トランプ米大統領の打ち出す政策に対する賛否はさて置き、彼が「創造のインスピレーションの源」であることは間違いないようだ。メキシコと米国の国境に壁を建設すると彼が声高に主張していたこの2月、ディーゼルは「MAKE LOVE NOT WALLS(壁を築くのではなく、愛を育もう)」と題したキャンペーンをスタートさせた。同大統領の排他性が、寛容さや多様性といった同ブランドの精神を打ち出す絶好の機会となったのだ。それも、極めてユニークでカラフルなスタイルで。
米大統領は日本にも様々な困惑を呼んでいるが、「壁」という言葉の意味は多民族国家である米国に比べ、日本ではそれほど重くない。だが日本には同質社会ゆえの「見えない壁」が存在する。ディーゼルは同社にとって最大の市場である日本向けに、このテーマを一からローカライズした。
ファッションや若者文化、サブカルチャーなどでは世界的リーダーである日本も、LGBTの受け入れという点では他の先進国に遅れをとる。今回制作されたショートムービー「The Walls」は、各人の精神的な壁を取り除き、あらゆる性的指向の人々が堂々と愛情を表現できる社会を築こうと呼びかける。企画したのはジオメトリー・グローバル・ジャパン。制作にはディクショナリー・フィルムスやAOI Pro.、東京在住のディレクター、コナー・ギルフーリー氏などが参加した。
ムービーの撮影場所に選ばれたのは、同性のパートナーシップを都内で初めて公認した渋谷区。レインボーカラーの野球バットやキノコ、天狗の面、空気で膨らませる実物大のエアー戦車(同様の戦車は世界向けキャンペーンにも登場し、壁にハート形の穴を開ける)などなど、大胆で示唆的なヴィジュアルを次々とつなぎ合わせ、愛の行為やその美しさを表現する。ほんの一瞬だが、ディクショナリー・フィルムスのピーター・グラス氏が秋葉原辺りのアダルトショップから調達してきたようなゼンマイのおもちゃまで登場。
Campaignの視点:
ディーゼルは、米国のポルノ動画配信サイト「Pornhub」にまで広告を出している。そんな型破りな同社らしく、この2種類の動画は表現が大胆でインパクトも強烈。それでもCampaignがお薦めするのは、制作者たちの豊かなクリエイティビティーを感じさせ、遊び心が散りばめられた日本向けヴァージョンだ。日本に進出する他のブランドもディーゼルのように、それぞれの個性を生かした手法で社会に「寛容性」を訴えていってほしい。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:水野龍哉)