日本のテクノロジー大手企業である楽天といえば、Eコマースプラットフォーム「楽天市場」でよく知られているが、中国のテクノロジー企業と同様、動画配信からフィンテックに至るまで、幅広いビジネスを展開している。国内でアマゾンやソフトバンクなどのEコマースプラットフォームと競合する楽天は2021年3月12日、第三者割当増資を実施し、22億ドル(約2400億円)の資金を調達すると発表した。増資分は、日本郵政が8.3%、中国のテンセントホールディングスが3.6%、米ウォルマートが0.9%を引き受ける。
日本郵政はこれにより、楽天創業者で筆頭株主でもある三木谷一族に続く、第2の大株主となる。楽天と日本郵政という大型企業の提携は、物流とフィンテックの面で大きな含みを持つ。しかし、さらに意義深いのが、テンセントによる楽天株の保有であることは間違いないだろう。
テンセントと楽天が新たに手を結んだことは、グローバルな観点から見て、次の2つの点で大きな意義がある。1つめは、この提携が楽天にとって、中国市場でさらなる弾みになる点だ。楽天は2010年に、中国の検索大手バイドゥ(百度)と提携してEコマースサイト「楽酷天(Lekutian)」を立ち上げたが失敗し、2012年に閉鎖した過去を持つ。その後の2015年には、中国Eコマースサイトでテンセント傘下の「JD.com」に出店した。楽天の代表取締役会長兼社長の三木谷浩史は声明で、「テンセントとの新たな提携については、オンラインゲームを含むデジタルエンターテインメントからEコマースに至る幅広い分野における提携の可能性を検討していく」と述べている。
2つめは、コンテンツとコマースの融合による中国市場への参入が、コラボレーションの可能性をうかがわせる点だ。また、かつてバイドゥとの提携でなし得なかったことを、楽天がついに成功させる可能性もある。
楽天は、「ポイント還元」が売りのEコマースサイト楽天市場と動画配信サービス「楽天TV」に巨費を投じ、世界展開に力を入れてきた(一定の成功も収めている)。とはいえ、この両サービスを意義深いかたち、または革新的な方法で一体化させるには至っていない。そんななかで楽天は、今回の提携でテンセントが有するコンテンツコマース分野の可能性を活用できるチャンスを手にした。中国を足がかりに、指折りのコンテンツコマース企業から知識を吸収し、それを世界展開へと役立てられる可能性が出てきたのだ。
テンセントは、競合する中国Eコマース大手アリババ(Alibaba)や、動画投稿アプリ「TikTok」を運営する最大のライバル、バイトダンス(Bytedance)と同様、動画とeコマースの融合を最優先させてきており、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)のパンデミックによって、そうした動きは加速した。テンセントは競争力を維持するうえで、傘下のメッセージアプリ「WeChat」で動画とコマース機能の強化を迫られ、動画投稿用アカウントの追加や、Eコマース機能の拡大、ライブ配信機能の実装を行っている。
テンセントはまた、ゲーム事業(「Tencent Games」や「Riot Games」、出資する「Epic Games」)や音楽といった分野で、コンテンツの創造と育成に秀でたところを証明してきた。音楽に関しては、「テンセント・ミュージック・エンタテインメント(TME)」が驚異的な速さで世界的に成長しており、動画配信サービス「テンセント・ビデオ」で配信されているアイドル発掘番組からは、新たなスターたちを輩出している。
楽天が前回、中国へと進出した2012年頃は、コンテンツコマース業界はまだ存在していなかった。しかしいまや、潤沢な資金を持つ大手企業の楽天とテンセントの提携を妨げるものは何もない。これからは、動画共有サイト「iQIYI」で配信されているリアリティ番組「Fourtry(潮流合伙人)」(中国の芸能人が海外で実店舗の経営に挑戦しながら、ファッショントレンドを発信する番組)のようなコンテンツコマース番組の制作に乗り出せる。日本を舞台にしたエピソードを制作するのもいいだろう(シーズン1は日本が舞台だった)。日本製品を取り上げ、番組を視聴しながらのシームレスなショッピング体験を視聴者に提供すれば、楽天とテンセントの両社が収益を獲得できる。
楽天にとって、もうひとつの収益源となりそうなのが「ビリビリ(Bilibili)」だ。中国のZ世代に絶大な人気を誇る動画共有サービスで、テンセントは株式の18%を保有する2番目の大株主だ。楽天が2億200万人にも上るビリビリの月間アクティブユーザー(MAU)にアクセスできるようになれば、楽天とテンセントの提携がコンテンツコマース業界を大きく牽引していくことになるかもしれない。