David Blecken
2016年12月07日

広告業界は「男女平等」のモデルケースとなれるか

男女平等という視点から広告業界を見ると、果たしてどれほどの変化をこれまで遂げてきたのだろうか。そして、今後はどこを目指していくべきなのか。シリーズ「女性リーダーたちと語る」のプロローグとして、このテーマをあらためて考察する。

広告業界は「男女平等」のモデルケースとなれるか

女性がより働きやすい環境づくりを、ということで安倍政権が掲げた「すべての女性が輝く社会づくり」。2017年もこのテーマは引き続き論議の的となっていきそうだ。ビジネスや政治の分野でもっと女性が活躍できる社会を実現する、と首相は高らかに宣言したものの、言葉ばかりが先走って実際にはほとんど状況が変わっていない、という見方は少なくない。世界各国の男女平等の度合いを指数化した世界経済フォーラム(WEF)の2016年版「ジェンダー・ギャップ指数」を見れば、その政策実現が困難な道のりであることはよく分かる。日本は調査対象となった144ヶ国のうち111位で、エチオピアやネパールのすぐ下。「日経225」の企業に、女性の社長はまだ一人もいない。

この課題はほぼ全ての産業に共通しており、広告・マーケティング業界も例外ではない。数年前になるが、日本の大手広告代理店でグローバルな役割を担うことになったある外国人エグゼクティブの男性からこのような話を聞いた。就任直後の東京での役員会議で、ずらりと並んだのは男性ばかり。彼は思わず、「女性はどこにいるのですか?」と尋ねたという。業界関係者も、日本広告業協会(JAAA)の会合はどれも一様に男性ばかりだと口を揃える。

確かに、状況はほぼ変わらないようだ。最近発表された「JAAAレポート」によれば、広告業界で働く女性は全従事者の4分の1に満たないという。金融・保険業界では、女性は半分近くを占めている。そして広告界で役員に名を連ねている女性は、全女性従事者の0.2%でしかない。

だがこれが日本特有の問題かと言えば、そうではない。広告業界は言うほどに女性に対して開放的ではないのだ。ちょうど今年、ジェイ・ウォルター・トンプソンのグスタボ・マルティネス氏とサーチ・アンド・サーチのケビン・ロバーツ氏という2人の世界的な大手広告代理店トップが、女性に差別的な言動があったとして辞任に追い込まれた。一方、希望の持てる出来事もあった。WPPグループのCEOマーティン・ソレル氏は「女性のリーダーシップは進化にとって最も効果的な触媒」と述べ、実際にジェイ・ウォルター・トンプソンではマルティネス氏の後任として女性のタマラ・イングラム氏が就任した。日本でもこうした兆しは見え始めている。博報堂は昨年、中尾文美氏を初の女性執行役員に任命した。電通でも今年、大内智重子氏がクリエーティブ部門で初の女性局長となった。

中尾氏は就任後まもない取材で、いわゆる「肯定的差別」(これまで差別されてきた人を優遇する措置)、すなわち性別や人種に基づく雇用や昇進には賛成できないと語っている。Campaignも同意見で、同時にマーケティング業界は日本の男女同権の牽引役になれるのではないかとも考える。もっとも業界全体でそうした強い意識を持てば、の話だが。

Campaignが期待するのは、才能豊かな女性がもっと広告業界の門戸を叩くことだけではない。最も重要なのは、女性が成果を出したときに男性と同じように報いられることだ。広告業界に女性のプロフェッショナルが増えることのメリットは明らかだろう。例えば男女の偏りを是正することで、消費者への理解がより深まり、よりバランスのとれた戦略を打ち出せるようになるのだから。

こうした考えに基づき、マーケティング業界における女性幹部にスポットを当てたシリーズ「女性リーダーたちと語る」をお届けしていきたい。全ての課題を網羅することはできないかもしれないが、登場する女性リーダーたち1人ひとりがキャリアを築くために経験した苦労を知ることで、読者がこのテーマを考える際の一助となれば幸いだ。シリーズ第1回は、電通の大内智重子氏。同氏の話を聞くと、電通のみならず業界全体がより一層、労働環境の改善と多様性の推進に取り組まなければならないことを再認識する。とりもなおさず電通は、イノベーションを重んじ、優れた社員には大きなチャンスを与えることを是とする企業なのだから。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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