David Blecken
2018年6月20日

「責任ある広告」を考える(パートⅡ:スナック食品)

子どもたちの肥満防止のため具体的なアクションを −− 世界的食品メーカーへのプレッシャーが強まっている。シリーズ第2回は、スナック食品の広告をテーマに取り上げる。

「責任ある広告」を考える(パートⅡ:スナック食品)

5月に東京で開かれたグローバルマーケターウィークで、Campaignは世界有数の消費財メーカー幹部たちに「広告主はどうすればより良い企業市民になれるか」を問うた。3回シリーズのパートⅡでは、健康を損なう危険性がある食品の広告を考える。パートⅠはこちらから。

スナック食品の広告:自主規制か、さもなければ規制されるか

質の悪い食生活が健康に及ぼす影響に対する関心は、かつてないほど高い。セレブリティシェフのジェイミー・オリバー氏をはじめとする著名人たちも、無責任なメッセージを発する“ジャンクフード・ブランド”を声高に非難する。

不健康な食品のテレビ広告が子どもたちの目に触れないよう、午後9時前は放映禁止にしよう −− オリバー氏はこの4月、肥満予防のためのキャンペーン「#AdEnough」をスタートさせた。英国の10〜11歳の子どもの20%が肥満(3月に発表された英政府の統計による)であることを考えれば、この取り組みは妥当なものだ。広告主たちは戦略の見直しを迫られている。

セレビリティシェフのジェイミー・オリバー氏はこの4月、ジャンクフードに反対するキャンペーンを開始した。


だが、このキャンペーンを「単純化され過ぎたアプローチ」とみなす者もいる。「結果として、ギャンブルよりも食品に対する規制の方が強くなってしまう。度を越す事態になる恐れがあります」と危惧するのは、大手食品会社マース(Mars)のパブリックアフェアーズ担当バイスプレジデントのマティアス・バーニンガー氏。それでも「業界は政府と協働してこなかった」ために、オリバー氏の活動が評価されていることは認める。

ダノンでパブリックアフェアーズ及びコミュニケーション担当ゼネラルディレクターを務めるエマニュエル・ワーゴン氏は、「監視の目が増えたことで広告主は必要以上に防御的になり、大きな損失を受けている」と話す。「事態改善のための唯一の解決策は、問題を真摯に受け止めて議論を広げていくことです。さもなければ、広告主は潰されてしまうでしょう」。

「我々は(対話を積み重ねるという)正しいことをしてこなかったので、文句を言える立場ではない。だがそれによって、政府は間違ったことをやりかねないのです」とバーニンガー氏。

今後の議論で最も難しい点は、肥満や糖尿病を促進する食品を宣伝する際、どのように倫理性を保つかということだ。ワーゴン氏は「例えば、より抑制的な食べ方を奨励すること」を挙げる。

「問題は、『この製品を1日3回以上食べてはいけない』といったメッセージをどう伝えるかということ」と同氏。「これは我々が行うべき“消費教育”といったものです。加えて、年齢の問題も出てくる。いくつまでの子どもたちにこうした教育を施さねばならないか、マーケティングを行いつつ答えを出さなければなりません」。

これは同時に、広告主にとって「してはならないこと」を明確化する。ユニリーバでグローバルマーケティングとメディア、及びeコマースの相談役を務めるジェイミー・バーナード氏は、消費者の視点から「ブランドは悪い慣習を根づかせるようなライフスタイルの描写をすべきではない」と話す。「例えば、アイスクリームを食べ過ぎるようなシーンを見せることはやめるべきです。広告は大衆の行動に影響を与え、果たすべき役割があることを認識すべき。人々が適量の食べ物を摂り、健康的な食生活を身につけられるよう導いていかねばなりません」。

バーニンガー氏は、「スナック食品が健康に良い、といった誤解を生むような宣伝はやめるべき」と話す。その例として、ビタミンCが入っていることを喧伝する自社製品の「スターバースト」を挙げた。「こういう宣伝は売上を伸ばすので、どの企業も試みる。消費者へのメッセージは厳しく規制されるべきです。加えて、間違ったオーディエンスをターゲットにしないことも重要。子どもたちが親に食べ物を執拗にねだって、親が子どもの食生活をコントロールしにくくなるような事態を招いてはならない」。

パッケージングに関しては、分量を減らすことも妙案だろう。「とてもシンプルなアイデアですが、カロリーや糖分の全体的な摂取量を減らすのには効果的な手段」とバーニンガー氏。「我々は多くのことに取り組まねばなりません。単に広告のやり方を変えるだけではダメなのです。製品も改善していかねばなりません」。

ペプシコでグローバルパブリックポリシーと政府関連業務を担うシニアバイスプレジデント、フィル・マイヤー氏も「パッケージングを含めたマーケティングが、基本的に人々の消費のあり方を左右する」と話す。つまり課題が生じるだけ、それらは「善」を推進する力になり得るというわけだ。糖質ゼロのコーラの出現で通常のコーラの売上が減り、消費の質が変わったことを同氏は指摘する。

とは言え、ペプシコのような企業はダイエット製品のマーケティングに異論があることを留意すべきだろう。ダイエットと称しているにもかかわらず、過剰に摂取した場合は健康に悪影響を及ぼすことが広く知られているからだ。

「課題解決に欠かせないのは、業界の幅広いアクションです」と同氏。「私は、自主規制を敷くことが何よりも重要だと考えています。もしそうしなければ、行政に規制をされてしまう。マイナスのことが立て続けに起これば、我々にとって好ましくない規制が敷かれるのは間違いないでしょう。そうなればクリエイティビティーが抑えられ、我々の活動は制約を受ける。それでは社会的問題の解決にならないのです」。

日本との関連性:
経済協力開発機構(OECD)が昨年発表した統計では、日本の肥満率は世界で最も低かった。よって、このテーマはほとんどのマーケターにとって大きな関心事ではないかもしれない。とは言っても、倫理的思考は世界のどこの国であっても根本的に変わるものではない。子どもの肥満の事例がたとえ1件であっても、それが無責任な広告に起因したとすれば遺憾なことだ。そして肥満は不健康なダイエットやライフスタイルを象徴していることを、しっかりと認識しなければならない。

日本が健康に関して先進国であることは誇れることだが、広告主は今の状況が続くような対策を講じていくべきだ。Campaignが取材した複数の人々は、「広告は常に社会にポジティブな影響を与えられるし、またそうでなければならない」と語った。よって今は差し迫った課題がなくとも、ブランドは節度と責任のあるメッセージを送り続けることが肝要だ。それでこそ国民の健康を維持し、更には増進する役割を果たしていけるのだから。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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