Brandon Doerrer
2024年3月19日

TikTok存続 カギは「クリエイター」

TikTok(ティックトック)を全米で利用禁止にする法案が米下院で可決された。ユーザーの抗議に頼らず、同社はクリエイターの動員を図るべき −− PRのプロたちが語る。

ワシントンの議事堂前に集まり、抗議の声を上げるティックトックの支持者たち(写真:Getty Images)
ワシントンの議事堂前に集まり、抗議の声を上げるティックトックの支持者たち(写真:Getty Images)

* 自動翻訳した記事に、編集を加えています。

TikTok(ティックトック)は本当に存亡の危機に瀕しているのだろうか。米下院議会が運営企業の親会社バイトダンスに対し、ティックトックの所有権を売却するよう求めたことで、その可能性は以前にも増して高まっている。

議員たちが懸念するのは、中国政府による米国人のデータへのアクセスだ。可決された法案は、ティックトック事業を165日以内に非中国企業に売却するよう要求。バイトダンスがこれに従わなければ、米国内でのアプリ配信はできなくなる。

この法案審議の数日前、ティックトックはユーザーにプッシュ通知を送付。各議員に電話をかけ、法案への反対を促すよう呼びかけた。「政界では法案に反対する際、最後の効果的手段」と話すのはPR会社プレシジョンのパートナー、マイク・スパーン氏だ。

しかし下院は今月13日、この法案を352票対65票という大差で可決。今後は上院に審議を委ねることになる。 

ティックトックは今後、「ユーザーにさらなる行動を促さねばならない」とPRの専門家は口を揃える。

対策の1つは、「複数のクリエイターをスポークスパーソンに起用すること」。一般ユーザーの声に頼るだけでは論点がぼやけてしまう。影響力のあるクリエイターを選ぶことで、主張をより明確にできるというのだ。

「ティックトックで生計を立てているクリエイターたちに声を上げさせるのが望ましい。大量の情報を流すのではなく、論点を絞って訴えることが重要です」と話すのは、政治を専門とする匿名希望のPRだ。

クリエイターはすでにこうした行動に積極的で、12日にはワシントンの連邦議会議事堂前に集まり抗議の声を上げた。またハッシュタグ「#KeepTikTok」を活用し、法案反対の動画を投稿した。

ティックトッククリエイターでライフスタイルブランド「オーガスト」の共同創業者であるナディア・オカモト氏は、この法案に支持を表明したバイデン大統領に抗議する動画を投稿した(下)。

@nadyaokamoto President Biden is making a BIG MISTAKE letting this bill through. It absolutely means defeat this year if he turns against 8 years of eligible gen z voters. #keeptiktok ♬ original sound - Nadya Okamoto

同氏は事前にティックトックに接触、どの下院議員に訴えるべきか、国家安全保障上の脅威にならないことをどう説明すべきか助言を求めたという。

「私は政治家でもロビイストでもありません。プラットフォームを持っているクリエイターにすぎない。こうした活動にはアドバイスが必要です」

「ティックトックから明快な答えは得られなかった」と同氏は言うが、ティックトックは抗議活動のために多くのクリエイターをワシントンに派遣した。

ティックトックで70万人以上のフォロワーを持ち、Twitch(ツイッチ)でも配信を行う政治コメンテーターのハサン・パイカー氏は、「ティックトックはロビー活動にもっと力を入れるべき。法案阻止に最も有効な手段です」と話す。「誰もが中毒になってしまうようなプラットフォームを無料で運用していることこそ、ティックトックの最大の利点」

同氏はティックトックと全米ライフル協会(NRA)が置かれた状況との類似点を指摘する。「ティックトックの活動は合衆国憲法修正第1条、NRAは憲法修正第2条によって守られている。そして双方とも、価値の高い商品を提供しています。だからこそ、ロビー活動が効果的」

さらにクリエイターが「ビジネス面でのサクセスストーリーを共有することで、ティックトックを支援できる」

「米国の田舎町にある中小企業が、ティックトックを使えば世界の人々に製品を紹介できるのです。インフルエンサーも言わば中小企業の経営者。彼らの収益は、米国のGDPの中で大きな割合を占めています」

弊誌はコミュニケーション戦略についてティックトックに質問状を送ったが、回答はなかった。

スパーン氏は、「クリエイターと協働するためにティックトックはコーポレートガバナンスを明確に説明する必要がある」という。

「中国に対する懸念や否定的感情は甚だしい。それらを払拭するために、ティックトックはユーザーの自発的行動に頼らず、継続的な措置を講じていく必要があります。最善の方法は、ビジネスの現状を消費者に知らしめること」

