Campaign Staff
2019年2月07日

世界マーケティング短信:スーパーボウルCMの明暗

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

(HBOとバドライト)
(HBOとバドライト)

スーパーボウル視聴者が何よりも求めるのは、笑い

スーパーボウル(アメリカンフットボールの優勝決定戦)は米国の広告主にとって非常に大きなイベントだが、今年は少々控えめであった。ニールセンの調査によると視聴率は2009年以来最も低く、印象に残る広告は少なかった。つまり、昨年のタイド(P&Gの洗濯用洗剤)やアレクサ(アマゾンのスマートスピーカー)のように目を引くCMが無かったのだ。

最も良い作品はユーモアのあるもので、実際にパボーネ(Pavone)が実施した調査「スポットボウル(SpotBowl)」でも、視聴者の92%が笑える広告を好むことが明らかになった。我々(と米国で広告業界に精通する者たち)の間で好評を博したのは、HBOとバドライト(クオリティーが高くてドラマチック)、ステラ アルトワ(好感が持てて可笑しく、懐かしさも感じる)、T-モバイル(シンプルかつダイレクト)、現代自動車(ウィットに富み、良い意味で予想を裏切る作品)。一方で不評だったのは、サイエントロジー(何の関連性も無いストック映像素材をつなぎ合わせただけ)、ミケロブ(放送される場を考えると場違いに見える)、起亜自動車(シリアスすぎるし、小さな町の住民たちを意図せずして持ち上げすぎている)であった。

また、ロボットをテーマにした興味深いCMもいくつか見られた。中には、ロボットは人間の知性や感性に代わるものではないということを、広告業界の人たちが(自分たち自身や)広く一般に知らしめ、安心感を与えようとするような作品も。ロボットを扱ったCMの例は、ミケロブ(前述のものとは別のCM)、スプリントシンプリセーフ(ホームセキュリティー会社)、ターボタックス(税申告ソフトウェア)、プリングルズなど。不気味でユーモラスだが、とても奇妙な作品が多く、まるでこの混沌とした実社会を映すかのようでもある。

スーパーボウルは極端なまでにアメリカらしさを映すものであることは、言うまでもない。だがパボーネ社の調査から得られる教訓は、他の大型スポーツイベントの広告にも活かすことができるだろう。まず、ユーモアのセンスを発揮できないのであれば、せめてシリアスすぎないものにすること。67%の人々は、社会的な大義や意義を主題としたCMを好まないと回答しており、また政治を広告に持ち込むべきでないと考える人は90%にも上る。そして、正しい広告展開をできれば、効果も明らかだ。スーパーボウルのCMを見たことで、商品やサービスを購入する可能性が高まったと回答したのは、64%であった。

大変革に備える電通イージス・ネットワーク

UBSのフォルカー・ドベランツキー氏が電通イージス・ネットワーク(DAN)に参画し、事業を指揮する。自分たちと非常に似通ったスキルを持つ人材を雇う傾向がある広告業界において、異例のことだ。同氏には「グローバル組織のトランスフォーメーション(変革)」の実績があると語るDANのティム・アンドレーCEOは最近、DAN内で近々大きな変革が起こる可能性を示唆している。声明によると、ドベランツキー氏はロンドンに拠点を置き、「グループ内のシステム統括のためのガバナンス、リソース、プロセス、ツール」を強化していくとのこと。金融業界の規範の多くはメディア業界でも適用できるものであり、この業界で働いたことはないものの「ビジネスモデルにはかなり精通している」とドベランツキー氏は語る。

メディアエージェンシーが他業界から人材採用する例が、もう一件。グループエム(GroupM)がブライアン・ウィーザー氏を、ビジネスインテリジェンス責任者として採用したのだ。ピボタルリサーチグループ(本拠地:米ニューヨーク)に8年間在籍したウィーザー氏は、メディアや広告の世界で最も著名なアナリスト。「業界の動態や消費者行動、メディアパートナー、テクノロジープラットフォームを深く理解しています。洞察に富む分析において比類なき才能を持っており、我々のクライアントがマーケティングへの投資を判断するための後押しとなるでしょう」と、グループエムのケリー・クラークCEOは語る。

ツイッター、広告収入急増によって遂に黒字化

米ツイッター社の2018年第4四半期の広告収入が7億9100万米ドル、前年同期比23%増となった。2006年に創業から12年間で、通期での黒字は今回が初めて。2013年に上場以降、オンライン動画広告の成長が同社の収益に大きく寄与してきたとみられる。広告収入は通年で26.2億米ドル(前年比24%増)で、そのうち半分は動画広告によるものであった。

