同性婚は合衆国憲法の下における権利であり、異性婚と同等に扱われねばならない −− 米連邦最高裁判所が5対4の判決で同性婚を認めたのは2015年6月のこと。この時から、LGBTQコミュニティーは米国社会に堂々と受け入れられるはずだった。
だが、現状はその期待から程遠い。プライド月間を祝うLGBTQやその支援に携わる人々は、陰謀論者や保守的政治家、ネット上の「荒らし屋」などから直接的な敵意を向けられ、オンライン上でも実生活でも口撃にさらされる。平等をうたった7年前の歴史的判決など、遠い昔のようだ。LGBTQコミュニティーを支援するブランドは増えたが、コミュニティーが今注意深く見守るのはこれらブランドの「真摯さ」だ。
プライドパレードへの単なる資金提供や「レインボーウォッシング」ではなく、有意義かつ実質的な支援でLGBTQコミュニティーと深い関係を築こうとするブランドは増えた。それゆえ、コミュニティーとの信頼構築を目指すブランドの責任はより重くなっている。だが支援を行いつつ、LGBTQとは正反対の価値観を持つ政治家にも献金するブランドが今、槍玉に挙がろうとしている。
LGBTQに特化したPR会社ターゲットキューのプリンシパルで、長年の活動家でもあるキャシー・レナ氏は、「プライド月間になると毎年ソーシャルメディアには『レインボーのツナミ』が起きます。国中にお祝いや支援の声があふれるのです」と最近の傾向を歓迎する。「年間を通じて支援してくれるブランドが増え、議論も建設的かつ実質的になっている」
「以前との大きな違いは、LGBTQの団体への実質的支援。ブランドからの寄付金はひと桁増えて6桁になり、より目に見える支援や実のある議論が盛んになっています」
マッチングアプリ「OKキューピッド」の北米・欧州・中東担当コミュニケーションディレクターを務めるマイケル・ケイ氏も、「プライドに対するブランドの取り組みはより深化し、パターン化されていないものが増えた」と語る。
「これまで米国中で見られたレインボーウォッシングやロゴにレインボーを加える一時的な修正、暫定的な資金援助といった表層的なものは若干減って、より実質的なものが増えつつある」と同氏。「不平等是正のため、現場で地道な活動を続けている専門家たちと提携するブランドが増えています」
OKキューピッドは平等実現を目指す「ヒューマンライツキャンペーン」やGLAADといった財団・NGOとパートナーシップを組む。ケイ氏によれば、こうした組織と協働する企業や団体(例えば『トレバー・プロジェクト』など)は、LGBTQコミュニティーの人々の自殺を防ぐ活動にも携わっているという。
OKキューピッドはユーザーが自分の代名詞を正式な名称に使え、様々なオプションから性自認・性的指向を選べるようにした草分け的プラットフォームだ。最近ではアプリ内の互換性機能を高め、LGBTQコミュニティーにより配慮したマッチングを心がける。
全米で4万人以上のLGBTQの若者たちを調査したトレバー・プロジェクトのコミュニケーション担当ヴァイスプレジデント、ケヴィン・ウォン氏は「アライシップ(社会的に虐げられている集団を支援すること)はブランドにとって大きなチャンス」と話す。同団体の調査結果では、半数以上の若者が「LGBTQコミュニティーを支援するブランドの存在は、自分たちのアイデンティティーにポジティブな影響を及ぼす」と回答。「LGBTQの若者の友人たちも優しく受け入れ、アイデンティティーについて語ったり、ジェンダー表現をサポートしたりすることが大切。彼らを支えるこうした活動にブランドは注力すべきです」とウォン氏。
長年、同団体とパートナーシップを組む老舗百貨店メイシーズは共同で「スタイルス・オブ・プライド」という取り組みを行っている。目的はファッションなどを通じ、LGBTQの若者が自信を持って自己表現できるよう奨励することだ。
