クリエイティビティーの質の高さにおいて、業界随一という呼び声が高いDroga5。サーチ・アンド・サーチやピュブリシスワールドワイドでCCO(チーフクリエイティブオフィサー)を務めたオーストラリア出身のデビッド・ドロガ氏が、2006年にニューヨークで創設。2019年にはアクセンチュアインタラクティブの傘下に入った。東京に続いて、年内にはブラジルと中国への進出も図る。
東京オフィスのCCOに就任したのは、最近までTBWA\HAKUHODOのグローバルクリエイティブディレクターを務めていた浅井雅也氏。ジェネラルマネジャーにはニューヨークオフィスでチェース銀行やオールステート保険といった重要クライアントを担当したクリス・バージェス氏、ストラテジーリード(戦略責任者)には上記2社やフェイスブックなどの戦略を担ったダン・イング氏が着任した。
「世界のクリエイターにとって、日本は長年インスピレーションの源でした。日本には革新性や独自のアイデア、品質の高さで知られるブランドが数多くある」と語るのは、クリエイティブチェアマンも務めるドロガ氏。「次なる成長に向けた拠点を日本に構えるのは、我々にとって必然的なことなのです」
アクセンチュアインタラクティブの成長市場担当責任者フラビアーノ・ファレイロ氏は、「我々はまったく新しい価値を創造するエージェンシーモデルを生み出してきた。Droga5の事業拡大は、その成功に基づいたもの。アジア太平洋地域でクライアントや人材に継続的に投資してきた結果でもあります」と話す。
今月19日に開かれたオンライン会見では、日本における展開の根幹となるDroga5の「4つのDNA」 −− クリエイティビティー、ストラテジー、システム思考、「人々のために」という考え方 −− についてバージェス氏が説明。イング氏は「確固としたブランドパーパスの定義が重要」とし、「一貫したアクションを生み出すミッションや価値の表現こそがブランドパーパス」と唱えた。また、アクセンチュア執行役員インタラクティブ本部統括本部長の黒川順一郎氏は、「我々のサービスはブランドに特化したもので、商品を一時的に売るサポートではない」と言明。
「新しいベンチマークになるようなエージェンシーにしたい」と抱負を語った浅井氏は、日米の広告界で実績を積んだ。学生時代にはサンフランシスコの大学で広告を専攻。「いろいろなバックグラウンドを持つ人々と交わり、メディアや広告に対する様々な考え方を吸収した。日本にはないダイバーシティーが刺激的でした」
博報堂の若きクリエイティブリーダーとして順風満帆のキャリアを歩んでいたにもかかわらず、なぜ同氏はDroga5に参画したのか。「クリエイターとして関われる領域が圧倒的に広くなるからです。アクセンチュアの持つケイパビリティーは広範で、ビジネスの『上流』から消費者との接点である『下流』まで、様々な局面に関与できる」
今後、ニューヨークやロンドンのオフィスとの連携はどうなるのだろう。「お互いに、むしろ良い意味でのライバル意識を持ってやれれば、と考えています。日本の文化に根づくには柔軟性が肝要。日本には老舗からスタートアップまで、優れたブランドがたくさんあります。そうした幅広い企業をクライアントとして手がけていきたい」
海外のエージェンシーが日本で展開する場合、常に直面するのは企業文化の独自性だ。例えば意思決定プロセスは、今も合意形成が主流。トップダウン型と違って時間を要する。「そのため、明確なブランドパーパスもぶれてしまうことがあります。社内全体に1つのブランドパーパスを浸透させ、皆が一丸となって取り組めるようなカルチャーづくりにも貢献していきたい」
それでも、コロナ禍で企業の価値観は変わってきたと同氏は感じている。「リモートワークがその典型例ですが、様々な側面の本質を見るようになった。例えば、小売業界であれば店舗の必要性まで今は問われている。もし必要なのであれば、どのような店舗がいいのか。そうした課題にもクリエイターが関わっていければ」
では、アクセンチュアという巨大企業の一部であることがクリエイティビティーに影響することはないのか。往々にして、大きな組織は「安全策」を優先する。クリエイティブを自制してしまうようなことはないのだろうか。
「むしろ逆です。大きなバックボーンに支えられることで、クリエイティブに集中でき、自由なものづくりができる。この点は非常に魅力的で、素晴らしいシナジー(相乗効果)が生まれる環境だと考えています」
(文:水野龍哉)