あなたの広告予算は偽情報の資金源になっていないだろうか?もしプログラマティック・メディアバイイングを利用しているなら、答えはおそらくイエスになるだろう。メディア調査機関ニュースガード(NewsGuard)の最近のレポートによれば、140以上の主要ブランドが、AIによって書かれたジャンクサイトに広告費を支払っていたことが判明している。
AIが作成したニュースサイトに掲載された、これらの広告のほとんどは、グーグルが配信したものだった。グーグルの基準では、「スパム的な自動生成コンテンツ」を載せているサイトへの広告配信は、禁じられることになっている。このような広告配信は、莫大な広告費を浪費し、インターネットをAIが生成したスパムコンテンツだらけにしてしまう恐れがある。
AIの普及によって、低所得の人が広告収入を得るために制作した低品質のコンテンツ、つまり「広告のために作られた」(MFA)ウェブサイトの増加に拍車がかっている。全米広告主協会(ANA)は、このようなサイトによって、全世界で毎年、約130億米ドルが浪費されていると推定している。
プログラマティック・メディアバイイングでは、潜在顧客へのリーチを最大化するために、複雑な計算に基づいたアルゴリズムによって、無数のウェブサイトに広告が配信される。ここには人による監視がないため、ブランドは聞いたこともないようなウェブサイトに広告掲載料を支払うことになる。フェイクニュースや陰謀論、プロパガンダなどは、今ではどこにでも転がっている。X(旧ツイッター)は、ソーシャルメディア・プラットフォームの中でも、最も偽情報の投稿率が高いことが、最近明らかになった。そのためEU当局が、イーロン・マスク氏に対し、Xはフェイクニュースやロシアのプロパガンダに対する新しい法律を遵守しなければならないと警告したほどだ。
しかし、こうした状況の中で、広告主はどのような立場にあるのだろうか?多くの広告主が、プログラマティックのメディア購入を通じて偽情報に資金提供していることは分かっている。これを防ぐために何かできるとすれば、それは何だろうか?
IPGメディアブランズAPACのサステナビリティと投資基準責任者を務めるハリソン・ボーイズ氏は、メディアバイイングに際して適切なガバナンスを効かせることが、意図せず偽情報に資金を提供してしまうリスクを軽減するのに効果的だと言う。
「ガバナンスには、検証のためのさまざまなシグナルを用いてドメインやアプリの在庫品質を審査するプロセスが含まれる」とボーイズ氏は言う。「広告在庫の品質(ブランドセーフティ、アドフラウド、トラフィックソースなど)を検証することで、偽情報のリスクも軽減することができる」
グループM(GroupM)のオーストラリアとニュージーランドの広告投資責任者、メリッサ・ヘイ氏は、プログラマティック広告それ自体が問題なのではないと言う。それはバイイングのプロセスを自動化し、オーディエンスに効果的かつ大規模にリーチするのに役立つ。しかし、プログラマティック・バイイングを行う際には、最も高いレベルのブランドセーフティ基準を採用することが極めて重要だと語る。
「我々は、すべてのクライアントのキャンペーン目標や優先順位に合わせて、最適で関連性の高い在庫だけを購入できるよう、こうしたガバナンスを整備してきた」とヘイ氏は語る。「例えば、メディア監査機関MRCの認証した検証ベンダーを利用することや、すべてのメディア購入に包括リストと除外リストを適用することなどだ」
我々は皆、誤った情報が社会にもたらす弊害を目の当たりにしてきた。ウクライナ戦争や地方選挙、国政選挙、そしてパンデミックなどの出来事は、事実に基づいたジャーナリズムを支援することがいかに重要であるかを示している。
しかし悲しいことに、「広告のために作られた」ウェブサイトが、質の高いジャーナリズムから年間170億米ドルもの広告費を巻き上げているという試算もある。この大問題を是正しようと、グループMは『バック・トゥ・ニュース』という業界初のプログラムを立ち上げた。これは、ブランドが信頼できるニュース出版社に広告予算を再投資することで、質の高いジャーナリズムを支援できるようにしようという試みだ。
「我々は、広告バイヤーとして、広告投資が真実に基づく信頼できるジャーナリズムを支援していることを保証する責務がある」とヘイ氏は言う。「広告は、出版社がジャーナリストを育成するための資金を提供し、そしてそれが信頼できる、責任ある情報へとつながっていく。その結果、そこに質の高い視聴者が集まり、広告主にとって安全な空間が確保されるのだ」
グループMの『バック・トゥ・ニュース』プログラムは、2月に発表されたグローバル・パートナーシップの一環として、世界最大のメディア支援非営利団体インターンニューズと協力している。
「オーストラリアでは、200を超える多様な地方、地域の出版社がこのプログラムに加盟している」とヘイ氏。加盟に当たって、ジャーナリズムの完全性、信頼性、ブランドセーフティのチェックに加え、偽情報やプロパガンダについても審査される。これは一般的なブランドセーフティの審査基準を大きく超えるものだ」
『バック・トゥ・ニュース』のような試みは、メディア予算を信頼できるニュース出版社に再投資することで、確かにニュース出版社の広告収益減少には対処できるかもしれない。しかし、偽情報の問題は、そのエコシステムの外側で依然として拡大し続けるだろう。
偽情報の蔓延は、マーケターが過去10年間行ってきた「プログラマティック広告」の規模、リーチ、低コストの追求と、トレードオフの関係にあるのかもしれない。自動化されたデジタル広告バイイングは、偽情報に資金を提供してしまう必然的なリスクを孕んでいるのだろうか?
