Tatsuya Mizuno
2021年5月12日

講談社、世界市場に向けリブランディング

創業110余年を誇る出版大手・講談社が新しい企業理念とロゴ、そしてブランディング動画を発表した。世界的ヒット作の陰に隠れたブランド名を浸透させるのが狙いだ。

講談社、世界市場に向けリブランディング

講談社はこれまで漫画『進撃の巨人』『AKIRA』『美少女戦士セーラームーン』や、村上春樹氏の『ノルウェイの森』といった作品を世界的にヒットさせてきた。だが、制作した講談社の名が日本以外ではほとんど知られていないことが課題だった。

リブランディングを手がけたのはニューヨークのデザインスタジオ「グレーテル」社。クライアントにはアップルやネットフリックス、ナイキ、ニューヨーク・タイムズ紙などを持つ。

「新たなグローバルブランディングについては、講談社と1年半にわたり協働してきました。本の表紙から見本市のブースのデザイン、ロゴやブランディング動画の展開に至るまで、その内容は様々なタッチポイントを含んでいます」(グレーテルのクリエイティブディレクター、スー・マーフィー氏)。

講談社は今回、112年に及ぶ歴史の中で初めてロゴを創作した。社名の頭文字である「K」をベースに、「様々なアイデアや声、ストーリー、すなわち『すべての文化の交差点』という講談社の立ち位置を表した」。「日本のハンコ文化からもインスピレーションを得ました。それゆえこのロゴはモノグラムであると同時に、講談社のコンテンツのクオリティーの象徴でもあります」(以上、マーフィー氏)。ロゴは全10色で展開。色彩のバリエーションも多様性を表す。


講談社はこれまで「おもしろくて、ためになる」という企業理念を掲げてきた。今回、この精神を英語で表現する「Inspire Impossible Stories」という理念も発表。

「欧米のユーザーは見たことのない感動的なコンテンツに触れたときに『impossible!』と表現します。作り手と読者・ユーザーの両者に新たな発見や創造性を促し(=inspire)、あり得ない、見たことのない(=impossible)物語(=stories)を常に提供する −− そうした決意表明なのです」(グレーテル代表・創設者、グレッグ・ハーン氏)

ブランディング動画の題名は『Taking Flights』。文字通り、コンテンツが世界各地に飛び立っていく様を叙情的に描く。「世界中のファンを熱狂させる講談社のストーリーテリングは、国境を超えていく力があることを表現した」(マーフィー氏)

さらには、世界のエンターテインメント業界で講談社の役割が増していることもメッセージも盛り込んだ。「日本の出版最大手の一つとして、講談社の影響力は極めて大きい。今回の幅広いプロジェクトのテーマはその輝かしいレガシーに敬意を表しつつ、世界市場で重要な役割を果たしていく未来像を描くことでした」(グレーテルのエグゼクティブストラテジーディレクター、ダニエル・エドムンドソン氏)

動画を監督したのはアルゼンチン在住の映像作家フアン・カブラル氏。これまでソニーやアップル、イケアなどの作品を手がけている。

「我々はおよそ10年ごとに新たな目標を打ち立ててきた。この10年間は出版物・コンテンツのデジタル化を最重要課題として進めてきました。その結果、現在はほぼすべての作品が電子化された。では、次の10年で何をなすべきか。決意に至ったのは、グローバル展開の加速です」(講談社の野間省伸・代表取締役社長)。

同社は世界市場への意識が他の出版社よりも高く、2005年には中国で「講談社(北京)文化有限公司」を、2008年には米国で「講談社USAパブリッシング」を設立した。

「それでも、現状には満足していられない。テクノロジーと通信技術のさらなる発展によって世界はますます近くなる。その一方で、日本の人口減少は進みます。そうした変化の中で、国際展開を加速させていくことは必然」

目指すは、「世界中で講談社の作品が読まれ、生まれるためのネットワークの構築」(以上、野間氏)。日本の出版社としては初となる本格的な世界市場への挑戦。これまでの実績を生かしたブランド構築がどのようになされるのか、極めて興味深い。

(文:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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