DANは2016年、米データマーケティング会社「マークル(Merkle)」を買収。ギスラー氏はその際にDANの一員となり、今回新設されたグローバルCOO(チーフ・オペレーティング・オフィサー)に任命された。
今後は持続可能なビジネス成長やより価値の高いソリューションの提供など、DANが課題として掲げる改革を牽引していく。
当初はマークルのCOOとなり、その後DANアメリカス(南北米大陸)のCOOを務めた同氏は、今回の人事で本社取締役に。現在、取締役会議長兼CEOは、病気療養から段階的復帰を目指すティム・アンドレー氏に代わり、電通グループ代表取締役社長執行役員の山本敏博氏が務めている。
新COOの任務についてギスラー氏は、「クリエイティブ、CRM、メディア、ブランドという我が社の主要な4分野におけるサービスの統合化を進めるため、各事業のリーダーたちと協働していく」と話す。
「組織の中の各部署の役割をもっと明確にし、クライアントとより密に仕事を行っていきたい」
現在、DANのクリエイティブ部門はジーン・リン、CRMはデヴィッド・ウィリアムス、メディアはピーター・ホイブームの3CEOが管轄する。全員、DANの取締役だ。
傘下のブランドは、カラ(Carat)がメディア、マークルがCRMといったように、各々が担う様々な事業の一つでしか特徴づけられないのが現在の弱み。
「これらのブランドをより戦略的・統合的にまとめていけば、クライアントにより良いサービスを提供できるだけでなく、DAN自体の効率性の向上にもつながります」
「例えばマークルには、競合他社との明確な差別化要素がある。中でもクリエイティブやメディア、CRMなどの顧客戦略の柱となる、統合的な価値提供がその一つ」
「カスタマー・リレーションシップ・マーケティングの専門知識を持つパフォーマンス・マーケティング・エージェンシーは、重要な課題に対応できる。例えば、どのようにキャンペーンのプランを立て、最先端テクノロジーを使って活性化させるか。さらに、それをどのように独立性と価値の高いサードパーティデータと融合させるか、といったことです」
先週DANは、マークル・アメリカス社長のクレイグ・デンプスター氏が6月よりグローバルCEOに就任すると発表した。これはマークルの完全子会社化の発表に続く措置だ。マークルの売上高は2016年からほぼ2倍となり、2019年は前年比で21.2%増だった。
新型コロナウイルスのパンデミックという目下の状況でも、DANが最優先するのは「コミュニティー、従業員、クライアント」とギスラー氏。
「多くの広告主のニーズが劇的に変化しました。いくつかの企業はイメージやブランドメッセージを強化しているので、それは我々にとってビジネスチャンス。その一方、新型コロナによって大きなダメージを受けた業界はメディア支出を削減していますが、CRMは強化を図っています」。基本的なデータで個人へのより効果的なターゲティングができないか、DANのクライアントからのマークルへの問い合わせは少なくないという。
ギスラー氏は4年前に広告界に身を投じるまで、アクセンチュアのテクノロジー・IT部門に28年間在籍した。「DANの持つ潜在力の幅広さと深さに感銘を受けています」。
つい最近、DANのグローバルCEOに就任したウェンディー・クラーク氏など、「他の取締役と協力して、この業界に新たなビジョンや価値提供を生んでいきたい」。
(文:リンゼイ・スタイン 翻訳・編集:水野龍哉)