英市場調査会社ハウス51(house51)のイアン・マレー(Ian Murray)氏と、ニュース出版社のリーチに所属する筆者は、過去3年間に、複数の調査結果を発表し、私たちの業界と一般の人々の間にある心理的および行動的な相違を明らかにしてきた。
調査で明らかになったのは、一般の人々の大半が、いわゆる「ホリスティックな(全体的な)」思考スタイルを有するということ。つまり、世界を関連のある複合的な円と捉え、コンテキストを重視する傾向が強いということだ。
それに対し、私たちの業界は世界を一本の直線として捉え、個々に重きを置き、世界を「分離的で二項対立的」なものとして考える「分析的な」思考スタイルに傾きがちだ。
往々にして無自覚な、こうした違いにより、業界で下される意思決定は、自分たちがまさに影響を与えようとしているその人々と相容れないものになりがちだ。そして、それが広告の効果が徐々に薄れつつある一因になっていると、私たちは主張してきた。
ブランドセーフティをめぐる意思決定がその証拠だ。ブランドセーフティは2017年に一気に最重要課題となった。この年、一部の有名ブランドの広告が、不用意にもテロリズムや憎悪をあおるようなYouTubeコンテンツの横に表示されていたことが発覚し、ほどなくして、ソーシャルメディア全体でも同じ問題が深刻化していることが明るみになったからだ。
思うに、こうした憂慮すべき事態に対する業界の反応こそが、直線的思考の好例だろう。すべてのサイトは平等だという前提が、無神経なブランドセーフティツールを導入する状況を招いた。そうしたツールには繊細さや複雑さのかけらもない。
業界内ではこういった問題への取り組みが続けられているが、テクノロジーが進化し、新たなプラットフォームが誕生し続ける限り、オンラインの安全性をめぐる問題がすぐに消えることはないだろう。
ブランドが広告の掲出先を気にかけるのは、まったくもって正しい。
「In Safe Hands」と題した私たちの最新調査では、英国に住む成人の87%が、ブランドは自社のオンライン広告が表示される場所に注意を払うべきだと回答した。
しかし、業界が現在扱う範囲が広すぎるのは明らかだ。暴力的なコンテンツを目にする可能性がある場所を回答してもらったところ、ソーシャルメディアが52%、ユーザー生成コンテンツ(UGC)動画サイトが44%だったが、デジタルニュースサイトは9%にとどまった。この傾向は、過激思想のコンテンツやショッキングなコンテンツに関してでも同じだった。
これは誰にとっても意外なことではないだろう。ソーシャルメディアとUGC動画サイトがどれほど安全でないかということを誰もが知っている。人々も愚かではないし、そうしたプラットフォームが厳しい規制を受けていないことや、コンテンツの編集や選別を避けてきたことも知っている。
さらに留意すべきは、人々がコンテンツとコンテキストの関係について、業界人よりも複雑な見方をしていると思われることだ。
英国成人の場合、ソーシャルメディアやUGC動画サイトに広告掲載しているブランドと比較し、ニュースサイトに広告掲載しているブランドの方が、質や信頼性、確実性といった価値観を連想させるということに、同意する確率が2倍以上高かった。
そこで率直にありのままを伝えようではないか。ブランドセーフティはこれまでも、そしてこれからも、ソーシャルメディアとUGC動画サイトの問題なのだと。いくぶん皮肉なことではあるが、最近、フェイスブックやYouTube、Twitterなどが、ドナルド・トランプ米前大統領を自社プラットフォームから追放したことによって、自らそれを証明した。彼らでさえ自社のコアプロダクトがきわめて危険に――ブランドにとってだけではなく、民主主義にとっても危険に――なり得ると認識しているのは明らかだろう。
ブランドセーフティへの画一的なアプローチは、ブランドにとって重大な影響がある。
そうしたアプローチのせいで、ブランドが利用できる良質な広告インベントリが大幅に減少することとなった。それは本来なら一流のデジタルパブリッシャーから得られたはずのインベントリだ。なぜ減少するのだろうか。パブリッシャーのコンテンツがブランドにとって安全ではないという証拠など一切ないのに。
打開策として、「マンティス(Mantis)」のような高性能なブランドセーフティツールも存在する。マンティスはリーチが開発したツールで、IBMの人工知能「ワトソン」による機械学習を活用して、「NHS(英国民保健サービス)」「queer(クイア)」「gay(ゲイ)」「black(黒人)」といったキーワードを含む記事が不適切にブロックされるのを防ぐことができる。これにより、今も多くのブランドやエージェンシーが、パブリッシャーやソーシャルメディアに適用している、精度が低く大雑把な選別手法を改善できるだろう。
私たちの調査では、英国内でリーチが運営するニュースサイトに掲載されたさまざまなコンテンツレート(内容の過激度合い)の記事が、それぞれ広告に与えた影響をテストした。その結果、レートの高いコンテンツと共に広告が表示されても、出稿したブランドに悪影響は一切なかったことがわかった。ユーザーは、どのような種類のコンテンツとともに広告を見ようとも、広告主に対する意見に変化はなかったのだ。
回答者のコンテンツへの反応をめぐる感情を分析したところ、高レートのコンテンツと否定的な感情の間には関連性が見られたものの、その感情が広告主であるブランドにまで波及することはなかった。
広告がどのようなコンテンツと共に表示されるかを過度に気にするよりも、広告が表示される場所や環境とブランドの評判との関係に、より一層留意すべき時が来ている。一般の人々は安全ではないプラットフォームと良質なニュースパブリッシャーを区別できる。ならば、私たちの業界でもそれができてしかるべきではないか?
アンドリュー・テンザー(Andrew Tenzer)氏はリーチの市場インサイトおよびブランド戦略担当ディレクター。