繰り返される、大手ブランドの「人種差別」批判

人種差別だとしてさまざまなブランドが非難されてきたが、今度はグッチがやり玉に挙がっている。顔の下半分まで覆うことができる黒いセーターが、白人が黒人を真似して顔を黒塗りする「ブラックフェイス」を連想させるとして、SNS上で批判が相次いだのだ。グッチ側は、ビンテージのスキーマスクから着想を得たものだと説明、公式に謝罪の上で販売を中止した。

ブランドはなぜ、このような失策を繰り返すのだろうか? 同様の例は他にも、プラダ(ブラックフェイスを連想させるサルのキャラクター)、アディダス(黒人歴史月間を記念して真っ白なスニーカーを発表)、ドルチェ&ガッバーナ(中国人を侮辱したとして大炎上)、日清食品(大坂なおみ選手の「白人化」騒動)などがある。

これらのブランドは、人種差別を意図していたわけではないだろう。だが昨今の情勢を鑑みると、念には念を入れるべきだ。多少なりとも人種問題に関連しそうなものを発表する際には、(場合によっては複数の)セカンドオピニオンを求めることが望ましい。グッチにもっと黒人の社員がいたら今回のような問題はそもそも発生しなかったのではないか、というツイートがあったように、社内のダイバーシティー(多様性)も問題の阻止に有効だろう。

FMCG大手の広告費削減、ピュブリシスに影響

2018年10〜12月期におけるピュブリシスグループの売上は0.3%減少し、約28億5000万米ドル(3135億円)だった。P&Gなど米国の大手日用消費財(FMCG)メーカーが広告費を削減したことが影響した。ピュブリシスの収益のおよそ4分の1はFMCG分野からだが、これらメーカーの事業は決して順調ではない。各社はより効果的なマーケティングを模索しており、広告費を下げざるを得ない状況だ。ピュブリシスは2020年までに4%の成長を目指すが、現況では難しいだろう。この結果を受けて同グループのアーサー・サドーン会長兼CEOは、「この職務は思ったよりもタフ」とCampaignとのインタビューで語った。

アマゾン、世界最大の広告主となるか

P&Gなどが広告支出に足踏みする一方で、アマゾンは意欲的だ。同社の昨年のマーケティング支出は30%増で82億ドルとなり、世界最大の広告主となりつつある。同社は過去5年間で広告費が2倍以上となったが、アナリストは「各企業が支出を異なる尺度で公開するので、アマゾンをP&Gやユニリーバといった他の大広告主と正確に比較することは難しい」と話す。P&Gは昨年6月までに広告に71億ドルを支出。ユニリーバはブランディングとマーケティングに76億ドルを費やした。

その一方で、アマゾンは他のブランドからの広告で大きな収益を上げている。昨年、広告の売上は倍以上となって100億ドルに。市場を複占するグーグルとフェイスブックに迫りつつある。

フェイスブック、長年の幹部が離職

創業から15年目を迎えたフェイスブック(FB)は今、大きな責任と課題に直面している。その一つがデータ保護法による規制強化だが、今後FBはロビー活動により一層力を入れねばならないだろう。そんな最中、PR部門の要職にいる人物が二人離職する。コミュニケーション担当ヴァイスプレジデント(VP)を8年間務めたカリン・マルーニー氏と、この分野で最も長く勤めたインターナショナルポリシー及びコミュニケーション担当VPのデビー・フロスト氏だ。昨年10月、同社はグローバルポリシー及びコミュニケーションのヘッドとしてニック・クレッグ元英国副首相を迎え入れた。多くの意味で魅惑的なFBのPR職だが、今の時点ではこの業界で最も困難な仕事であることは間違いない。

フェデラー選手が登場したものの、味気ないユニクロCM

ユニクロの新しいグローバルキャンペーンに、ブランドアンバサダーのロジャー・フェデラー選手(テニス)が登場。カジュアルな服装でくつろぐ様子が描かれている。ピアノを弾きながら「テニスを始めた頃は、テニスのことしか考えられなかった。自分自身のことを考える時間をとるようにした時、本当に勝てるようになった。私の人生、私のジーンズ。一日中快適な本格ジーンズ」とつぶやくのだ。

このCMは何というか…何かが欠けているように思う。本音を言えば、とても退屈で独創性に欠けた作品だ。この作品のクレジットに名を記したいエージェンシーやクリエイターなんて、いるのだろうか? フェデラー選手にはアンバサダーとして貢献できるだけの特性が山ほどあるはずだが、それが何一つ活かされていない。アスリートのパーソナルな側面を見せることは、決して悪いことではない(キャリア後期の選手であれば、なおのこと)。だが、フェデラー選手とユニクロの関係が今後発展するのに伴い、もっと独創性が現れてくることを期待したい。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)

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