全米広告主協会(以下、ANA = The Association of National Advertisers)が発表したこの調査報告書は、「機密性の高い内容」として特定の広告代理店や個人名を挙げているわけではない。だが、あらゆる大手代理店が不正取引に関与していることを示唆している。
今回公表された調査結果は、以下のような内容だ。
●代理店に対する現金のリベートをはじめとする、数多くの不透明な取引が業界全体で慣行化していることが確認できた。
●メディアに支払う額に応じたリベートが、代理店に払い戻されていた。リベートは広告枠の無償提供、あるいは低価値の調査やコンサルティング業務に対する「サービス協定」という名目で支払われていた。
●いくつかの不透明な取引の慣行は、代理店の上級幹部らが認識し、指示を行っていた。
●何社かの広告主はANAに対し、リベートを受け取らなかったことやリベートが戻ってくることを知らなかった、と打ち明けた。
●不正に関与していた疑いの強いいくつかの代理店は、自社か親会社がまず広告枠を買い、金額を上乗せして広告主に転売しており、こうした事実を隠匿しようとしていた証拠も見つかった。いくつかの案件では、転売の水増し分は原価の3割から9割にまでなっていた。
こうした「不透明な取引慣行」は、デジタルや紙媒体、屋外広告、テレビなどメディア業界全体で広範に確認されたという。
ANAのボブ・リオディス代表兼CEOは、「広告主と代理店は、情報を完全に開示するというメディア・マネージメントにおける根本的な原則を欠いている。両者が長期的なビジネス・パートナーとなるための礎は信頼で、それを築くために情報開示は必要不可欠」と述べる。
ANAは加盟企業に対し、「代理店との既存の契約をすべて見直し、内容を慎重に検討し直すよう」促したという。
この報告書によって米当局が法的捜査や規制強化に動き出すかどうかは、まだ定かではない。
ANAは昨年10月、企業調査を専門とする「K2インテリジェンス」社に、代理店が広告主に秘匿してメディアからリベートを受け取っていないかなど一連の調査を依頼したと明かした。リベートは、米国では禁止されている。
K2インテリジェンスのエクゼクティブ・マネージング・ディレクター、リチャード・プランスキー氏は、「この調査はあくまでも広告枠の売買における不透明な取引を明らかにするもので、捜査や監査の類ではない」と述べている。
また、同氏は調査の結果、「代理店幹部と複数メディアとの間で行われた、リベートに関する詳細なやり取りを記録した電子メールが発見された」とも述べている。
リオディス氏は、「デジタルメディアのサプライチェーンが複雑化し、媒体も多様化したことが、代理店に不正なマージンを得る『隙』を与えてしまった。懸念すべき利害対立と透明性の欠如の要因はここにある」と語る。
ANAのトニー・ペース会長は、「 K2インテリジェンスの報告書は、広告主と代理店は根本的な意思疎通ができていないことを露呈した」と述べる。この調査結果を基に、ANAは英国上場企業の「エビクウィティー(Ebiquity)」社、「フィルムディシジョンズ(FirmDecisions)」社と共同で加盟企業向けのガイドラインと提言を作成した。
今回の報告書の発表は、関係者が数週間待ち望んでいたものだった。内容は匿名でも、業界全般に疑惑がかかることを恐れた代理店側が圧力をかけたため、公表が遅れたという噂も出ている。
大手代理店は、いずれも不正行為を否定している。「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙によれば、「ピュブリシス・グループ」のCEOであるモーリス・レヴィ氏は先週、「根拠もなく検証も不可能であるのに、一部、あるいはすべての代理店が幅広く非倫理的行為に携わっているかのようにこの報告書は断定している」と強い不満を露わにした。同氏は報告書の主張が、「広告業界に多大な経済的損害と風評被害をもたらす恐れがある」とも語っている。
「オムニコム」社はこの報告書の公表に先立って、「我々企業はすべてのクライアントに対しメディア・コストを完全に公開し、合意に基づいたクライアントの利となる対価を提供しています。各クライアントとの契約上のコンプライアンスは、常にオムニコムの信用の中核をなしています」という声明を出している。
(文:ギデイオン・スパニアー 編集:水野龍哉)