2022年はADKにとって、順調に進捗しているものがいくつか見受けられた。
ほとんどのエージェンシーが人材の獲得合戦を繰り広げ、離職率の高さに苦しんできた中で、ADKの離職率は6%と低かった。事業は、輝かしいとまではいかなくても円滑だった。2022年は日本の多くの企業が新型コロナウイルス感染症への対応に振り回されたが、ADKはクリエイティブな方法で乗り切り、称賛に値する作品や広告賞の受賞などの結果を残した。
中国、ベトナム、インドの市場ではイノベーションの強化を継続し、いくつかの大型案件も獲得している。サステナビリティーへの取り組みも、僅かではあるがようやく回答に盛り込まれるようになった。DEIは、国内に関しては依然として非常に遅れていると言わざるを得ない。何よりも今年は植野伸一氏(前社長)と元社員2名が東京五輪2020大会の入札談合疑惑への関与を認めたことで、大きな注目を浴びることとなってしまった。
ADK側は違反を自主申告したが、それだけでは同社の苦悩は終わらない。現在進行中の裁判によって、同社の誠実さが損なわれ、不信感が連鎖する。時間が経過しても、失われた信用は簡単には取り戻せない。
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ビジネス成長 (B-)
このレポートカードの執筆時点では、ADKの第4四半期の業績は合算されていなかったが、第3四半期の収益は前年同期比で6%増加している。2022年度は「第4四半期はわずかに鈍化するものの、全体では2021年よりも良い年次業績」となる見込みだという。正確な数字は分からないが、同社にとって最も大きな割合を占める国内市場での成長は、2021年に準じるとの回答だった。主に成長を推進しているのは、日本政府によるプロジェクトと、金融、保険、ゲーム業界だった。
日本以外では中国、ベトナム、インドでの事業が好調だ。多くの広告会社では中国のゼロコロナ政策の影響を受けて成長が阻まれたが、ADKは戦略的な獲得が奏功し、上海での新規事業が勢いを維持している。昨年はOppo(欧珀)のキャンペーンが成功し、このことが数多くの新規クライアント獲得につながった。ピコ(小鳥看看科技)、バイトダンス(字節跳動)、ウィーチャット(微信)、アバター(阿維塔科技)などテック企業や、EVメーカーのBYD(比亜迪)やSUVメーカーのGWM(長城汽車)など新興自動車メーカーなどがその例である。
インドのレイジ・コミュニケーションズ(Rage Communications)を買収したことで、セフォラ(Sephora)、タタ・モーターズ(Tata Motors)、タタ傘下のクロマ(Croma)などが、ADKのクライアントに新たに加わった。新たなビジネスの獲得によって、年間の収益は10%増加した。その理由の一つに、ほとんどのクライアントがリテーナー契約でなくプロジェクト単位で契約していることが挙げられる。
同グループは2021年にデジタルへと多く投資したが、依然として基盤になっているのは国内における従来型の広告およびメディア事業だ。年末時点での収益は約550億円になるとみられ、その8割を従来型の広告事業、残り2割を従来型でない広告事業が占める。
デジタル事業の成長を力強く牽引し続けるベトナムでは、パフォーマンス・マーケティングを手掛けるユニット「VBA」が好調だ。ベトナムの現地法人は、消費者に真のブランド体験を有意義な方法で提供するアクティベーション提供ユニットとして「ADKエクスペリエンス(ADK Experience)」を立ち上げている。
今回もADKは、3,000を超える同社のクライアントを一つも失注していないと回答したが、すべてのプロジェクトがアクティブなままではないだろう。ビジネスの提案内容の多様化やケイパビリティー(事業プロセスの強み)の向上も考慮し、評価は今回もB-とした。
イノベーション (B-)
ADKは2022年にかなりの数の買収を行い、技術的な進歩を遂げたが、その大部分は本拠地である日本でなく海外で行われたものだ。主な成長市場はベトナム、中国、インドだった。
