Ryoko Tasaki
2021年11月26日

世界マーケティング短信:バイアスと生きづらさ

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信:バイアスと生きづらさ

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。
 

「男らしさ」の生きづらさ

豪州の独立系エージェンシー「ザ・ホールウェイ(The Hallway)」が、「男性は強くあるべき」という固定観念を覆そうという動画を公開した。英国で1979年に発表されたザ・キュアーズ(The Cures)の「ボーイズ・ドント・クライ」の歌詞を変えたもので、男性たちは傷ついたり辛いことがあっても「男は泣かないものだ」と父親が教えてくれたように涙を隠してきたこと、作り笑いで「元気だよ」と言ってきたことを吐露。しかし「本物の男は助けを得るし、泣きもする」、そして自分の気持ちや、心を傷つけるものについて話そうと訴える。

豪州では毎日平均7名の男性が自分の命を絶っており、これは交通事故死の3倍に上る。また男性の5人に1人がメンタルヘルスの問題を経験するが、助けを求めることは難しいと感じ、胸の内にとどめているという。今回のキャンペーンでは動画の他に、屋外広告も展開中だ。

「男らしさ」については、電通総研も意識調査の結果を公表した。NGO「プロムンド(Promundo)」による2016年の調査「マン・ボックス(The Man Box)」を日本でも実施したもので、「タフであるべき」「一家の大黒柱であるべき」といった「男性らしさ」の規範が与える影響を調べている。

調査対象である日本在住の18~70歳の男性3,000人のうち、約半数が「最近は男性のほうが女性よりも生きづらくなってきている」と回答した。「女性活躍を推進するような施策を支持する」と回答した人の割合は若年男性ほど低く(18~30歳は62.8%、51~70歳は78.8%)、一方で「フェミニストが嫌いだ」については年齢が上がるほど低くなる(18~30歳は42.8%、51~70歳は31.7%)。

また、男性らしさ規範への共感が高いほど、ポジティブな感情も、ネガティブな感情や無気力・無感心感も大きいという。いじめや暴力の、被害者にも加害者にもなる割合が高いという結果だった。

 

DE&Iの欠如が人材流出のリスクに

世界広告主連盟(WFA)が27地域で1万人を対象に、初となるDE&I(多様性、公平性、包摂性)調査を実施した。職場での差別が最も多い要因は、年齢、性別、エスニシティー(民族性)を抑えて「家族状況」(27%)がトップであった。育児や介護に携わることがキャリアの障壁になると回答した女性は40%に上る。

気がかりなのは、アジア太平洋(APAC)の23%が、職場のDE&Iの欠如を理由に、現在の勤め先を辞める可能性があると回答していること。グローバル全体(17%)と比べると高い割合だ。WFAのステファン・ロークCEOは「人材不足の問題は既に顕在化しています」とコメント。「この問題に真正面から取り組むことができなければ、業界にとって何を意味するのか想像してみてください」。広告業界のDE&Iが改善されなければ消費者との間に溝が深まることになるだろうと、同氏は付け加えた。

 

ラッシュ、SNSのアカウントを停止

英コスメブランドのラッシュ(LUSH)が、26日からフェイスブック、インスタグラム、ティックトック、スナップチャット、ワッツアップの利用を停止すると発表した(日本でサインアウトするのはフェイスブック、インスタグラム、ティックトックの3つ)。これらのプラットフォームが「より安全な環境をユーザーに提供できるようになるまで」、事業を展開する48カ国・地域において利用を停止するという。ツイッターやユーチューブは引き続き利用する予定だ。

「バスボムの開発者として、私は人が電源をオフにして、リラックスし、自分たちのウェルビーイングに気持ちを向けられる商品づくりに全力を注いでいます」とコメントするのは、同社のチーフ・デジタル・オフィサー兼商品開発者のジャック・コンスタンティン氏。「一部のSNSプラットフォームは、人々にスクロールさせ続け、スイッチオフやリラックスができなくなるよう設計されたアルゴリズムを使っており、これはラッシュの考え方と真逆の考え方です」。フェイスブックは最近、子どもの安全よりも利益を優先していると元社員が内部告発していた。

ラッシュは2019年にも、フェイスブックとインスタグラムの利用を停止しようとしたことがある。顧客とのやりとりをサードパーティーがどの程度把握しているのかという懸念が理由だった。

 

快適な在宅勤務を実現するアイテムで、来年のセールまで乗り切る

パンデミックで在宅勤務に移行し、自宅が手狭だと感じるようになった人にとって、住宅のセールは快適な環境を手に入れる絶好の機会だろう。だがそのセールを逃してしまったら? タイの不動産開発会社「SCアセット(SC Asset)」は、年末のセールを逃した人に向けて、新しい家に住んでいるような気分に浸れるアイテムを3点紹介するユニークな動画を公開している。

まず、壁掛けの窓型ディスプレイは、左右対称に強いこだわりがある人向けのオプションも用意されている。自然の音を再生するスピーカーも備えており、乾電池は「たったの18本」しか要らない。それでも物足りない人は、トンロー地区(バンコクの高級住宅地)の香りを楽しめるディフューザーがあれば、何でも高級に感じられるようになる。競走馬の目隠しに着想を得たフーディーを着用すれば、たとえ家族が家の中でボールを投げたり麻雀を楽しんでいても、仕事に集中できる――。これらがあれば「来年のセールまで、古い家に住み続けるのに役立つ」とのことだ。制作はウルフ・バンコク(Wolf BKK)。


(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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