Campaign Staff
2018年4月19日

世界マーケティング短信: WPPの透明性、フォルクスワーゲンの構造改革、テスラCEOの的確な提言

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

ヨッヘン・セングピール氏
ヨッヘン・セングピール氏

WPPが疑惑を曖昧なまま幕引きしているとの批判

WPPのサー・マーティン・ソレル元CEOが不正疑惑の渦中に辞任した問題で、英国自由民主党のビンス・ケーブル党首は、議員特権を行使してでも調査結果を公開するとの姿勢を明らかにした。ソレル氏は疑惑への関与を否定し、WPPも声明で「大問題となる額の不正使用はなかった」と発表しているが、疑惑の解明はソレル氏の突然の辞任で幕が引かれた形だ。BBCによるとケーブル氏は、WPPが問題を曖昧なまま終わらせようとしており、これは同社が「透明性が非常に欠けている」ことの表れだと語っているとのこと。今回の件は社内問題ではあるが、WPPが透明性の高い企業姿勢を示したいのであれば、ケーブル氏の要求に誠意をもって応えるのは至極妥当なことだろう。

フォルクスワーゲン、エージェンシーとのやりとりの簡素化を目指す

ドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが、長期的なマーケティング戦略の一環として、地域ごとに「パワーハウス」と呼ばれるエージェンシーのハブを作る。それぞれのパワーハウスに、地域のさまざまなエージェンシーのリソースをまとめ、クリエイティブ、デジタル、ソーシャル、PR、メディアといった領域を担っていく。究極の目標はブランドの一貫性をより一層高めていくことだと、同社マーケティングディレクターのヨッヘン・セングピール氏は語る。

同社はP&Gやユニリーバと同様、契約するエージェンシーを減らしていく予定でもある。最近はこのようにマーケティングサービスを整理し統合する動きが、随所で見られる。たしかに、さまざまなエージェンシーがばらばらな動きをするよりも、手を携えながらそれぞれの専門性を発揮していく方が、理に適っているだろう。PRも広告も、あくまでもブランディングの一部。二つを別々に切り離してとらえるのは(多くの企業で未だにそれが現実なのだろうが)、近視眼的に過ぎる。

世界的なCMO協議会の代表に、P&Gプリチャード氏が決定

カンヌライオンズと全米広告主協会(ANA)が立ち上げる協議会「CMO Growth Council」の代表を、P&Gのマーク・プリチャード氏が務めることが分かった。協議会が目指すのは、さまざまなCMOの知識や経験を共有し、マーケティング産業の発展に貢献すること。世界の大手ブランドから20名のCMOが参加するが、それが誰なのかは明かされていない。我々が最も関心を寄せるのが、日本のマーケターは参加するのか、という点。世界的に名の通った日本ブランドはいくつかあり、これらのマーケター達がグローバルコミュニティーとの接点を持つことができれば、多くのものを得られるはずだろう。

学ぶところが多い、テスラCEOによる生産性向上のための提言

米自動車情報サイト「Jalopnik」がよると、テスラのイーロン・マスクCEOが生産性を高めるための的確な提言を多数、社内向けのメールで送ったという。同社は近く、自動車の生産台数を増やす予定。マスク氏のメールはマーケティング担当者向けの内容ではないものの、大変役に立つものばかりだ。

例を挙げると、会議について「人数が多過ぎる会議は、大企業に破滅をもたらすもの。そして時間が経つにつれ、状況は酷くなることがほとんどだ。全ての参加者に確実に価値をもたらすのでなければ、大きな会議はやめること。もし実施する場合には、短い時間で行うこと」と記している。他にも、会議をひんぱんに開催することをやめたり、「自分が会議に何らかの価値を付加していないと分かったら、即刻退出すること」も勧めている。

「会議から退出するのは、失礼なことではない。誰かを引き止めて、時間を無駄に使わせることこそが失礼だ」とも。

テスラは世界でもっともイノベーティブ(革新的)な会社として広く知られている。エージェンシーも革新的だという自負があるだろうが、12人もの大人数でクライアントに押しかけ、一名を除く全員が座って何もしないといったことが常態化しているならば、マスク氏のメッセージに学ぶところは大きいだろう。

同氏はまた、部門間のコミュニケーション不足も問題視している。これも身に覚えが無いだろうか? 伝えたいことを、さまざまな階層や部門の人間に「伝言ゲーム」の状態で伝えていては、「とんでもないことが起こる」と同氏は指摘。そして「解決するためには、あらゆる階層において情報が自由に流れるようにすること。相手と直接話すのはOKであるべき。そして、正しい結果を生み出せばよいのだ」と推奨している。

KFC香港による素晴らしい広告

炎をフライドチキンに見立てたKFCの広告は、オグルヴィ香港が制作したもの。シンプルで、視覚的なインパクトが強く、見てすぐに理解できる作品だ。雑誌広告、ポスター、トレイマット広告など印刷媒体広告の手本となるような作品で、実に見事だ。

一方で、著名なシェフであるジェイミー・オリヴァーは最近、英国内で展開されるジャンクフードの広告に規制を求めるキャンペーン「#AdEnough(広告はもうたくさん)」を開始した。オリヴァー氏は、子どもたちが不健康な食品のターゲットにされないよう、ジャンクフードのCMを夜9時までは放送禁止にすることを要求。また、このキャンペーンに賛同するサポーターたちには、目を覆っている様子を写真に撮って、「#AdEnough」というハッシュタグとともにSNSに投稿するよう呼び掛けている。ジャンクフードは、摂取する量によってはお酒やタバコと同様に健康被害を及ぼすものだ。オリヴァー氏の主張は、核心をついている。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

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