マーケティング業界の指導的立場にある女性を取り上げるシリーズ、「女性リーダーたちと語る」。オグルヴィ・アンド・メイザー・ジャパンのコンテントディレクターであり、オグルヴィ・パブリック・リレーションズ・ワールドワイド・ジャパンのマネージングディレクターを務める関満亜美氏のインタビュー後編では、コンテンツのあり方と、日本における女性の働き方という2つのテーマに焦点を当てる。両テーマに共通して、関満氏は自信を持つことの大切さを強調している。
広告会社や広告主にとって、なぜコンテンツが重要なのでしょうか?
ソーシャルメディアが台頭し、テレビや印刷物の影響力が低下する中、消費者は広告を見たいとは思っていません。求められているのは体験です。
消費者はブランドやプロダクトを、自分たちの生活圏で自然に発見することを望んでいます。つまり、オンラインや口コミで情報を得たいのです。読んでみる。体験してみる。そしてリアクションする。友だちにシェアして意見をもらうこともあるでしょう。その上で買うかどうかを決める。これを促すのがコンテンツの役割です。
コンテンツは、バナー広告やテレビ広告とは別の場所で展開されなければなりません。記事のページやソーシャルメディアのプラットフォームなど、読者が読み進めるうちに自然に出合えるところにコンテンツを置くのです。そして、消費者が「これ良いね」「とても共感する」「私も輪に入りたい」「この情報は使える」と思うような信頼に値する情報、ブランドの提供する価値や、つながりを伝えなければなりません。
広告やPRキャンペーンには限界があります。ブランド体験に軸足を置くことが必要で、それを可能にするのがコンテンツなのです。
広告会社の仕事を通して、コンテンツに対する考え方はどのように変わりましたか?
私は今や、広告とPRに取り囲まれています。すべてが商業的な広告会社で、ジャーナリスト時代の無邪気さを失ったことは、必要かつ前向きな変化でした。ここではコンテンツも商業目的ですが、商業目的に見えないようにすることが肝心です。
コンテンツの対価を払っているのはブランドですが、ブランドがお金を出しているように見えてはいけません。例えるなら、三面鏡のようなものです。ブランドXがキャンペーンやプレスリリースを展開すれば、私にはそれと分かります。それと同じ分野のキャンペーンを手掛けるならば、どう見えてはいけないかも私にはよく分かります。
指導的立場にある女性として、日本の女性リーダーの最大の課題は何だと思いますか?
これを言うと不評を買いそうですが、女性にとって最大の障壁は女性自身です。これは、非常に保守的な日本企業、東京電力での経験から言えることです。多国籍企業3社で働いた経験から、多国籍企業で働く女性には当てはまらない課題だと思いますが。
女性がキャリアアップに二の足を踏むのはなぜでしょうか?
リスクを取るのが怖いのです。これまでさまざまな国籍の女性と仕事をしてきましたが、私の目には、日本の女性はリスク回避型と映ります。おそらく、女性は自分の能力について控え目でなければならないと、刷り込まれてきたのでしょう。自己評価が高いのは女性らしくない、と。昇進させてほしいと手を挙げようものなら、それはリスクになります。それでもし昇進できなかったら、「昇進したいと出しゃばったけど結局は昇進できなかった生意気な人」と白い目で見られます。これが男性であれば、昇進できなくてもそれほど引きずらないでしょう。
私は、女性には回復力が備わっていると思うのですが、皆さん人目を気にし過ぎです。そもそも昇進を目指さなければ、昇進できるわけがありません。昇進を目指さないのは、自信がないから。自信が持てないのは、自信過剰だと人から好かれないのではないかと心配するから。結局、日本には「女性は人から好かれてこそ」という価値観があるから、人から好かれたいと思う。嫌な女にはなりたくない。嫌な女なんて、女性じゃない。こんな考え方が根底にあるように思います。
女性がセクシュアルハラスメントを克服するには、どうしたらいいでしょうか?
これも「人から好かれる女性か否か」という話です。(欧米の基準では)あるまじきことを職場や、同僚と飲みに行ったバーで言われたとしましょう。これに強く抗議すれば、かわいげがないと見なされ、冗談の通じない面倒くさい女性ということになります。女性に求められるリアクションは、ただ笑って受け流すか、「社長ったら、もう。そんなことを」と返すことなのです。
「社長からこんな酷いことを言われました」と声を上げることは、はなから想定外なのです。人事部が対応してくれる保証はありません。下手をすると人事部の中に性差別的な人がいて、「上司に向かって失礼だ」と、逆に責められるかもしれません。誰も助けてくれる人がいないのです。
しかし、今日では、セクハラに関するあらゆる情報が手の届くところにあります。誰もがセクハラとは何かを知っており、セクハラを取り締まる法律も、具体例も示されています。女性は自らセクハラについて理解を深め、セクハラを認識し、解決に向けて踏み出すことができるのです。それなのに女性が自らアクションを起こさないとしたら、「それは仕方がない」では済みません。特に多国籍企業で働く女性や、日本の大企業で働く女性については、なおさらです。
一方で、中小企業で働く女性にとっては、状況は全く異なります。十分な人事部の機能も、適切な内部統制も備わっていないかもしれません。仮にあなたが女性だったとして、何かあったときに間に入る人が誰もおらず、あなたと社長の間で解決しなければならない、ということもあるでしょう。このような場合は問題で、女性には支援が必要です。
しかし、上場企業、多国籍企業、オープンな社風の企業など、必要な情報が手に入る環境に勤めている女性が「セクハラのせいで昇進できなかった」と言ったり、セクハラのせいで落ち込んだとしても、言い訳として通用しないと思います。1985年ならともかく、今はそんな時代ではありません。セクハラに関する理解は進んでいます。
女性リーダーを育てるために、企業には何ができるでしょうか?
私たちは人材の採用にあたり、若かりし頃の自分と重なる人物や、気の合いそうな人物を選びがちです。しかし、これを続ける限り、企業の成長は望めません。同じ考え方をする人が集まるばかりでは、現状を打破するイノベーションは生まれないのです。
小さな会社であれば、異なる産業への参入方法を編み出すくらいでなければなりません。業界大手であれば、市場への参入を目指してくる挑戦者に対抗するための手段を、考え抜かなければなりません。
こうしたことを実現するための新しい発想は、経歴の似た50~60代の日本人男性ばかりが寄り集まっても生まれません。女性だけでなく、世界中からさまざまな背景を持つ人材を取り込む必要があります。
広告会社でリーダーを目指す女性にアドバイスをお願いします。
プロセスが用意されていると思わないことです。柔軟に動ける人ほど成功できます。プロセスを誰かが示してくれないと、あるいはプロセスが確立していないと心もとない「プロセス重視型」の人は、広告会社には向かないでしょうね。これは女性に限らず、男性にも言えることです。
女性の部下を持つ男性や、女性の活躍を促進する立場の男性へのアドバイスをお願いします。
まずは家庭生活を見直すことです。家庭で女性を大切にし、サポートしていない人は、仕事にもそれが出ます。女性はすぐ見破りますよ。そんな男性は女性を引っ張っていくことはできないし、女性もついてきません。何も大仰な心理カウンセリングを受けろと言うのではありません。ただ、家でどれくらい皿洗いをしているか、振り返ってみてください。くだらないと思われるかもしれませんが、家での態度を改めることが出発点になります。
(文:バリー・ラスティグ 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)
このインタビューは英語で行われた。バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネス・クリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージング・パートナー。