人類史上、「最も暑い年」となった今年。気候危機は一段とエスカレートし、その影響は世界各地でますます深刻化している。その大きな責任を負っているのが大手化石燃料企業だ。にもかかわらず、シェルやBP、シェブロン、サウジアラムコなどは今も大手広告・PR会社の助けを借り、グリーンウォッシングに余念がない。
11月30日からUAEのドバイで開かれていたCOP28は、12月12日に閉幕した。世界最大、かつ最も重要とされるこの気候変動対策会議には世界のリーダーを初めとする7万人が参加。差し迫った危機を克服するために、具体的目標が話し合われた。
それにしても、ドバイが開催地に選ばれたのは実に奇妙なことだ。ドバイ市民は二酸化炭素を大量に排出する贅沢なライフスタイルを享受する。今回の議長を務めたUAEのスルタン・アル・ジャベル産業・先端技術相にしても、アブダビ国営石油会社(ADNOC)のCEOを兼務する。同氏は、「化石燃料の廃止が地球温暖化の抑制につながるという主張に科学的根拠はない」と発言し、強い批判を浴びた。
英ガーディアン紙によれば、ジャベル氏は11月下旬に開かれたNPO団体「シー・チェンジズ・クライメート(SHE Changes Climate)」主催のカンファレンスに出席。「化石燃料を段階的に廃止すれば、産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えられるという説には科学的根拠も、明確な道筋もない」と言い放った。
さらに輪をかけるように、「石器時代に逆戻りしたくないのなら、化石燃料の段階的廃止で持続可能な社会経済の発展を達成できるロードマップが必要だ。是非、それを私に示してほしい」とも。
化石燃料の段階的廃止・削減についてはいまだ合意がなく、各国が恣意的に解釈することで事態は混迷している。二酸化炭素回収・貯留技術(CCS)といった不確定要素も考慮せねばならず、なお一層複雑だ。
PR会社のグリーンウォッシング
広告業界の気候アクティビストグループ「クリーン・クリエイティブス」は、COP28のドバイ開催に広告・PRエージェンシーが中心的役割を果たしたと主張する。つまり、これら企業がUAEの石油・ガス会社と癒着しているというのだ。
「広告・PRエージェンシーが仕掛けたグリーンウォッシングがなければ、UAEはCOPを開けなかったはず」と同グループのエグゼクティブディレクター、ダンカン・マイゼル氏は語る。
同グループによる調査で、ADNOCとその傘下にある再生エネルギー企業「マスダール」が多くの広告・PRエージェンシーと11件に及ぶ密約を締結していたことがわかった。会議までの準備期間中、これらの企業と主催者側が内密にやり取りを重ねていたという。
「米当局の資料で、マスダールが米PR会社ファースト・インターナショナル・リソーシズと契約を交わし、UAE政府やジャベル氏、COP28に対する西側での評価を高めるよう依頼していたことがわかっています。批判を未然に防ぎ、西側からより多くの支援を取り付けるよう要請していたのです」。こう話すのは、クリーン・クリエイティブスの調査ディレクター、ナヤンタラ・ダッタ氏だ。
UAEとCOP28のプロモーションを担ったPRエージェンシーはAPCO、ASDA’A BCW(UAE)、CTグループ、エデルマン、FGSグローバル、ファースト・インターナショナル・リソーシズ、フライシュマン・ヒラード、オムニア、テネオ、ヴィオラ・コミュニケーションズ(UAE)の計10社。
また、オール・アバウト・ブランズ、ブーピン、ブランドラウンジ(以上UAE)、フュージョン5、ヒル・アンド・ノウルトン、マーケッティアーズ、メマック・オグルヴィ 、ピュブリシス・サピエントMENAの8社はマスダール、ADNOC両社と9件の契約を締結。2021年から23年にかけて、他の化石燃料企業とも18件に及ぶ契約を交わしていた。
COP28とマスダール、ADNOC のPRを担ったこれら18のエージェンシーは、2021年から23年にかけて64件にわたる化石燃料関連の契約を締結(26件はUAE及びCOP28と、38件はマスダールやADNOCなどの化石燃料企業と)。
「今年6月、マスダールは『パイオニアリング・エネルギー』と銘打ったキャンペーンを発表した。その目玉はインドネシアとウズベキスタンでの再生可能エネルギープロジェクトです。マスダールはこれまでアジア諸国からの信頼が厚い。マスダールシティは2009年に国際再生可能エネルギー機関(IRENA)の本部を誘致したのですが、特にそれ以降、アジアでの支持は強くなった。この誘致活動はエデルマンが担いました。同社がアジアの多くの国々で実地調査を行い、当局に働きかけていたことは米当局の資料でわかっています。ネパールやアルメニア、アフガニスタン、モンゴル、アゼルバイジャン、バングラデシュ、韓国、ブルネイといった国々です」(ダッタ氏)
喫緊の課題
COP28の開幕セレモニーで、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は化石燃料企業を鋭く批判した。「石油やガスの製造・開発メーカーは壊滅的な気候変動を防ぐため、化石燃料の完全な段階的廃止を達成し、1.5度以内に気温上昇を抑える取り組みと協調していかねばならない」。産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるという目標値は、2015年のパリ協定で合意に至った。それを達成するためには、世界全体の化石燃料の消費量を2030年までに43%、2050年までに75%以上削減しなければならない。
こうした目標にもかかわらず、COP開催国のUAEにはコンプライアンスを推進する計画が一つとしてない。逆にADNOCは2027年までに石油とガスの生産量を75億バレルまで増やす計画で、そのために1500億ドルの投資を予定する。国際エネルギー機関(IEA)が掲げる2050年までのネットゼロ達成のためには、ANDOCは生産量をその10分の1に抑えねばならないのだ。気候対策に逆行するUAEのイメージを美化し、大衆をミスリードしているのはPRエージェンシーのキャンペーンに他ならない。
マイゼル氏は以下のように話す。「今年初めて、COPに関わるあらゆるエージェンシーの動向を追跡した。その結果、COPを動かす石油業界のCEOたちがPRや広告を最大限に利用し、途方もない欺瞞を働いていたことが明るみに出た。ADNOC傘下のマスダールがCOP28をPRすること自体、異常なことです。前代未聞と言えるでしょう」
「気候変動を生んでいる張本人たちをグリーンウォッシングでかくまえば、こうした会議で議論すべき課題がうやむやになってしまう。いま早急に克服しなければならないのは、化石燃料による汚染なのです」
(文:ニキータ・ミシュラ 翻訳・編集:水野龍哉)