また、周受資(ショウ・ジ・チュウ)CEOを始め「幹部自らがメディアを通じて事業内容を説明し、透明性の欠如を払拭するべき」とも。

「説明の場はティックトックでもいいし、ニューヨーク・タイムズでもいい。考えられるあらゆるメディアを駆使するべきです」

ティックトックもそれを察しているようだ。チュー氏は法案可決後、ワシントンで議員たちとの面会を模索。またユーザーに向けて、法案反対を促すショート動画を投稿した。

@tiktok

Response to TikTok Ban Bill

♬ original sound - TikTok

上院での審議に向け、ティックトックはクリエイターを活用すべしとPR専門家は口を揃える。だがユーザーを利用した戦略の効果については、意見が分かれる。

コミュニケーションエージェンシー「バッテンホール」の米国及びカナダ担当マネージングディレクター、アントン・ペロー氏は、「ユーザーに反対運動をさせても下院での投票には影響しなかった。議員たちの意志はすでに固かった」と話す。

「それでも、(ティックトックが今後取り得る)戦略の有効性と今の状況とは切り離して考える必要がある」

「法案可決後にユーザーから上がった多くの抗議の声は、ティックトックにとって大きな力になったはず。決して諦めるべきではありません」

逆に、ユーザー重視のアプローチは「メリットよりもデメリットの方が多い」と話す専門家もいる。ティックトックの重要性をユーザーが訴えることで、バイトダンスが米国民に与える影響力の大きさを政治家が再認識してしまうというのだ。

「ティックトックがなくなったらティーンエイジャーを自殺に駆り立てる、といったナラティブはむしろ逆効果です。ネガティブな面を助長するだけ」と話すのは、前出の匿名希望のPR。「ティックトックは今回、『ユーザーとは一切コミュニケーションを取っていない。しかしユーザーには自由を与えるべき』と主張した。問題は、彼らのメッセージに一貫性がないことです」

議員はティックトック支持者の声を聞かず、ティックトックが送ったプッシュ通知が「米国人をあからさまに欺いた」と非難した。

今月11日、下院中国特別委員会の共和・民主両党の委員はチュー氏に書簡を送り、事業売却を促す法案がティックトックの全面禁止をうたっているかのような表現はやめるよう要求した。プッシュ通知には「議会がティックトックの全面禁止を企てている」と記されている。

だが、ティックトックは主張を変えていない。同社広報は弊誌に対し、「今回の採決までのプロセスは秘密裏に行われ、法案可決は既成事実でした。上院は事実を鑑み、有権者の声に耳を傾け、国内経済や700万に及ぶ中小企業、我々のサービスを利用する1億7000万の米国人への影響を考慮することを強く望みます」というメールを送付した。

14日には前財務長官のスティーブン・ムニューチン氏が、「ティックトックの事業を買収するため、米国人による投資家グループをつくっている最中」とCNBCの番組で発言した。

多くのPR専門家は、ティックトックが売却される可能性が高いと見る。だがチュー氏は、徹底的な法廷闘争を行うとブルームバーグに対し述べた。また、あるアナリストは「中国が売却阻止に動くだろう」とCNBCに語っている

多くの議員は公然と禁止を支持する。意外なのはドナルド・トランプ氏で、大統領在任中はティックトック禁止を訴えていたが、今は容認の立場を取る。共和党の中では異例だ。

トランプ氏は2020年にティックトックを禁止しようとした。それを考慮すれば、「彼に支援を求めるのは賢明ではない」とPR専門家は話す。トランプ氏が翻意したのは、ティックトックに多額の投資をするヘッジファンド・マネージャーのジェフ・ヤス氏と会談した後のことだ。

「今年は大統領選の年。人々の本音を知るのはとても難しい」とペロー氏は言うが、果たしてこの顛末はどう転ぶのか。

提供:
PRWeek

関連する記事

併せて読みたい

1 日前

トランプ再選 テック業界への影響

トランプ新大統領はどのような政策を打ち出すのか。テック企業や広告業界、アジア太平洋地域への影響を考える。

1 日前

誰も教えてくれない、若手クリエイターの人生

競争の激しいエージェンシーの若手クリエイターとして働く著者はこの匿名記事で、ハードワークと挫折、厳しい教訓に満ちた1年を赤裸々に記す。

2024年11月15日

世界マーケティング短信:化石燃料企業との取引がリスクに

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2024年11月13日

生成AIはメディアの倫理観の根幹を揺るがしているか?

SearchGPT(サーチGPT)が登場し、メディア業界は倫理的な判断を迫られている。AIを活用したメディアバイイングのための堅牢な倫理的フレームワークはもはや必要不可欠で、即時の行動が必要だとイニシアティブ(Initiative)のチャールズ・ダンジボー氏は説く。