Rick Whiting
2016年9月21日

購買部門の役割:必要か、それとも不要か?

正当に評価されることが少ないマーケティング購買業務。それでもブランドは、購買機能を手放すのか、あるいは受け入れていくのか決めなくてはならない。

購買部門の役割:必要か、それとも不要か?

マーケティング購買部門は、言うなれば広告業界の配管工だ。どんな華やかなキャンペーンでも、購買チームの地道な働きがなければ成り立たない。
無くなってみて初めてその存在に気付くという点も、実際の配管と似ている。このよい例が、最近マーケティング購買部門を撤廃したペプシコで、マーケターの間でちょっとした議論を巻き起こしている。

同社は6カ月前、動きの早い消費者動向に俊敏に対応していくため、マーケティング購買部門を撤廃する決断をした。
この決断にはさまざまな反応があった。例えば、シャングリ・ラ ホテルのeビジネスディレクター、ウィダード・ワヒード氏は、アジリティー(俊敏性)こそが課題であり、ペプシコの動きは今後の潮流を予感させるものだと理解を示す。

「多くの企業が今後、マーケティングのアジリティーをより重視するようになる。だからといって、その多くがペプシコと同じ選択をする訳ではないだろうが、マーケターの迅速な決断を可能にする柔軟な組織体制は、今後増えていくと思う」とワヒード氏は話す。
また、顧客とデータインサイトに基づいた敏捷な対応によって「変化への対応も迅速になる」とワヒード氏は付け加えた。

異なる言語
マーケティング・コンサルティング会社、R3のプリンシパル、シュフェン・ゴー氏によれば、単なるコストカットを行う前にアジリティーを高める必要があることを、ほとんどのブランドが理解している。「しかし購買部門の担当者には、概念的な話と受け取られてしまいがち」だという。

マーケティング・アウトソーシング大手、ウィリアムズ・リー・タグでアジア地域CEO兼グローバルCMOを務めるトッド・ハンコック氏は、アジリティーは確かに課題であるとしながらも、市場でのスピードはこれまでも常にブランドにとって大きな課題だったと指摘。購買がうまく機能している会社もあるが、「マーケティングをサポートする立場にあることは理解しているが、どうしていいか分からない」と言う購買担当者も依然として多い。

ほとんどの企業において購買は、間接材を最安値で仕入れる管理部門だ。しかし巨大なブランドともなると、広告枠やマーケティングサービスの購買は、価値を生み出す重要な役割を担う。
「マーケティングが必要とするものを正しく理解していない購買担当者が、まだ多くの組織に存在することに驚いている」(ハンコック氏)

マーケティングチームが求めているのは単なる製品ではなく、ソリューションだ。商業印刷物の世界最大の発注者である同社でも、こうした問題が単純な販促物にも顕著だとハンコック氏は話す。
「例えば購買チームがタイの零細企業に依頼することで費用削減を達成しても、費用は削減できるかもしれないが、ブランディングにとっては大きな助けにならない。これがバーバリーのマーケティングチームならば、品質の低下は受け入れないだろう。コストは重要だが、購買部門のもっと重要な役割は、販売チームのサポートだ」

ハンコック氏は、購買部門の主な役割を4つ挙げている。マーケティングのスピード向上、販売サイクルの加速、品質の強化、イノベーションのサポートだ。
「P&Gのような大企業のマーケティング購買業務は素晴らしい。こうした企業のブランドはマーケティングを事業の中心に据え、ブランドを何よりも大切にしている。つまり、マーケターこそがビジネスの主役であり、購買部門はサポート役に徹している」

加盟企業の広告費が世界全体の9割を占める世界広告主連盟(WFA)の、アジア地域のマーケティングディレクターであるランジ・デイビッド氏も、購買部門は企業で見過ごされがちだと認識する。「購買は、マーケティングの世界においてあまり語られない分野。しかし、その重要性は否めない」と話す。さらに、世界的な業界団体であるWFAの中でも、購買のワーキングループは特に活発だと付け加えた。

理解の構築

ブランドが購買チームを廃止し始めている兆しは見られないとデイビッド氏。むしろその逆に、世界のWFA加盟企業の三分の一がマーケティング購買担当者を募集中だという。
ハンコック氏も「結局はそれぞれの企業において、マーケティング購買がどれくらい成熟しているかによる」とし、多くの企業が今後マーケティング購買部門を手放すという見通しには懐疑的だ。
さらに、ペプシコと同様の対策を取った企業の10社中9社は、「ブランドのマーケティングについて、購買部門の理解が不足していること」を理由に挙げているという。
マーケティング購買をうまく機能させるためには、マーケティングと購買の両領域での専門性が求められる。しかし、何よりもまず経営側がこうした必要性を認識する必要がある。

ハンコック氏は、国際的な大手銀行のチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の例を挙げる。このCMOは、自分のマーケティングチームの中に購買担当者専用の机を設置し、週3日そこで仕事をするよう担当者に指示したという。「他にも、ジョブローテーションを導入してマーケティング購買を交代で担当させる企業も見受けられる」

WFAのデイビッド氏は、マーケティングとその言語を理解する購買のスペシャリストを育成していく以外に解決策はないと話す。「もちろん組織によると思うが、見てきた限りでは、購買担当者がマーケティング部門に配属されることで連帯感が生まれる。そして、両者の目標が合致した時、大きな成果が生み出される。KPI(重要業績評価指数)も共有できれば、さらなる飛躍がもたらされる」

またブランドはマーケティングの効果だけでなく、代理店の費用対効果の追求という大きな圧力に晒されていると、R3のゴー氏は指摘。今後こうした価値の追求はさらに激化するが、購買部門だけの問題ではないという。
問題の根幹には、透明性と説明責任が欠如し、代理店とクライアントの間で信頼が揺らぐ「代理店ビジネスモデルの機能不全」があるという。「購買プロセスは調達の範囲を超え、代理店の業績管理体制の強化を目指すべきだ」とゴー氏。「このために購買担当者はコストの比較だけでなく、新しいスキルと知識を身につけなければならい。役割を担うのにふさわしいのが購買担当なのかどうか、企業の間で再考する流れが出てきている」

(文:ロバート・クラーク 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)

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