「10年前まで広告主は、特定のメディア、特定の広告枠を買っていた。しかし今では、ターゲットユーザーそのものを買うようになった。ターゲットがウェブ上のどこにいても関係ないのだ」と、ザ・グローバル・ディスインフォメーション・インデックス(GDI)の共同創設者クレア・メルフォード氏は言う。「広告主が期待する顧客層には、質の高いニュースサイトでもリーチできるが、質が低く、偽情報の可能性が高いニュースサイトでも、より安価にリーチできる。
IPGメディアブランズのハリソン・ボーイズ氏は、広告によって偽情報が増加するのは、ウェブサイト運営者にとって、オンライン広告での収益化が非常に容易であることが要因だと考えている。
「このようなサイトの運営者は、読者にインパクトを与え、利益を生み出すことを目的としており、場合によっては審査プロセスがほとんどないこともある」とボーイズ氏は言う。「これに対抗するためには、在庫管理をより細かく、厳しくして、同時に独自の購入基準も設ける必要がある。しかし、業界に対して私が懸念するのは、このような対策を採用する余力があるのは、一定規模以上のエージェンシーだけであり、プログラマティックエコシステムの大部分は、いまだにリスクだらけだということだ。
「AIは偽情報を作成し、ウェブ上に拡散させるコストを実質的にゼロにする。広告配信に透明性がなければ、AIが生成した偽情報サイトを非常に魅力的なものにみせかけ、それを収益化することはとても簡単だ」とメルフォード氏は言う。「しかしその一方、無数の言語やドメインにまたがる大量の偽情報を、AIによってリアルタイムかつ正確に検知できるようになっている。適切に活用すれば、AIはジャンクサイトの台頭や、それらが拡散する偽情報に対抗する強力なツールとなり得るだろう」
AIは、最小限の労力で大規模なコンテンツの制作を可能にする。その一方で、AIは詐欺師や偽情報発信者のための強固な収益市場も生み出している。世界広告主連盟(WFA)によれば、デジタル広告は2025年までに「組織犯罪の収入源として麻薬取引に次ぐ存在」になりうるという。
「解決策の一つは、広告主がエージェンシーやパブリッシャーに対し、より高い透明性とコントロールを要求することだ」とメルフォード氏は言う。「もしそれができない場合は、GDIのDynamic Exclusion Listのようなフリーのツールもある。これは、広告主がブランド価値を毀損するようなコンテンツに広告予算を投じることを防いでくれるだろう。
メルフォード氏はまた、長期的には、コンテンツの配置や広告の配信にアルゴリズムを活用しているテクノロジー企業が、そのアルゴリズムの中で、独立した第三者によるコンテンツ品質シグナルを使用し、そして「エンゲージメント」シグナルよりも「品質」シグナルに、今より大きなウェイトをおくことが、強力な解決策になるだろうと示唆する。
「テック企業が、アルゴリズムに第三者の品質シグナルを使用するようになれば、より品質の高いコンテンツが優先されるようになり、すべての広告主やそのブランドにとって、より安全な環境が実現するだろう」
ボーイズ氏は、やるべきではないこともある、それに留意することも重要だと指摘する。
「この問題に対処するために、ニュースコンテンツへの出稿を単純に中止するという広告関係者も一定程度いると思う。だが、それはまったくお勧めできない」
「このような状況だからこそブランドは、自分たちが活動する市場の中で信頼できるニュースソースが誰なのかを見極め、信頼できる情報に広告を出すことで偽情報と戦うべきなのだ」とボーイズ氏は主張する。「業界全体で偽情報に資金供給しないようにするには、サプライチェーンのすべての段階で各プレイヤーが役割を果たす必要がある。1つのレイヤーだけでプロセスを整備しても解決はできないのだ」