David Blecken
2019年4月11日

ゴーン氏映像:賢明なPRか、単なる愚行か

日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏の再逮捕前の映像が公開された。窮地に立つ同氏は失地回復を狙ったが、疑惑を晴らすまでには至らなかったようだ。

公開されたカルロス・ゴーン氏の映像から。自身の日産への貢献を繰り返し説き、同社のリーダーシップを批判した
公開されたカルロス・ゴーン氏の映像から。自身の日産への貢献を繰り返し説き、同社のリーダーシップを批判した

9日、ゴーン前会長の弁護団によって公開された映像は約730。同氏は自身を日産自動車経営陣による「陰謀の犠牲者」と主張した。だが、一連の疑惑を晴らす証拠はほとんど提示せず。その代わり日産や日本に対する愛惜の念、元同僚たちに対する失望感、そして日産の将来への憂慮などを語った。

当初ゴーン氏は保釈中に記者会見を開く予定だったが、会社法違反(特別背任)で4日に再逮捕。準備されていた映像の公開には大きな注目が集まっていた。だがその一方で、声明を発表するという手法には否定的な意見も。日本のメディアの観測筋の間では、「異例であり得策ではない」とする意見が多数を占めていた。

映像に対する日本国内の反応は賛否両論だ。日本経済新聞電子版に寄せられたツイートでは、ゴーン氏に対する賛意と批判がほぼ半々に分かれた。日産の姿勢を批判するものもあった。

例えばツイッター・ユーザー名@ethan3803258 曰く、ゴーン氏の釈明は「到底信用できない」。また@23_escherは、疑惑の中心である不正取引についてきちんとした説明がなされていないことは「残念」。反対意見としては、@YayeAntengは日産の取締役や会計監査担当者が「退任すべき」とし、@yoshy338は日産経営幹部のビジョンのなさを批判する。

Campaignが尋ねたPR専門家の意見も二つに分かれた。PR会社ルダーフィン(Ruder Finn)でグローバルレピュテーション及び危機管理担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務める香港在住のチャールズ・ランケスター氏は、「映像の公開でゴーン氏はあらゆる人々を出し抜いた。彼にとって非常に有利な結果をもたらすでしょう」と話す。

「その理由はまず第一に、彼個人がよく表現されていること。否定的報道がおびただしく流れましたが、この映像で彼は再びトップニュースとなる話題の中心に返り咲いた。映像はシンプルかつ明快、そして存在感や覚悟も感じられます」

「これまでゴーン氏はニュースの犠牲者でしたが、今はニュースを牽引する立場になった。これが二番目の理由。彼はタフで自信に満ち、冷静です。この事件の真相は明らか。彼は犠牲者であり、責任があるのは他者。映像で指摘するように、日産内部で大きな陰謀があったのです」

「三番目の理由は、彼がカルロス・ゴーンというブランドを再び利用し始めたこと。検察と弁護士との闘いやメディアの騒動の中で、このブランドはほぼかき消されていた。映像では、今回の事件の登場人物たちの期待するシナリオを察することができます」

広報代理店ホフマンジャパンのゼネラルマネージャー、野村真吾氏は逆の見解を持つ。「映像公開で裁判がゴーン氏に有利に働くことはないだろうし、世論が同氏に好意的になったり、検察に否定的になったりすることもないでしょう。裁判所の判断は極めて独立性の高いものであり、世論やメディアの影響は受けないと考えます」。

一般的には「こうした状況下で録画メッセージを公表することには賛成できない」と同氏。「多くのファンを持つ芸能人やアーティストであるならこうした手法も考えられるでしょう。しかしゴーン氏のようなビジネスリーダーがやるべきことではない。日産のファンは必ずしも彼のファンではないのですから」。

「この映像は、日産の昨今の業績の悪さや信頼できるリーダーシップの欠如を訴えている。日産ブランドにより大きなダメージを与えかねません」。ゴーン氏を支持しようがしまいが、投資家を含めた多くの人々が日産の未来を悲観的に見かねないのだ。

(文:デイビッド・ブレッケン 取材協力:ファイズ・サマディ、田崎亮子 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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