショー氏の顧客であるハイテク企業にとって、Clubhouseは、資金調達やリーダーシップ、企業文化、職場の未来といったテーマについて知識を共有するプラットフォームになっているという。
「Clubhouseには、特定のトピックに精通しており、ルームをホストして、自社のクラブ(トピックに基づくグループ)を立ち上げるのにも適した複数の顧客がいるので、積極的に取り組んでいる」とクレンショー氏は締めくくった。