「広告主とエージェンシーの関係は、往々にしてしっくりいかない。しかし、ばかげたことが依然として多過ぎるメディア界と向き合っていくために、両者は協力関係を築かねばなりません」。P&Gのチーフ・ブランド・オフィサーで、アメリカ広告主協会(ANA)の会長も務めるマーク・プリチャード氏は、広告界が直面する課題について率直に論じ、喝采を浴びた。
「我々は消費者に向けて毎日、何千もの広告を打ち、ローディング(広告の読み込み)に多くの時間を費やさせ、ポップアップ広告で邪魔をし、スマホ画面やニュースフィードを広告で埋め尽くしています」。プリチャード氏は今月4日、アメリカ広告業協会(4A)がロサンゼルスで開催した「4Asトランスフォーメーションカンファレンス」で、基調演説の際にこう述べた。「我々がこれほど骨を惜しまず働いているにもかかわらず、状況は好転するどころか、むしろノイズが増えているのです」
エージェンジーのよき理解者と評されるプリチャード氏は、“広告費が高過ぎる”、“広告が売り上げの伸びに寄与していない”、“エージェンシーの仕組みは複雑すぎる”といった意見を率直に述べた。
このような状況をつくり出した一端を、世界最大の広告主であるP&Gは担っている。「P&Gが世界中で何千というエージェンシーを起用した結果、混迷に陥りました。あらゆる分野の専門家がいて、誰が何を担当しているのか分からなくなってしまったのです」
そのため同社は契約するエージェンシーを整理し、その数を半分に減らした。エージェンシーにとっては悪いニュースのようだが、一方で、選ばれたエージェンシーは継続的な取引や、より良い報酬が期待できると同氏は強調する。現在ではP&Gと契約するエージェンシーの2割が、95%の仕事を担当しているという。
「利益を生み出さないエージェンシーを起用することは、持続可能なビジネスとは言えません」。プリチャード氏は、聴衆の喝采を受けながら説明する。「P&Gへの貢献度や、発揮した能力、特にクリエイティブへの対価が確実に支払われるよう、エージェンシーへの報酬の仕組みを見直しました」
広告界に対しても、抜本的な改革を求めた。現在のデジタルエージェンシーのあり方に不満を示しつつ、「皆さんの機能とサービスを統合し、強化してほしいのです。我々が求めるのはもはや、紙媒体、屋外広告、ラジオ広告のみを扱うエージェンシーではありません。あらゆるメディアで力を発揮するエージェンシーなのです」と訴えた。
P&Gは自社のブランドを守るために、一切の妥協を許さない「ゼロ・トレランス方式」をとっていることも明らかにした。最近のメディアスキャンダルのように、ヘイトやテロに関するコンテンツのそばに広告を一つでも出すことは、断じてあってはならないのだ。またメディアバイイングに対しても、透明性の向上を求めている。現在は「あまりにも多くのエージェンシーが、自分たちの仕事を自ら評価している状態」であり、メディア・レーティング・カウンシル(MRC)によるビューアビリティーの基準や、第三者機関による認定を早急に導入すべきだという。
「エージェンシーとブランドが本来あるべき関係を築くことができれば、クリエイティブは、男女共同参画やダイバーシティー、賃金格差の解消といった、ポジティブな変化を社会に起こすことができます。それは成長を後押しすることにもなるのです」とプリチャード氏。
「私たちの仕事は、慈善事業でも公共サービスでもありません。大切な社会的課題への見解を、日々の広告を通して表明することなのです」
(文:イーシェン・シャーウッド 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)