2021年からイノベーションを推進してきた同社は、ベトナムでADKエクスペリエンスを立ち上げ、ブランドアクティベーションに参入した。2020年のVBA買収とも相まって、現在ADKは同国内のクライアントに統合的なソリューションを提供できるだけのデジタルアジリティー(デジタルにおいて必要な敏捷性)を完備したことになる。ベトナムでのケイパビリティーを刷新し強化する取り組みは好ましいもので、これをベトナム市場だけに留めず大規模に展開し、特に本拠地である日本でも取り入れれば、評価の向上にもつながっただろう。
多くのエージェンシーが採用する混合型ビジネスモデルと同様に、グループ内のADKクリエイティブ・ワンは、インハウス・クリエイティブ・ブティック「addict(アディクト)」を立ち上げ、クリエイティブのポートフォリオにコンサルティングサービスを組み込んだ。この新サービスの数値データやUSP(独自の強み)について満足のいく回答は得られなかったため、どの程度の成功を収めたのか、他ブティックの提案と比較して何が際立っているのかを把握することは困難だ。同社経営陣は、自動車メーカーや通信会社におけるデジタルトランスフォーメーションの実装を例として挙げていた。
ADKグループはADKエモーションズを通じ、日本アニメの世界流通を手掛けるREMOW(本社:東京都千代田区)に出資している。アニメは海外で大変人気が高く、ストリーミング大手はどこも日本のIP(知的財産)と連携している中で、この投資はビジネスモデルにおいて非常に重要といえる。
2022年の新サービスは目立ったものではなかったが、全体として従来型の事業からデジタルへと舵を切るという、正しい方向への大事なステップだったため、昨年から評価を1つ上げた。
DEI & サステナビリティー (D+)
日本は世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数2022」で146カ国中116位で、これはモルディブ、ギニア、レバノン、ヨルダンをわずかに上回る順位だ。先進国の中でも最低レベルにとどまり続ける のは、政治参画と経済参画のスコアが著しく低いことが理由にある。
日本での進歩の遅さは、ADKや他の国内エージェンシーにおいて女性の経営幹部や上級管理職の割合が低いことにも反映されている。しかしながら、国外に大規模なネットワークを持つADKは、もはや文化を隠れ蓑にすることはできない。
国内ではスタッフ全体の3分の1を女性が占めているが、経営幹部や上級管理職に女性はいない。他のAPAC市場では、上級管理職の3割を女性が占めているとのことだ。日本の男女間賃金格差は、依然として大きい。ADKは海外市場ではこの格差を解消したと主張するが、給与に関する社内外の監査が無いため、裏付けることは非常に困難だ。
ポジティブな歩みとして、女性の活躍推進に関する状況が優良な企業を厚生労働省が認定する制度「えるぼし認定」で、ADKホールディング、ADKクリエイティブ・ワン、ADKエモーションズは3つ星を獲得している。
同社の日本の人事責任者は現在女性が務めており、インクルージョンはわずかながら進歩を遂げている。それでも職場の多様性が浸透しつつある今日において、これだけでは社内のDEIの推進に十分とはいえない。
日本は、2050年までにカーボンニュートラルを実現し、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年比で46%削減することを宣言した世界136カ国のひとつだ。政府の気候政策と歩調を合わせようという政治的なプレッシャーは、ADKだけでなく他の企業のサステナビリティーに関する指針にも表れている。
2022年9月にADKグループはSaaS型の気候変動管理・会計プラットフォーム「パーセフォニ(Persefoni)」を導入し、カーボンフットプリントの測定を開始した。レポート作成や、実際に影響が出てくるまでには、しばらく時間を要するだろう。それでも回答には、電力削減や産業廃棄物管理、その他さまざまな測定が規制を遵守していると証明するために、数々の省庁に公式レポートを提出したことについて記されていた。しかし時勢に遅れないためには、まず基礎となるサステナビリティーへの取り組みを実践し、堅実なKPIを設定する必要がある。
