クライアントとのクリエイティブブリーフィングこそ、自分たちにとって最も重要な会議なのだろうと長年考えてきた。問題を洗い出し、その問題への独創的な対応策を提示する、荘厳な儀式なのだと……。
だが今は、そうは思えなくなっている。
むしろ、最も重要なミーティングとは、ブリーフィングを終えて帰途につくタクシーの中でチームのメンバーと交わす、自由で自然なおしゃべりなのではと思い始めている。有意義なやりとりがなされ、そこに関係者がそろっているならば、とてつもなく生産的なものになり得る場なのだ。
それはなぜか。仕事をある部門から別の部門へ、右から左に渡すだけでは、我々のビジネスではもはや不十分だからだ。ほんの数年前と比べてずっと質の高い仕事を、同じ金額で少ない時間でできている――そんな直感は、確実に当たっている。
このことから、仕事を順調に続けて相応の報酬を得たいならば、ぐずぐずしていられないのは明らかだ。早急に物事を動かすのに最も必要なのは、問題(どんなにそれがあいまいなものであっても)に最初の段階から取り組むことのできる頭脳明晰なメンバーだ。戦略の開発に2週間もかけている余裕はない。アカウントとプランニングに優れた人々がクリエイティブに関する有意義な提案ができるように、クリエイティブに優れた人々は素晴らしい戦略作りに貢献できる。
また、別の要素もあるのだが、専門性の喪失につながるからか、あまり触れられることはない。端的に言って、私たちの仕事のやり方――クリエイティブであれ戦略であれ――はこれまでになく皆に知られるようになっている。グレイス・ブルー(Grace Blue)が豪州、中国、シンガポールで最近実施した人材調査によれば、著名ブランドのシニアマーケターの26%がエージェンシー出身だった。もちろん、今や多くのクライアントに、あらゆるタイプのインハウス(社内)のクリエイティブチームがある。
つまりプロセス全体が、以前に比べて「ブラックボックス」ではなくなっている。関わる人たちの多くが、物事がどのように進むかをよく分かっているからだ。だから、ウェイターが昔ながらのやり方でクロッシュ(料理を被うドーム型のふた)を持ち上げて料理を披露するかのように、提案内容をうやうやしく提示する振る舞いは、ばかばかしく見えがちなのだ(実際にレストランでも、オープンキッチンを取り入れて客に料理のプロセスを見せ、一体感を演出する一流レストランが、いまや世界にどれほどあることか)。
では、バトンを右から左に受け渡すような仕事でなく、共に協議することが求められる時代ならば、どう進めるのが一番よいのか? 答えは簡単だ。各部門の代表の担当者(最近昇進したアカウントディレクターのみならず)に、クライアントとのブリーフィングに全て参加してもらい、共に素早く仕事を進めよう。
タクシーに乗って、辺りを二、三周してもらうのもいいかもしれない。
(文:チャールズ・ウィグリー 編集:田崎亮子)
チャールズ・ウィグリー氏は、BBHのアジア担当チェアマン。
2019年5月20日
帰りのタクシー内でのミーティングが、なぜ良いのか
仕事を始めるのに最適なのは、クライアントとのブリーフィングの帰り道である。
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