多様なクリエイターとそのオーディエンスを支援したいという前向きな広告主が増えているのは、とても心強いことだ。しかし、デジタルメディア環境では、こうした前向きな需要に対応する能力は、2つの要因から制約を受けている。つまり、多様な新興メディアを支える投資と、メディアに投じられる広告予算だ。
前者については、歓迎すべきことに、投資と資金調達の機会が増えてきている。だが後者については、さらなる教育と啓発活動が必要だ。また、業界団体が「ブランドセーフティ」の定義を見直したり、広告対象とすべきメディアインベントリーを体系的に見直したりすることも必要だ。残念ながら、現在のインクルージョンリストは、決してインクルーシブではない──多くのブロックリストが、過剰にブロックしすぎているためだ。
こうした制約は、「広告主のブランドセーフティ」の向上を目指した業界団体の善意の取り組みが招いた、意図せぬ結果だとも言える。
この問題を十分に認識した今、私たちはそれを迅速に解決する必要がある。しかし、その「解決」は複雑で多面的なものであり、解決への強いコミットメントとさまざまなステークホルダーを巻き込んだチャレンジが必要となる。
しかし、そもそもどうしてこのような状況になったのだろうか?
オンライン広告の3つの時代
インターネットの拡大と、巨大なメディアプラットフォームの出現は、オンライン広告の氾濫を招いただけでなく、ブランドにとっては好ましくない、新たな脅威の出現も許した。こうした新しい広告手法の黎明期には、業界標準や指標がなく、ビューアビリティの低下やフラウド、配信ミス等が頻発した。このような混乱期には、適切な対策と管理が必要であり、それが慎重なアプローチへの転換につながった。
2012年には、ANA(全米広告主協会)と4As(米国広告業協会)、IAB(インタラクティブ広告協議会)による「3MS(Making Measurement Make Sense)」の枠組みがスタート。2014年には、IABとMRC(Media Rating Council)が「Web Viewability Guidelines」を定め、2019年からは、WFA(世界広告主連盟)が主導する、グローバル・アライアンス・フォー・レスポンシブル・メディア(GARM)により、一連の業界スタンダードとベストプラクティスが次々と発表された。こうして管理と排除が強化されたことで、ブランドにとって、より安全な環境が構築されてきた。
その中核となるのが、不適切なコンテンツに関連するワードのリストを用いた、キーワードベースのブランドセーフティ及びブランドスータビリティ手法だ。しかし私たちは、ブランドセーフティを追求するあまり、多様なクリエイターがコンテンツを収益化するのを妨げる障壁をつくってしまった。単刀直入に言えば、こうした「善意の努力」の結果、排除の時代が訪れたのだ。
私たちはブランドセーフティの要件を、インクルーシブや公平性の取り組みと一致させていく必要がある。私たちは、排除の時代に終止符を打ち、インクルージョンの時代に移行しなければならない。
意識的なインクルージョン
オンライン広告は、混乱期に始まり、その後、慎重さを追求する流れが続いてきたが、今、私たちはもっと「意識的」になる必要がある。
「意識的である」とは、「自分自身と、自分の周りに在るものの、両方を意識する」ということだ。意識的であれば、何かが起こっていることに気付き、認識できるようになる。より関心を持ち、懸念を持つようになる。そして、考慮や検討をもっと行うようになる。こうしたことが重要であり、もし私たちが、意識的でなかったり、行動しないことを選んだりするなら、私たち自身がその問題の一部になってしまうだろう。つまり、もし何もしなければ、私たちはこの排除の時代を容認したことになるのだ。
意識的であれば、立ち上がり、光を当て、より公平な道へと導かれるはずだ。意識的であることによってのみ、私たちは、過剰なブロックを避け、真にインクルーシブなメディアプランをつくることができる。
私たちチャネル・ファクトリーは、現在のデジタルメディアにはインクルージョンと公平性が欠けていることを啓発しようとしている。そして、差別的ではないブランドセーフティ、ブランドスータビリティの手法を再設計しようとしている。また、志を同じくするエージェンシーやマーケター、業界団体と手を組み、多様性とインクルージョンは倫理的にも商業的にも正しいことを示そうとしている。
私たちの多くはすでにこの課題を認識し、見直し始めている。しかし皆で力を合わせれば、より早く、より遠くに行くことができる。
さあ、もっと意識的になろう。
フィル・カウデル氏は、チャネル・ファクトリーの戦略アドバイザー。