Cookieと広告IDが姿を消すことは既に決まっている。マーケターは、特定の消費者に広告を表示するために、10年以上にわたってこれらを用いてきたが、アプリやウェブサイトで普及したこれらの使用は間もなく停止される。グーグルはサードパーティCookieの廃止を再延期したではないかという反論もあるだろうが、グーグルのメッセージは極めて明確であり、代替ソリューションを見つけるための競争はすでに始まっている。
さらに、現在のマクロ経済の停滞や地政学的な混乱を考えるなら、マーケターは、2023年以降も実行可能なデジタル広告戦略の探求に多くのリソースを割くのが賢明だろう。そして、最適な道筋は、パーソナライズ広告からペルソナ・ターゲティング広告へのシフトとなるはずだ。
Cookieと広告IDの消滅に先手を打つ
アドテク関係者は今、かつてないほどの困難に直面している。EU一般データ保護規則(GDPR)や、それに類する法令が次々と制定されたことで、世界中で規制が強化され、サードパーティCookieと広告IDの廃止など、技術的な状況も刻々と進化を続けている。そして、ユーザーが一斉にオンライントラッキングを拒否するなど、プライバシー意識にも変化が起きている。このような状況の中で、業界がCookieレス、IDレスモデルへとシフトしていくことに肯定的か否定的か、そのどちらを選ぶかで、アドテク関連企業を大きく次の3つのグループに分類できるだろう。
当然だが、第1のグループはアマゾン、フェイスブック、グーグルのようなウォールドガーデン企業とラザダ(Lazada)、ショッピー(Shopee)、ザロラ(Zalora)のような大手小売企業で構成される。消費者の同意を得た豊富なファーストパーティデータにアクセスできるおかげで、このグループは今後も成長を約束されている。特に、台頭するリテールメディア分野においては、重要なプレーヤーであり続けるだろう。
第2のグループは、Cookieや広告IDを使ったキャンペーンを継続している旧来のプレーヤーだ。今も相当な市場シェアを誇るが、今後の変化に適応できなければ、いずれ斜陽化していくだろう。広告IDが消滅するのは、「もし」ではなく、「いつ」という問題だからだ。まだ、こうしたキャンペーンの実施に同意するブランドもあるが、個人情報の利用に対する圧力は非常に大きいため、ブランドの意思決定者が、メディアエージェンシーに対し、CookieやIDに依存するキャンペーンを打ち切るよう求めてくることも想像に難くない。
Unified IDの関係者もこのグループに属する。サイロ化され、相互運用できず、スケールアップできないエコシステムの中で、IDベースの技術を再現しているだけだからだ。また、コンテクスチュアルターゲティングやセマンティックターゲティングといった技術で容易に代替できように見えるかもしれないが、そうだとしても、ユーザーの関心を理解するにはまだ不十分であり、広告主が求めるようなニュアンスの差別化は実現できないだろう。
しかし、業界の進化に合わせ、将来を見据えたソリューションを開発している第3のグループも存在している。このグループは、ユーザーのプライバシーを尊重し、CookieやIDに依存しない新世代の技術をサポートするオープンインターネットのプレーヤーたちで構成されている。
ペルソナ・ターゲティング広告は成長への新しい道
考えてみれば、行き過ぎたパーソナライゼーションは、オンライン広告の真の目的を逸脱していたのではないだろうか?商品の認知度向上を目指すなら、選ばれた少数だけをターゲティングすることにこだわるべきではない。例えば、自動車ブランドが最新の電気自動車を売り込むため、環境を重視する消費者だけにリーチしようとするようなことだ。
それよりも、電気自動車を購入する可能性がある10万人、20万人をターゲットにして、それぞれの人にあったコンテンツ、広告枠でエンゲージした方がはるかに効果的だ。つまり、出稿先を自動車やクリーンカーに関する出版物やブログに限定しないということだ。もっと将来を見据えた代替策が不可欠なのであり、すでにペルソナ・ターゲティングを活用することができるのだから。
ペルソナ・ターゲティングは、ユーザーの個人IDではなく、ペルソナ(類型化されたモデル)に基づいて行われる。また、ペルソナは、ユーザー自身の視聴行動ではなく、同じペルソナをもつユーザー群の視聴行動に基づいて生成される。この類型化モデルは、消費者のデジタル行動に関する深いインサイトを提供する基礎データから構築されており、何百万ものペルソナと広告枠が定義されている。その精度を保証するために、大規模なユーザーパネルを対象とした調査やアンケートを通じて絶えず改良され、更新されている。継続的にキャンペーンを実施し、そのパフォーマンスデータを手元に置いておけば、フィードバックループを作り、ターゲティングの精度を維持することもできる。つまり、ペルソナ・ターゲティングのシステムこそ、消費者のプライバシーを尊重しながら、高い精度を保証できる唯一の手法だということだ。
CookieとIDの廃止が再び延期されることに賭けるのは、リスクの高い行動だ。ペルソナ・ターゲティングという将来を見据えた消費者フレンドリーなアプローチが登場している。広告主も、この新しいCookieレス、IDレス技術を上手く利用するようになるだろう。業界は、IDベースの広告をやめ、顧客のプライバシーを優先すれば、豊かな未来に向けた夢のようなシナリオを描くこともできる。それは、ブランドからパブリッシャー、ユーザーまで、すべての関係者に利益をもたらすだろう。
ナイル・ホーガン氏はアドテク企業オグリーのAPAC地域担当マネージングディレクター。