とはいえ、サステナビリティーの対策強化やDEIの取り組み開始によって、今年の評価はわずかに上がった。2023年には、これらの問題を真剣に受け止め、尽力してもらえればと期待している。さもなくば、評価を下げる必要があるだろう。
クリエイティビティー & エフェクティブネス (C)
今年のADKの作品については、いろいろな感情が入り混じる。2022年のキャンペーンは華々しいものではなかったが、パーパスを起点とした効果的な取り組みがいくつか目にとまった。まず1点目は、ADK台湾が制作した「Love At First Stray」。これはCOVID-19で慈善団体や動物保護施設が閉鎖されて保護動物の里親探しが難航する中、台湾のネットショッピング「PChome 24h購物」が梱包箱を使って譲渡を促進した、非常に巧みな施策だ。メディア予算はまったく無かったが、施策のコンセプトやインスタグラムで展開した保護動物の斬新なフィルターがソーシャルメディアで注目を集めた。事前に設定していた目標を500%上回り、譲渡件数を大きく増やした。
2点目は、生理用品「エリス」が国内で展開したキャンペーン「奨学ナプキン」で、これは生理用品の入手に困っている学生に生理用ナプキンを1年間無償で提供し、生理は恥ずかしいことではないという意識を浸透させようというものだ。当初は1,000名の学生を対象に募集したが、予想を大幅に上回る反響だったため、今年度は2,000名への支援を決めた。
これらは度肝を抜かれるような取り組みではないものの、パーパスを起点にした広告は称賛に値する。ただし、ウルトラファストファッション「シーイン(Shein)」の広告のグローバルパートナーという肩書が並ぶと、話は別だ。シーインはファッション業界で最も環境汚染を引き起こしている企業で、過酷な労働条件についても繰り返し報じられている。同社のコミュニケーションのグリーンウォッシングに加担することで、せっかくパーパス起点の広告で得た評価も相殺されてしまう。
広告賞については、ヤングスパイクスのデジタル部門でゴールド受賞、アドフェストではシルバーとブロンズを2つ受賞、マッドスターズ(釜山国際広告祭)でブロンズを2つ受賞している。
マネジメント (C-)
伝統的な価値観は、大部分の日本企業を支配し続けている。ADKグループの従業員の離職率が、国内ではわずか6%に抑えられているのも不思議なことではない。この数字は2021年と比べて2ポイント高いものの、全国平均よりは低い。パンデミック後に転職を検討する人が増えたことを考慮すると、他社と比較して良い数値といえるだろう。
同社は今年、ごくありふれた内容のトレーニングや人事施策の数々に加え、国際実務マーケティング協会のプログラムも導入した。すでに2,000名近くの従業員がすでにこのコースを受講し、スキルアップを果たしている。
ADKホールディングスのグローバル部門には人事分野での実績が豊富な水上雅人氏を迎え、優秀な人材を引き付ける企業文化のフレームワーク制定を目指す。しかし時代遅れなDEIポリシーや、世界中で不祥事がセンセーショナルに報道されるようなことがなければ、これほどまでに困難にはならなかっただろう。植野前社長が東京五輪2020大会をめぐる入札談合事件への関与を認めたことで第3~4四半期の同社のイメージは大きく損なわれた。
事件の渦中にありながら、率直に対応してくれた同社には謝意を表したい。事件への関与について回答を避けたり曖昧にすることがなく、トップダウン型から変えるという主張も口先だけではないようだ。とはいえ罪は重く、スキャンダルは広く知られ、日本だけでなくスポーツ界のイメージも大きく傷つけた。過ちを犯したのはたった数人だったかもしれないが、その影響は広範囲に及ぶ。
統合型コミュニケーションサービス、キャンペーン開発とエグゼキューション *事業概要の比率に関する回答はなし
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(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)