Staff Reporters
2022年3月18日

エージェンシーレポートカード2021:ADKグループ

ADKはシンガポールやベトナムのユニットが牽引する形でデジタルトランスフォーメーションを加速させたが、国内の成長は鈍いものだった。DEIへの関心が相変わらず低いことも、深刻な問題と言わざるを得ない。

台湾の即席麺ブランド「ユニ・ヌードル(統一麺)」の動画『吃麺看個性(You Are How You Slurp)』
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ベインキャピタル傘下のADKグループは、収益の大部分が従来型の広告事業によるものだが、2021年はデジタル化に労力を費やした。国内事業の成長の歩みは比較的遅いものだったが、東南アジアや中国での事業は変化が速くなってきている。パンデミックが3年目に突入し、ADKはマスマーケティング、D2Cマーケティングサービス、フルファネルマーケティングを通じた顧客体験の3領域に注力している。2020年1月に「ADK CONNECT」の設立を発表し、シンガポールやバンコクなどで事業を開始。これを2021年3月に統合的な顧客体験ソリューションを提供する事業ブランドとして、ADKマーケティング・ソリューションズの中に編制させた。

同社のこれらの動きは、デジタルトランスフォーメーションに向けた大きな前進だろう。ADKは2019年1月から持株会社体制に移行し、傘下の事業会社としてADKマーケティング・ソリューションズ、ADKクリエイティブ・ワン、ADKエモーションズを再編。この再編が、デジタルトランスフォーメーションの前進に寄与することとなった。デジタル領域に特化したADK CONNECTを立ち上げ、シンガポールなどアジア太平洋地域の6拠点で展開して事業成長に重点を置いたことからも明らかなように、同社は変化に向けた大きな賭けに出ている。

カテゴリー 2021 2020
業績 B- B-
イノベーション C+ C+
DEI&サステナビリティー D D
クリエイティビティー&エフェクティブネス C+ C
マネジメント C+ B-
評価基準について

業績 (B-)

パンデミックが日本やアジア太平洋地域のビジネスの障壁となったため、ADKの成長を牽引したのはデジタルサービスとADK CONNECTのパフォーマンスマーケティング事業だ。同社によると、2021年の営業利益は10%増加し、特に売上高は「業界の水準よりも速く」成長した。国内事業の成長率は一桁台と鈍く、その原因には国内市場の成長が遅かったこと、そして国内外のネットワークとの競争が激化したことを挙げる。成長を真に牽引しているのは海外での事業とベンチャーだというのが、同社の自己評価だ。

同社のベトナムでの事業は大幅な成長を遂げ、VBA(ベトナムでデジタル関連サービスを提供する同社ブランド)が今後も成長を推進していくと予想される。VBAはブルースコープ・スチール・カンパニーや新韓証券(韓国の金融大手グループの一つ)などの新規案件を獲得している。

中国では、中国環球PR社と戦略的パートナーシップ協議を締結し、PR事業の拡大を目指す。また上海で立ち上げたADK CONNECTがプレイステーション5のローンチプロジェクト、シティ銀行、オッポ(Oppo)などを獲得している。

またADK CONNECTシンガポールでは、収益におけるデジタルの割合が5%(2020年)から60%(2021年)へと増えた。

ADKの主要クライアントは主に日本の大企業だが、2021年にはグローバル規模のファッションやビューティーレーベルを獲得し、新たな成長分野になりつつある。製薬会社の案件も扱っており、ヘルスケア領域は2021年も引き続き、強い推進力となったという。

グループエム(GroupM)とは現在提携していないが、今もメディアバイイングの主要クライアントだ。

昨年と同様、特定のクライアントの失注については回答を得られなかったが、3,000余りのクライアントについて「重大な失注は無かった」とのことだ。

イノベーション (C+)

コミュニケーションの課題を解決するオンラインサポートサービス「ワン・オンライン(One Online)」や、プログラマティック・プラットフォーム「ベンチ・コネクト(Bench Connect)」を用いたマーケティングインテリジェンスサービス「インテグレート・パフォーマンス・プラットフォーム(IPP)」を立ち上げるなど、ADKはさまざまな業務提携を結んだ。IPPはあらゆるアドプラットフォームやDSP(デマンドサイドプラットフォーム)の広告アカウントを一元管理でき、複数のプラットフォームで展開するキャンペーンをスケールさせることができるという。ADK CONNECTのシンガポール拠点は、アジア太平洋地域のIPPのハブとして機能している。また、ラクスルの運用型テレビCMサービス「ノバセル(Novasell)」と協業したり、プリンシプル社と顧客データマネジメント領域で業務提携契約を締結。さらにケイパビリティーを高めるべく、コミュニケーションの支援サービス「ワン・オンライン(ONE ONLINE)」の提供も開始した。

事業の中核であるクリエイティブの面では、ビジネス課題に機敏に対応するべく「ADKクリエイティブモール」を立ち上げた。これは専門領域に特化した11のソリューションユニットの中から、課題に合わせてパートナーを選ぶことができる仕組みになっており、各ユニットには6~10名のスタッフがいる。従来型の広告ソリューションのみならず、低予算での動画制作から高付加価値なコーポレートブランディングに至るまで、コンテンツ制作のあらゆるニーズに応えていく。

ただ、これらの提携や協働とは別に、コアとなる社内のイノベーションのイニシアチブについても、もっと触れてほしかった。

DEI&サステナビリティー (D)

