マーケティング業界では依然「デジタル改革」という言葉が好んで使われるが、マーケターはあまりそれに関与していないことが世界規模の調査で分かった。
フォレスター社が米英独仏豪中加7か国1700人以上のマーケターを対象に行った調査で、社内のデジタル改革を主導するのはITマネージャーが最も多いという結果が出た(42%)。その次に多かったのはCIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー)やCTO(チーフ・テクノロジー・オフィサー)といったテクノロジー関係の責任者(40%)。
CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)やそれに相当するシニアマーケターでデジタル改革の責任者を務めているのは、わずか16%。戦略面での責任者も25%弱で、45%のテクノロジストや37%のCEOを下回った。
これは憂慮すべきことだろうか。「間違いありません」というのはフォレスターの主任アナリスト、トーマス・ハッソン氏。「往々にしてデジタル改革の責任者は顧客の声を反映させたり、ブランドに必要な“活力”を生み出したりすることができない。デジタル改革によってエンドユーザーの体験を向上させる責任は、CMOにあるのです」。
CMOが重用されない理由は、よく知られるように在職期間の短さにある。フォレスターは「CEOの平均在職期間が8年であるのに対し、CMOは4年」とコーン・フェリー・インスティチュートの調査結果を引用。加えてCMOは元々大きな権限が与えられていないことが多く、ブランドが指針とする案件で発言権がない。自然、データやテクノロジー分野での改革について行くのに苦労するのだ。
またフォレスターは、B2Cのグローバルマーケティング責任者885人に対しマーケティングプログラムにおける最大の課題について尋ねた。その結果、約3分の1が「テクノロジースキル」と答え、以下「インサイトに基づいた意思決定」「新たなチャネルの専門知識」「データクオリティーの管理」「有意義な顧客体験の創出」と続いた。
では、こうした事態にどう対処すればいいのだろうか。 「CMOはおそらく自分の周りに“サイロ”を築いてしまっている。その壁を崩し、全体的な視野を持つことが必要」とフォレスター。データサイエンティストなどを取り込み“ハイブリッドチーム”を作ったり、新たな人材を惹きつけるために現有社員を再教育したりすることも重要だという。
更に、CMOは自分たちのことを「顧客の真の擁護者と考えるべき」とも。つまり顧客をデジタル処理やKPI(重要業績評価指標)の対象物ではなく、ヒトとして見るべきなのだ。そして社員一人ひとりもブランド価値の形成において欠かせない存在だと自覚させ、自発的な行動を促す。フォレスターは、雇用側にいるCMOが企業ブランドに対しての責任をほとんど取ろうとしないという。よって人事やIT部門の社員と密に協働し、「社員向けのテクノロジーが顧客向けのテクノロジーとどのように協調し機能しているか、顧客の成果向上のために理解しなければならない」という。
フォレスターは今回指摘していないが、改革主導の上でCMOが直面するもう一つのハードルが「信用」だ。スターコムのシドニー支社でデジタル及びコマースの責任者を務め、数多くのクライアントの改革に携わってきたライアン・メネゼス氏は、「かなりのCEOは単純にCMOを信頼していない」という。
更に「改革が何を本当に意味するのか、理解されていない」とも。「私が参加したある会議では、皆がソーシャルメディアやフェイスブックの広告について話し合っていました。こうした議論は“改革”ではなく、“戦略”なのです。チャネルのことはもういい。改革とは、顧客体験とビジネス成果のことを意味します。それを認識すれば、本当の改革的なアプローチが見つかるでしょう」。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)