では、LGBTQコミュニティーとの関係構築でブランドはどのような失敗を犯すのだろう。まず挙げられるのは、信頼の喪失だ。LGBTQの人々は、長年コミュニティーを支援してきた企業とそうでない企業を明確に判別できる。だがブランドは、唐突にスポンサーシップやパートナーシップを申し出てもアライシップになると勘違いしがちだ。
「こうした過ちを犯してきたマーケターやマーコム(マーケティングコミュニケーション)業界の人々は実に多い。彼らは目的意識のある人間として見られたいし、ブランドを成功させたい。だからコミュニティーとつながって良い評価を得たいと考えます」とウォン氏。「我々からのメッセージはもうわかっているはず。1年のうちひと月だけLGBTQのマーケティングに費やしても、それはアライシップにはならないのです。そういうブランドはじきにLGBTQへの興味をなくすでしょう」
「ブランドは社外的なパートナーシップだけでなく、社内の従業員の待遇を世に公表することでもコミュニティー支援になる」とケイ氏。
「目に見える形のキャンペーンはわかりやすく、ゲイを自認する人々にとってコミュニティーを支援するブランドを知ることは大きな意味があります。しかし私は、ブランドが社内でLGBTQの人々をどう処遇しているかも知りたいのです」
レナ氏は、「地方レベルのプライドイベントに地元企業がもっと関与してほしい」と語る。「例えばターゲットのような大手デパートに行けば、『マイ・ファースト・プライド』と書かれた幼児服は簡単に手に入る。プライドをテーマにした商品は簡単に見つかります。しかしそれは表面的なことで、LGBTQコミュニティーともっと深化した関係性を築いているブランドはもっとたくさんある」。好例は、あらゆるジェンダーやサイズを包含した商品を発表したアクティブウェアブランド「トムボーイX」や、フューチュアリストでデザイナーのロブ・スミス氏が立ち上げたショップ「ザ・フルイド・プロジェクト」などだ。
LGBTQに優しい製品が市場に増えたことは、結婚の平等に肯定的な人々が増加したことを示す。6月初旬に発表されたギャラップ社の調査では、71%の人が「結婚は平等であるべき」と答えた。これは、同性婚が合法化された2015年の調査よりも10ポイント高い。
だが残念ながら、こうした声はまだまだ一般的とは言えない。今年1月にはフロリダ州で「Don’t say gay(ゲイと言ってはいけない)」法案が可決され、子どもたちが学校でLGBTQやジェンダーについて議論することを禁じた。この後、10を超える州議会で同じような法案が提出されている。全米レベルでは、トランスジェンダーの人々の権利を制限する法案は合わせて100以上提出された。インターネット上ではLGBTQの人々や、彼らを差別する法案に反対する人々を非難・中傷する声が急増。直接的な軋轢も増え、特に各地の教育委員会などではしばしば激しい議論が展開される。
このような状況だからこそ、LGBTQや彼らを擁護する人々は、ブランドの支援が真摯で継続的なものか否かに目を凝らす。本気で彼らを支援する企業は、ヒューマンライツキャンペーンの「企業平等指数」(LGBTQへの方針や取り組みをランク付けした公平性を示す指標)のスコアをはるかに上回る支援を行う。擁護派は企業の政治献金にも着目、反LGBTQ派の政治家を陰で支援していないか注視する。
「我々はこうした政治家への献金を綿密に調査しています。もしそうした行為が行われているのであれば、たとえ他に理由があっても決して認めることはできない。そうした企業の幹部とは話し合いの場を持ち、『Don’t say gay』のような法案は子どもたちの健全なヘルスケアを否定するものだと訴えていきます」とレナ氏。そして、こう付け加える。「こうした法案は、我々に対する全面的な攻撃にほかならない。非常事態と言ってもよく、我々は最大限の力で対処しなければならないのです」
(文:フランク・ワシュクシュ 翻訳・編集:水野龍哉)