世界最大の広告主であるP&Gの年次レポートによると、同社が2016年7月より2017年6月までの1年間に全世界で支出した広告費は、前年同期より1億2500万米ドル(約137億5千万円)減少した。
米国の巨大消費財メーカーは、2017年4月から6月の四半期にデジタル広告費の支出を1億4千万ドル削減。つまり、全広告費の削減分に相当する。その理由はオンライン広告におけるブランドの安全性や不正行為に対する懸念だ。
「フェアリー」「パンパース」「タイド」といった著名ブランドを擁するP&Gの広告費は2013年に81億9千万ドルだったが、それ以降は売上高を伸ばすのに苦戦、広告費が数年で10億ドル以上減少した。
2014年は広告費が78億7千万ドルに減り、2015年は71億8千万ドル、そして昨年は72億4千万ドルと若干増えたが、今年は再び減って71億2千万ドルとなった。
ここまで広告費が下がったのは2006年以来で、この年も同額の71億2千万ドル。その後、自社のビューティーブランドをコティへ、「プリングルズ」をケロッグへ売却するなどし、会社の規模は徐々に変化した。
P&Gのスポークスマンは、「弊社の各ブランドの展開によってマーケティング費は年々変化する」とコメント。
マーケターやエージェンシーは、その規模と知名度から広告業界に強い影響力を持つP&Gの動向を注視する。
同社のマーク・プリチャードCBO(チーフブランドオフィサー、最高ブランド責任者)はこの1月のスピーチで、デジタルメディアのサプライチェーンを「良く言えばうさん臭く、悪く言えば詐欺組織」と酷評し注目を集めた。
この発言の後、同社は4月から6月までの四半期にデジタル広告費を削減。「弊社の規範や尺度に合った場所に広告が表示されていない。見るのは生身の人間ではなく、ボットだけです。それゆえ当面はデジタル広告への支出を抑えていく」と投資家に釈明した。
この四半期の売上は堅調に2%の伸びを示し、同社スポークスマン曰く「デジタル広告の一部は効果がないことを証明した」。
また広告費削減は「賢明な投資」であり、決して「利益を増やすための経費削減策ではない」とも。
「我々はデジタル広告に支出したいと考えているし、支出を続けていきます。しかし株主のことを考えれば、愚かな投資をするわけにはいかないのです」
だが同社は財政的圧迫を受けており、より幅広い経費削減策を続けている。この四半期で諸経費や代理店手数料、生産コストなどの見直しを行い、生産性を向上させた。
P&Gの2016年7月から2017年6月までの売上高は651億ドルと振るわず、2012〜2013年同期の約740億ドルから大きく下げている。
アクティビスト投資家であるネルソン・ペルツ氏は、成長を促すため販売とマーケティングをより一体化するよう要求。更に取締役の地位も要求したが、同社はこれまでのところ拒否している。
大手消費財メーカーはどこもデジタル化やeコマースへの対応に苦慮しており、広告費や代理店手数料、生産コストの見直しに取り組んでいるのが実情だ。
(文:ギデオン・スパニエ 翻訳・編集:水野龍哉)