「プログラマティックは確かに自動取引で威力を発揮するが、プログラマティックの意味を、目立たないウェブサイトから広告枠を買い付けて量的にまとめることと勘違いしているケースが多い」。アテンション分析を提供するMOAT社のCEO、ジョナ・グッドハート氏はこのように述べる。そしてこの誤解が原因となり、オープン・アドエクスチェンジ上で売買されるインプレッションには、ニッチ商品を多品種少量販売する「ロングテール」に似た現象が起きているという。
プログラマティックメディアと聞くと、オープン・アドエクスチェンジによって獲得可能なありとあらゆるインプレッションと、その莫大な規模、効率的な価格決定を思い浮かべる人が多いだろう。
次に浮かぶのは、それに伴うさまざまなリスクや懸念ではないだろうか。コントロールの難しさ、不透明性、不正行為、広告ブロックの普及、ユーザーの目に留まらない広告……などだ。
こうした不安要素はありつつも、プログラマティックメディアを使わないという選択は間違っているだろう。
むしろマーケターは、プログラマティックメディアに自ら乗り出すべきだ。プログラマティックの判断をアドテク企業にゆだねるのは、もうやめにしよう。そして、自ら選んだメディア企業と直接取引を始めよう。
プレミアム・プログラマティック:まともな仕組み
先ごろ開催されたアドバタイジングウィーク・アジアにおいて私は、プレミアム・プログラマティックに関するパネルディスカッションを、サイバー・コミュニケーションズ(cci)と電通の方々と一緒に行う機会があった。
そこでは、パブリッシャーと直接取引するケースから、プレミアムとは程遠いオープン・アドエクスチェンジを大規模に使うケースまで、さまざまなプログラマティックメディアのモデルを紹介した。プライベートマーケットプレイスやプログラマティックな直接取引にも触れている。
このパネルディスカッションで、いくつか印象に残ったことがある。
ユーザーを中心にしてこそ、マーケティングの効果がある。確かにその通りなのだが、どうもこの理屈は重視され過ぎてきたようだ。その結果として、必ずしもユーザーと同一ではない「クッキー」が注目され、広告が表示されるコンテンツ環境の質やユーザーの意識といった「コンテキスト」が軽視されてきたように思う。
ユーザーもさることながら、ページも大事だ。特に、認知度の向上に取り組むブランドのマーケターにとって、ページは認知度向上の入り口となる重要なものだ。広告が表示されるコンテキストの質に対する認識と、ブランドメトリクスのパフォーマンスの間に強い相関関係を認める研究結果もある。
オープン・アドエクスチェンジは目下、質の高いパブリッシャーにとって適当な経済状態になっているとは到底言えない。なぜテクノロジープロバイダーに売り上げの50%も渡さなければならないのか? オリジナルコンテンツの制作に投資もせず、既存のコンテンツを寄せ集めただけのパブリッシャーと、なぜ価格面で競わなければならないのか?
優れたパブリッシャーのために、もっとまともな仕組みが必要だ。
日本での試み
業界内のイベントで話題にするにとどまらず、プレミアム・プログラマティック・メディア・バイイングを試行し始めたブランドもある。
当社では既に、国内のDSP(広告主のための広告配信プラットフォーム)上でプライベートエクスチェンジが実現されている例を確認している。たいていの場合、直接取引の方がパッケージ提案より優位なのだが。
当社のパフォーマンスデータは、オープン・アドエクスチェンジよりもプレミアム・プログラマティックの方が費用面で割高だという、予想通りの結果を示している。しかし、高いのは費用だけではない。ページの順位、ビューアビリティー、広告に対するユーザーの関心度なども、プレミアム・プログラマティックの方が優位なのだ。
また、広告の質とユーザーの関心度が高まるというプラス面に加え、不適切なコンテンツと隣接することや不正行為による被害といった、オープン・アドエクスチェンジに付きまとうリスクの管理もできる。
パブリッシャー側にも、効率の良いオペレーションによって利益率の高いサービスや、戦略的な提案(例えば、コンテンツマーケティングやデータなど新しいサービス)に注力できるといったメリットがある。
今後の見通し
日本ではプレミアム・プログラマティックはまだ始まったばかりで、いち早くこれに取り組むプレーヤーたちによって新しい市場が形成されつつある。もちろん、クライアント側の受け入れ態勢や変革に伴う労力、パブリッシャー側の関心や技術力といった、さまざまな側面を考慮しなければならず、この市場の発展には一定の時間がかかることは否めないのだが。
良質なパブリッシャーをプログラマティックに招き入れること。これによって、パブリッシャーとそのマーケティング・パートナーの双方に新しい価値がもたらされることは間違いない。
デイヴィッド・リッテンハウス氏は、東京を拠点とするネオ・アット・オグルヴィの代表取締役。
(編集:田崎亮子)