今年も、ADKのDEI(多様性、公平性、包摂性)に対する投資や関心の度合いについては「期待はずれ」という言葉では言い尽くせない。DEIの項目についての回答は、在宅勤務やフレキシブルな働き方のオプションなど、ベーシックな取り組みがほんの少ししか記載されておらず、全体の評価指標をどう改善していくのかといったことは定性的にも定量的にも記されていなかった。DEIの取り組みについて同社が挙げていたのは、妊娠している従業員全員が産前産後休業を取得した、ということだけであった。

Campaignは毎年、ADKのDEIへの無関心さを指摘しているが、わずかな改善しかみられなかった。ADK側が挙げるのは個々のケース(中国ではADK CONNECTのトップも人材担当責任者も最高財務責任者も現地の中国人であること、マレーシアやタイのオフィスも多様化が進んでいることなど)だが、これで十分とはいえない。

サステナビリティーに関して、電通など国内広告大手や欧米の広告大手に匹敵するレベルに到達するには、道のりはまだ長い。この分野への投資についてはほとんど触れられておらず、代わりに提出されたのは、エネルギー消費量削減のためのベーシックな取り組みのリストと、温室効果ガスの排出量を抑えるために環境省が呼びかける国民運動「クール・チョイス」や夏季の軽装活動「クール・ビズ」に賛同しているという旨だった。海外のオフィスでDEIやサステナビリティーをどのように推進してきたかについては、ほとんど触れられていなかった。

DEIやサステナビリティーのパフォーマンスがほとんど改善されていないため、この項目でADKは3年連続のD評価となった。なおも改善がみられない場合には、2022年の評価をFに落とす必要があるだろう。

クリエイティビティー&エフェクティブネス (C+)

2020年に分身ロボットカフェやLittle Glee Monstersのオンデマンド有料ストリーミングライブなどが注目を集めたADKだったが、2021年はもっと長い作品リストを提供してくれたものの、目を引く作品は見当たらなかった。

ADK台湾が制作した即席麺ブランド「ユニ・ヌードル(統一麺)」の動画『吃麺看個性(You Are How You Slurp)』が、カンヌライオンズ2020/2021でブロンズを受賞した。このキャンペーンは2015年から『小時光麺館(House of Little Moments)』としてシリーズ展開しており、さまざまな個性を持つ来客によって創作料理へと変化する様子や、性格診断的な要素も楽しめる作品になっている。

NTTドコモ


広告賞に関しては、ADKクリエイティブ・ワンが手掛けたNTTドコモ『復活!あの頃ケータイ』がアドフェスト2021でシルバーを、本田技研工業『Awaken The Race』がブロンズを受賞した。またアドスターズ2021(釜山国際広告祭)で、CherryとADKマーケティング・ソリューションズが携わったスクウェア・エニックス『A Life With WALK』がフィルム部門、ブランデッド・エンタテインメント・ビデオ部門、ブランデッド・バイラル・ビデオ部門でブロンズを3つ受賞している。

マネジメント (C+)

ADKのトップである植野伸一氏は、難しい舵取りを迫られている状態だ。古い体質の残るエージェンシーネットワークがデジタル時代への転換していく流れを、パンデミックが加速している。2020年にはある程度の進歩がみられ、2021年はADK CONNECTやVBAの成長など、今後につながる手ごたえをつかんだ年だった。国内事業の成長は比較的遅いものの、海外事業はかなりの規模での成長を示し始めている。

離職率は比較的低く抑えられているようだ。ADKによると国内の離職率は4%で、日本市場ではごく一般的な数字だ。海外では離職率は約20%で、地域全体で人材獲得競争の真っ只中にあるという。

ただし、トレーニングや能力開発プログラムはごく当たり前のもので、特に目を引くものはなかった。

同社が「階層別の研修プログラム」と説明するADK UNIVERSITYだが、他社や業界がトレーニングやスキルアップを手厚くサポートしている今の時代において、特に目新しいものではない。

改善された点はいくつかあるものの、経営陣には取り組むべき課題がいくつかある。まず一点目は、ADKという企業の規模からすると、奥行きのあるクリエイティブや広告賞の受賞数が十分とはいえないこと。二点目は、同社全体でのDEIや人材関連の取り組みに失望させられ続けていること。そして三点目は、日本国内での事業を中心とした広告会社がアジア太平洋へと拡大していくにあたって、競争に勝ち抜けるだけのイノベーションをADKがまだ見せてくれていないことだ。

 統合型コミュニケーションサービス、キャンペーン開発とエグゼキューション
 戦略プランニング、ブランド開発
 クリエイティブ開発(マスメディア、オンライン、ソーシャルメディア、コンテンツ、アクティベーション等)
 デジタルキャンペーン、リードナーチャリング
 プランニングと運用(フィルム、プリント、グラフィックデザイン、オンラインコンテンツ、ウェブデザイン、イベント)
 PR・IRプランニング
 メディアプランニング、バイイング(マスメディア、ソーシャルメディア、デジタルメディア)
 ダイレクトマーケティング、BtoBコミュニケーション、グロースマーケティング
 マーチャンダイジング、ブランドアセット開発
 コンテンツやアニメの制作、ライツマーケティング/マネジメント

情報通信&IT
食品、飲料、パーソナルケア
製薬&ヘルスケア

飲料(日本)
化粧品
ファッションレーベル(グローバル)
日用消費財・食品
リテール/eコマース
グループエム
製薬(日本)
楽天
情報通信(日本)
ユニリーバ

(ADKは主要クライアントを公表していない。
Campaignは公開されている情報をもとに上記のリストを作成した)
 

回答なし

(文:Campaign Asia-Pacific編集部、翻訳・編集:田崎亮子)

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