Helen Roxburgh
2016年7月15日

プログラマティック技術が日本でも普及へ

日本におけるメディアテクノロジーの進歩を分析する本シリーズ。後編の今回は、人々の理解が深まれば今後間違いなく、メディアプランニングやメディアバイイングの主流となっていく分野に焦点を当てた。

プログラマティック技術が日本でも普及へ

日本市場で透明性の向上や説明責任の明確化を求める声が大きくなる中、プログラマティック・メディアバイイングが広がりを見せている。プロセスはリスティング広告からディスプレイ広告、そしてモバイルや動画へと進化し、外資系プロバイダも市場に参入した。

プログラマティック取引は、従来の広告メソッドとは異なる。しかし、その規模や効率がもたらすポテンシャルの大きさが理解されるにつれ、メディアや広告主の間で大きな話題となりつつある。
この新技術に対するマーケターたちの理解は、けっして深いとはいえない。そこで、専門のメディアエージェンシーだけでなく、IBM、デロイト、アクセンチュアといった数多くのコンサルティング企業が、商機を見据えてしのぎを削っている。

「日本のマーケティング予算のほとんどは、いまだにオフラインメディアに投下されている」と語るのは、Essenceアジア太平洋地域プログラマティック担当のジェイソン・ジュトラ氏だ。「しかし、マーケターもエージェンシーも、単一チャネルの測定よりも、マーケティング・キャンペーン全体の効果測定に焦点を当てています。キャンペーンの成功には、露出、リーチ、フリークエンシーといったパネル調査など、オンラインとオフラインの両チャネルを分析する従来的な測定がカギとなります」

目覚しい成長

プログラマティックは日本では比較的新しいコンセプトだが、その浸透の速さには目を見張るものがある。IDCのリサーチによると、日本国内におけるリアルタイム入札(RTB)の総額が2016年末までに11億米ドルに達すると予測されている。これは、RTBの入札額では世界で最も高い成長率だ。2013年にはわずか1000万米ドルだったことを考えると驚くべき伸び率だ。

「日本の市場環境とエージェンシーの構造は非常にユニーク。そのため、独特な進化を遂げているといえるのでは」とKenshooアジア太平洋日本地域マネージング・ディレクターの今村幸彦氏は話す。「従来型のメディアが今でも効率よく機能しているキャンペーンもあります。しかし、デジタル広告費の50%以上はすでにプログラマティックバイイングによるものとなり、業界には明らかな変化が見られます」

市場の変化に伴い、日本の大手エージェンシーもマーケティング手法を変えてきている。例えば、電通や博報堂、ADKといった大手は今もテレビ広告で収益をあげているが、オーディエンスデータ、効率性の促進、メッセージごとの適切なユーザーの特定といった価値を理解し、それらに重点を置き始めている。市場の変化に敏感に反応しているのだ。また、電通はこのようなニーズに応えるために、電通デジタルを設立したばかりだ。

デジタルエージェンシーの設立は、いささか遅い印象もある。日本は、他の同等の成熟市場とは異なるユニークなステージにある。日本で事業展開している外資系エージェンシーも、他の市場ではプログラマティックマーケティングをすでに幅広く利用している。


説明責任をより明確に

「日本でもメディアの説明責任がより明確になり、効果測定も今まで以上にしやすくなるモデルへと、急速に移行していくでしょう。それも今後2~4年で、グローバルに展開している大手の日系企業だけでなく幅広い層へと浸透していくと思われます」と語るのは、IPG メディアブランズジャパン CEOのアンソニー・プラント氏。「日本でもようやくスタートしましたが、出遅れている状態です。私たちは世界的ネットワークでありながら、同時にローカルでもあるので、デジタル分野の専門知識を早い段階で日本市場に持ち込むことができました。デジタルに焦点を定め、そのうえでどのようにプロセスを最適化できるか、顧客と一緒にプロジェクトに取り組んでいます」

日本におけるプログラマティックの最適な応用方法は、インサイトやデータをオーディエンス情報に組み込み、位置データや他の市場実績評価指標と掛け合わせることだ、と専門家の意見は一致する。

理解を深める

MediaMath日本担当 カントリーマネージャーの横田祐介氏は「マーケターによってプログラマティックについての理解は異なるが、ほとんどの場合、RTBへの参加やリマーケティングのツールとして使用する機会として、プログラマティックを見ている」と話す。

「デマンドサイドプラットフォーム(DSP)を介したバイイングは、マーケターのメディアプランの一つに過ぎないわけです。プログラマティックはデジタル広告キャンペーンの実行に有用なだけでなく、デジタルコンシューマーの行動から取得したインサイトをリアルタイムで使う最適化ツールでもあるのです。したがって、マーケターが適切なタイミングで適切なオーディエンスにリーチできるだけでなく、キャンペーンのROIも向上するのです」

だが、プログラマティックはすべての問題を解決してくれる万能ツールであるかのように、いまだに誤解されている。また、データ測定の部分では、プログラマティックがより浸透している先進市場から日本が学べることは多い。例えば、日本では多くのマーケターがパッケージソリューションに頼っている状況だ。

「日本のほとんどのマーケターは、グーグル、ヤフー、CriteoなどのDSPが提供する既成のパッケージソリューションに依存している」と横田氏も指摘する。「それぞれのマーケターのニーズに合うようにカスタマイズした、最適なソリューションの提供こそ、日本が先進国から学べる部分です。例えば米国では、大手マーケターは独自のアルゴリズムを用いてプログラマティックマーケティングを行なっています」

日本でもマーケターが消費者行動を理解することの重要性を認識するにつれ、こういった傾向が徐々に現れてきている。大手マーケターはファーストパーティデータ、オフラインデータ、CRMなどの多種のデータを集積し、クロスデバイスデータに統合する方法を模索中だ。

ジュトラ氏も「日本におけるプログラマティックのオープンオークション方式は、ダイレクト・レスポンス・マーケティングやブランド構築に役立つ」と話す。「市場に現存する技術を活用すれば、適切なタイミングで適切なユーザーにリーチすることが可能です。ただし、プログラマティックであるかどうかにかかわらず、広告キャンペーンでもっとも重要なのは、目的に合ったクリエイティブを制作することにあるのです」

ひと言:プログラマティックが日本にもたらす恩恵

リスク回避と安定を志向する日本では、プレースメントと広告枠購入の仕組みが従来型のまま固定化しており、プログラマティックはいまだにオンライン広告総額の15%止まりだ。しかし、悲観することはない。

日本が今、またとない転機にあると気付いているマーケターもいる(まだ十分な人数とはいえないが)。データドリブンな プログラマティック広告取引が実現すれば、多くの恩恵を受けることは間違いない。

海外進出を積極的に追求してきた日本のブランドは、進化したプログラマティックのエコシステム(データ、インベントリ、テクノロジー)を体験し、何が効果的で何がそうでないか、何が実行可能かを学んできた点で有利だ。例を挙げると、DMP(データマネジメントプラットフォーム)とECプラットフォームを組み合わせて統合してオーディエンスを特定し、パフォーマンスを隅々まで追跡することが、海外で非常に効果的だった。彼らは海外でのこのような成功体験から、同様のモデルの日本での展開に意欲的で、日本でプログラマティックを後押しするのに一役買っている。今この波に乗れるブランドは、プログラマティックの主流化という不可避な流れの中で、大きな強みを手にするだろう。

変化を受け入れないことこそ、リスクではないか。

佐藤真友
マインドシェア
ヘッドオブデジタル

(文:ヘレン・ロクスバーグ 翻訳:CLS 編集:田崎亮子)

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