弊誌がお届けするエージェンシー・レポートカードは、マーコム(マーケティングコミュニケーション)業界で最も緻密かつ総合的な評価表であると自負する。20回目の節目を迎え、今年はより調査の質を重視。分析を深化させ、データ主導の測定法をさらに向上させた。対象となったのはAPACのトップエージェンシー、30社。日本からは電通クリエイティブ、Dentsu X、カラ(Carat)、博報堂、ADKグループの5社を選んだ。
例年のごとく、評価のカテゴリーは「ビジネス成長」「イノベーション」「DEI(多様性、公平性、包摂性)&サステナビリティー」「クリエイティビティー&エフェクティブネス(有効性)」「マネジメント」の5分野とした。マネジメントの項では人材確保・育成、福利厚生、他のカテゴリーにおける営業実績なども考慮した。
サステナビリティーがクライアントや消費者、そしてエージェンシーにとって重要度を増していることは言うまでもない。DEI&サステナビリティーの項ではDEIを6、サステナビリティーを4の比率で評価し、サステナビリティーを昨年の3から1割上げた。来年はさらに比率を上げる可能性がある
評価基準とランク分けの詳細は下記の通り。各ページの最後には各エージェンシーの事業内訳、主なクライアント、専門性も付記した。
新たな評価法
今年最も大きな変化は、各社の総合評価をポイント(点数)で表したことだ。評価法が多様化すれば、各カテゴリーでの評価も複雑化する。数字で表すことで、全体像をより明確に出来ると判断した。
ポイントとアルファベットによるランクの関係性も再考。例えば、昨年までは5.6〜6.5点を獲得したエージェンシーに「B−(良い)」を与えていたが、今年からは7.3〜7.7点をB−とした。
最終的には多くのエージェンシーがポイントを上げ、良い評価を得た。だが、全体的に素晴らしい結果であったとは言い難い。抜きん出た業績を残したエージェンシーがある一方、今年も好調を維持している企業は少ない。
2021年はコロナ禍からの再起の年だったが、その勢いを昨年も維持したエージェンシーは少なかった。ビジネス成長で評価を下げた企業は14社で、マネジメントでは10社。DEI&サステナビリティーでは16社が評価を保ち、下げたのは4社だった。最も進境著しかったのはイノベーションとクリエイティビティー&エフェクティブネスの分野で、それぞれ14社が昨年の評価を上回った。AI(人工知能)やメタバースといった新たなツールが活用され、各国でコロナ禍の制限が撤廃されたことで、クリエイティビティーの質は確実に上がったようだ。
昨年の総合評価を上回ったエージェンシーは辛うじて過半数の16社。10社は評価を下げ、4社は変わらなかった。
また数よりも質を重んじ、規模の小さいエージェンシーなど11社を評価対象から外した。
持株会社によるエージェンシーブランドの統合化も、評価における焦点の1つだった。例えば、電通クリエイティブの一部となったアイソバー(Isobar)。電通は国外で独自のアイデンティティーを高めており、今年はアイソバーを国内事業として勘案。電通の再編は今年も続くので、来年はまた見直しが必要になろう。
評価基準 以下の5つのカテゴリー: 1. ビジネス成長:総売上高、新規事業の売上高(各社公表額と、コンサルティング会社R3の報告書『ニュービジネスリーグ』に基づくCampaign AI『ニュービジネスエージェンシーランキング』を勘案)、オーガニック成長、収益性、新規クライアントと失ったクライアントの数、収益の多様性などを評価。 2. イノベーション:アジアにおけるイニシアティブと、自社及び従業員、クライアント、業界に影響を及ぼしたイノベーションを質的に評価。 3. DEI&サステナビリティー: これら分野における「公約」の実行性を質的評価。持株会社のイニシアティブ、特に下部組織への浸透度も考慮。 4. クリエイティビティー&エフェクティブネス: 手掛けたキャンペーンの質と有効性を評価。地域及び世界レベルの広告賞の獲得数も考慮し、特に主要広告賞を重視。また、手掛けたキャンペーンがクライアントにもたらした効果も考慮。 5. マネジメント:上記4つの項目に加え、APACにおける経営方針と安定性、業界への貢献度、社員教育・能力開発、離職率といった面から経営陣のパフォーマンスを質的評価。 評価決定までのプロセス 対象となったエージェンシーのほとんどは、弊誌からの多岐にわたる質問に丁重な回答を寄せていただいた。こうした自社評価に加え、弊誌は独自調査を実施。シニアエディターはほぼ全エージェンシーのAPAC責任者から約1時間の聞き取り調査を行った。こうして各社のパフォーマンスをカテゴリー別にポイント化し、ランクを決定。ポイントとアルファベットによる評価基準は下記の通り。 それぞれのカテゴリーで評価が決定すると、全エディターが参加する会議で最終チェック。各カテゴリーの平均値を出し、総合評価とした。各社のポイントを表示することで、実績をより細かく評価することに努めた。
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過去のエージェンシー・レポートカードはこちらから
2021 | 2020 | 2019 | 2018 | 2017
(日本版は2016年5月に刊行、2017年よりエージェンシー・レポートカードを掲載)
(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)