Campaignは日本の消費者に、「最強の国産ブランド」に関するアンケート調査を行った。「最強」とは消費者の心を最も捉え、最も高い評価を得ているブランドを指す。
他のアジア太平洋地域(APAC)諸国では、自国の人気ブランドをなかなか挙げられない消費者がいた。だが日本では、そうした問題は全くない。「アジアのトップ1000」ランキングで日本のブランドはどこのAPAC諸国よりも多く、今回消費者が選んだブランドも国内に限らず、世界中で名を馳せている。
今、日本のトップブランドが直面する課題は認知度ではなく、財務体質だろう。それでもいくつかの老舗ブランドは、健全な経営を実践している。今回のランキングで大きく順位を上げたのはホンダ(8ポイント上昇して9位に)やシャープ(5ポイント、11位)、資生堂(9ポイント、12位)、サントリー(22ポイント、17位)など。逆に三菱やドコモ、セイコーなどはトップ20の圏外に落ちた。
上位2社はトヨタとソニー
日本の消費者が3年連続で国内最強ブランドに選んだのはトヨタ。2位も2年連続でソニーだった。
「トヨタもソニーも老舗ブランドですが、依然として競争力とチャレンジ精神がある。何より素晴らしいのは、新しい事業で時代に積極的に順応し、自己改革を怠らない点」と話すのは、落合由紀子・グレイワールドワイド代表取締役兼CEO。「こういう姿勢を続ける限り、若い世代はブランドに親近感とロイヤルティーを抱き、高い評価を下します」。
トヨタが国内で抱える課題は、都会に住む若者のクルマ離れだ。そこで同社はコンパクトカーの開発や、クルマを滅多に利用しない層を対象としたカーシェアリング・カフェの展開などで「モビリティカンパニー」へのモデルチェンジを図ってきた。
「トヨタはパナソニックと共に、CSR(企業の社会的責任)の面で日本のリーダーの地位を確立した。特にサステナビリティや環境問題への取り組みは顕著です」と話すのは、電通ソリューション開発センターの緒方玲子グローバルブランディング部長。Campaignがアジア各国で行ったアンケート調査でも、トヨタは「サステナブルなブランド」のトップ5に入った。だが、コンサルティング会社ゆず兄弟のスベン・パリス共同CEOは「電気自動車がトヨタの弱み」と指摘する。「この分野では日産がリーフで成功し、テスラもシェアを伸ばしています」。
一方でソニーも、ブランドバリューである「夢と好奇心」を掲げ、新製品・サービスの発表を続けている。だがかつての絶対的な家電ブランドも、今や主要事業はエンタテインメントコンテンツとB2B、金融サービス。プレイステーション(PS)は長年看板ブランドだったが、今ではマイクロソフトのXbox(エックスボックス)や 任天堂のスイッチにシェアを奪われつつある。新しいPS5の成否がブランドの運命を決めることになるろう。
リテーラーの躍進
今年のブランド調査結果の大きな特徴は、リテーラーの躍進だろう。ユニクロの認知度は常に日本で高かったが、今年は4位から3位となり、パナソニックを凌いだ。
最も著しく順位を上げたのは、無印良品とイオン。昨年ランキングの圏外だった無印良品は、今年一気に6位に。イオンも21ポイント順位を上げ、14位となった。
ゆず兄弟のマーカス・ウィンター共同CEOは、無印良品の6位は「ブランド力が正当に評価された結果」と話す。「家具に限らず、実に多くの分野でブランドとして確立している。スキンケア製品は国内最大手の一つです。ブランドがスタートしてから長い時間が経ちますが、今もその特徴は『日本らしさ』で、時代をよく反映している」。緒方氏も同様の意見だ。「無印良品ほど、国内で積極的に店舗展開をしてきたブランドはないでしょう。時にはユニクロとも連動して、都心のショッピングモールに出店する。ますます目立つ存在になっています」。
イオンも、新しい消費者トレンドに適切に対応してきたというのが観測筋の評価だ。その一例が、共働き家庭を対象に冷凍食品や調理済み食品の販売を拡大したこと。加えて、国内で新型コロナウイルスの感染が拡大した時期も店を閉めず、食品販売やデパートとしての機能を維持。それでも、「他業種のリテーラーほどeコマースによるダメージは受けなかった」と緒方氏。「日本では(コロナが起きても)消費者の買い物習慣は変化しませんでしたから」。
実際、「イオンはコロナで恩恵を受けた」とも。「地方の小都市では頼りがいのあるショッピングモールとして、また人々の交流の中心として名を高めた」。消費者は街の中心のショッピングモールで落ち合い、イオンで食品や衣料品を買う −− こうした行動が一般化したという。「このような国産ブランドは今後も長く存続し、それぞれのコミュニティーで中心的な役割を果たしていくでしょう」。
(文:ロバート・サワツキー 翻訳・編集:水野龍哉)