共感を得る動画は瞬く間に広くシェアされるが、その一方で、視聴者の反感を買う動画も即座に炎上する。制作した動画に視聴者がどのように反応し、拡散されていくかを事前に予測できれば、より効果的な対策をとることができるだろう。
動画アドテクノロジー企業のアンルーリーは今月始め、公開前の動画への反響を予測できるツール「アンルーリーEQ」をリリースした。感情分析サービスを専門とするアフェクティバ(本社アメリカ)、ならびに音楽データ解析のパイオニアであるムードエージェント(本社デンマーク)と提携。直感的な反応をより正確に分析することが可能となった。
アンルーリーの日本代表取締役である香川晴代氏は、1年前に東京オフィスを設立して以来の変化について、「ブランドの情緒的価値を伝えるヒーローコンテンツを作り、ストーリーテリングすることを重視する広告主が増えている」と語る。感情を動かす広告戦略が効果的であることは、さまざまな調査によって明らかにされている。「サービスや製品の特徴や優位性を訴求する広告(ハードセル)だけでなく、ブランドの価値を伝えてファンを醸成するソフトセルを重視するマーケターが増えています」
一方で消費者側は「体験を損ねるような広告が溢れていることに抵抗を感じており、これは業界の課題といえるでしょう」と香川氏。同社が実施した消費者調査からは、動画広告の視聴を強制されるとそのブランドに対して不快感を覚える日本の消費者は6割強。また、日本のインターネットユーザーの9割超が、広告ブロックソフトの利用を検討しているという。
大量のコンテンツが溢れる中で、注目される魅力的なコンテンツを制作し、不快感を与えないよう届けることが肝要になってきている。そこで、消費者心理をより深く正確に分析するため同社が注目したのが「顔の表情」と「音」だった。顔の表情は、視聴中の被験者の表情をウェブカメラで取得し、自然な感情反応をシーン別に測定。音については、数千時間に及ぶ音楽分析結果と、機械学習を統合して開発されたテクノロジーで、音がどのような気分を作り出すかを識別する。
さらに、視聴後にどのような感情をどれくらいの強度で抱いたか、ブランドをどう認識しているかなどをアンケート調査で明らかにし、直感的反応と論理的思考を統合的にとらえる。そして動画視聴の反応に関してアンルーリーが蓄積してきた独自のデータをもとに公開時の反響を予測し、クリエイティブ改善策や配信戦略に役立てていく。
「ネガティブな話題が取り沙汰される傾向が強いように感じますが、消費者からポジティブな反応を得て成功している例も数多く出ています。消費者の反応を確認するツール、魅力的なコンテンツ作りに貢献するツールとして活用いただければ」と香川氏。
切れ味の鋭い魅力的なコンテンツが、その鋭さを不要に削られることなく世に発信されるよう、後押しとなれるか。
(文:田崎亮子)