マーケターは、目新しいテクノロジーにはすぐ飛び付くことで有名だ。それも、それが本格的な変革を起こすものか、それとも一時的な流行にすぎないのか、見極めがつく前に飛び付いてしまう(ライブ配信アプリ「Clubhouse」を覚えているだろうか?)。
メタバースは、2022年を通じ、常に広告業界幹部の話題を独占してきた。しかし最近は後者、つまり、「一時的な流行にすぎなかったもの」と見られ始めている。
2021年頃、メタバースの話題は、テクノロジーやマーケティング関係者のあいだでは確かに盛り上がっていた。しかし、同年10月に、フェイスブックがメタにリブランディングしたときに、広告業界のメタバースブームは一気にピークに達したのだ。
私の受信トレイは毎日、「ディセントラランドにおけるバーチャルストアの開店」や「NFTコレクションの制作」、「フォートナイトでの新しいスキンの発売」などのピッチ案件で溢れかえっていた。
そして、この盛り上がりを体現していたのはメタだろう。メタは、自社の広告事業を犠牲にしながらも、メタバース実現のために数十億ドルもの予算をつぎ込み、メタバース専門のスタートアップに大規模なVC投資を呼び込むきっかけをつくった。ブームの絶頂期、マッキンゼーはメタバースの市場規模は、2030年までに3兆ドル(約400兆円)を超えると予測していた。
Campaign USも、この新しい空間に対するマーケターの興奮に同調して、メタバースがブランドやビジネス、消費者に与える影響を掘り下げた6部構成の動画シリーズを公開した。
しかし現在、メタバース熱は急速に冷めてきているように見える。景気悪化が続いている上に、AIをはじめとする、より具体的な成果をもたらすイノベーションが、業界の注目を集め始めているためだ。
ディズニーは7000人を削減するリストラの一環として、「次世代ストーリーテリングおよびエクスペリエンス開発部門」を閉鎖すると発表した。これは、1年前に新設されたばかりの50人規模の組織で、メタバースの戦略推進を担う部門だったが、ディズニーが投資家から、不要不急の事業コストを削減するよう圧力をかけられた結果だ。
経済の見通しが不透明になったことで、かつてメタバースに乗り気だった企業も次々と撤退し始めている。この分野としては不相応とも言える大ブームを引き起こした張本人のメタでさえ、低迷する広告事業を安定させるため、大量解雇によってコストを圧縮し、メタバースへの投資も縮小すると発表せざるをえなかった。
ドミノ倒しは続くだろう。「メタバース」と呼ばれるプラットフォームを実際に利用している人は、実はそう多くないという事実に、ブランドが気付き始めたためだ。
例えばメタは、複数の自社プラットフォームで数十億人ものユーザーを有しているが、同社のVRプラットフォーム「ホライゾン・ワールド」の月間ユーザー数はわずか20万人ほどにすぎない。また、ダップレーダー(DappRadar)によれば、ディセントラランドのデイリーアクティブユーザーは、1年前には5万人を記録していたが、現在はわずか650人だという。
さらにブランドは、メタバースユーザーの多くがあまりに若く、合法的な広告の対象にはならないことに気付き始めたようだ。ウォルマートは、昨年10月にゲーミングプラットフォーム「ロブロックス」上でオープンした「ユニバース・オブ・プレイ」を2023年3月にクローズした。非営利団体の「トゥルース・イン・アドバタイジング」から、子どもに対するステルスマーケティングではないかと批判されたためだ。
これらを総合すると、Campaign UKが4月2日付けの記事で書いたように、メタバースは、ほとんどのブランドにとって「適切な場ではない」のかもしれない。
暗号通貨市場の崩壊や、投資需要の冷え込み、テクノロジー各社の大量解雇など、さまざまな理由が考えられるが、いずれにせよ、メタバースへの過大な期待は、盛り上がったときと同じくらい、急速にしぼみ始めているようだ。
メタやディズニーのような大企業であれば、このようなダメージにも耐えられるかもしれないが、新興のメタバース・マーケティングエージェンシーや、メタバースにすべてを賭けたデジタルエージェンシーは、このような突然の環境悪化に耐えられるだろうか。一部のエージェンシーは、すでにかなりの打撃を受けており、今後さらに犠牲者は増えそうだ。
とは言え、良いニュースもある。マーケターが飛び付きたくなるような「次世代トレンド」は、次々現れるものだ。
さあ、AIチャットボットに飛び乗ろう。