Aleda Stam
2022年1月13日

エデルマン、気候変動対策を発表

世界最大のPR会社エデルマンがクライアントのレビュー(再評価)を行い、今後の気候変動対策の指針を示した。リチャード・エデルマンCEOは数週間で実行に移すと明言する。

エデルマン、気候変動対策を発表

昨年11月中旬、英・グラスゴーで幕を閉じた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)。その直後、エデルマンはESG(環境・社会・ガバナンス)を推進する取り組み「エデルマン・インパクト」を発表した。多くの活動家やセレブリティーから、化石燃料企業との商取引を批判されたのが引き金だった。

それから2カ月。クライアントの包括的レビューを行った同社は気候変動対策を発表、今後どのような企業と協働していくかを明確にした。COP26で採択された産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑えるという目標に向け、「クライアントのサポートをより積極的に行っていく」と言明する。

「我々が初めて関わった環境対策は、1992年の『ドルフィンセーフ認証制度』(ツナ缶などの原料となるカツオやマグロが、イルカにダメージを与えずに漁獲されたことを証明する米国の制度)。以来、30年の実績があります」とエデルマンCEO。「今回の指針はエデルマン、広告・PR業界双方にとって非常に重要なものとなります」

レビューは同社の気候変動対策のグローバル責任者ロバート・カサメント氏が主導。330社以上に及ぶ全てのクライアントを対象とし、特に温室効果ガス排出量の多い20社に関しては綿密な調査を行った。その基準としたのはカーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP、機関投資家が企業に対し気候変動対策や温室効果ガス排出量の公表を求めるプロジェクト)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価報告書、2050年までに世界のエネルギー機関をネットゼロにする国際エネルギー機関(IEA)のロードマップなど。この指針をもとに、今後数週間で各クライアントとの協議に入る。

リチャード・エデルマン氏


レビューで判明したのは、エデルマンのサポートで気候変動対策に貢献している企業がある一方、温室効果ガス排出量のデータを開示していなかったり、パリ協定に対する立場を公表していなかったりした企業。また、いくつかの企業はネットゼロの目標を立てておらず、気候変動対策に関するコミュニケーション戦略で強い批判を受けた企業も。

「経済界全体を見渡せば、今はどの企業も過渡期にある。いくつかの企業は気候危機への取り組みで他社よりも先行していますが、我々の責務は全ての企業を良い方向に前進させること」とカサメント氏。「サステナビリティー業界ではすでにこの課題と取り組んでいますが、温室効果ガスの排出量が多い企業に注力するだけではもはや不十分です」

2021年11月に発表された「エデルマン・トラストバロメーター」の特別報告書では、企業が発信する気候変動対策に関するメッセージを消費者の半数以上が信じていないという結果が出た。

レビューの結果を受けてエデルマンが発表した、全てのクライアントに適用される指針は以下の通り。

●ネットゼロに向けた行動とパリ協定の順守を誓約した企業とのみ商取引をする 

●科学的事実を最優先する 

●気候変動対策に関するコミュニケーションの基準を引き上げ、効率化を図る 

●インクルーシビティーの達成 

●正しい変革と説明責任への注力、など。

こうした取り組みによって目指すのは、同社及びクライアントに対するステークホルダー(利害関係者)からの信頼向上と、蔓延するグリーンウォッシングの減少だ。ステークホルダーに指針の全体像を理解してもらうためには、気候変動対策に関する社内外でのコミュニケーション内容がカギとなる。今後数週間で全てのクライアントと対話を行い、こうした懸案事項への取り組みを協議する。

「レビューの結果、具体的行動の遅れや誤報の要因は、多くの場合(コミュニケーションの)コンテクストにあるとわかりました」とカサメント氏。「コンテクストに自然への畏怖を織り込んで情報を発信することが重要なポイント。そうすることで、グリーンウォッシングの定義もより明確化できます」

エクソンモービルなど化石燃料企業との取引が批判されて浮き彫りになったのは、気候変動対策を唱えるだけでは決して消費者の理解を得られないということだ。エデルマン氏は、「高いレベルの基準に合わせることは歓迎する」という。

「我々は業界最大手で、家族経営の企業。そして、トラストバロメーターを発表しています。こうした3つの要素が重なると、批判の的になりやすい。つまり目立つ存在であるならば、それを逆手にとればいいのです。気候変動対策をリードし、その代表的存在になっていきたい」と同氏。

クライアントと今後の指針を協議した後は、「不正を絶対に許さない断固とした方針」を貫くという。

「クライアントには我々の断固たる決意と、我々が信じるベストプラクティスを提示します。合意に達することが出来なければ、その企業とは決別することになるでしょう」

さらにコミュニケーションや広告、クリエイティブ界の他企業とともに、「世界気候コミュニケーション委員会」の設立も計画中だ。これはパリ協定第12条の推進を目指すもので、世界の人々の気候危機への意識を高めるため、教育や啓発に注力するというもの。

エデルマン氏はすでにWPPのマーク・リードCEOやカンヌライオンズを統括するフィル・トーマス氏の賛同を得、電通にも働きかけたという。これを受けてトーマス氏は、インターパブリック・グループやオムニコム・グループのトップにも参加要請をする。

脱炭素化に逆行するクライアントとの取引をやめるよう呼びかける、PR・広告界の有志によるプロジェクト「クリーンクリエイティブス」も今週、実行すべき気候変動対策のリストを発表した。エデルマンのレビューよりはひと足早く、あたかも先制攻撃を仕掛けるかのような形だった。

同プロジェクトはエデルマンに対し極めて批判的だ。グリーンウォッシングを続け、気候変動対策の法制化を妨げる化石燃料企業や業界団体との付き合いをやめるよう要求する。

プロジェクトのディレクター、ダンカン・マイゼル氏は以下のような声明を発表。「エデルマンが昔ながらのPRトリックで現況をごまかそうとしているのはわかっている。だからはっきりと進言する。気候変動対策で信頼を得たいのであれば、化石燃料企業との取引をやめることだ」

(文:アレダ・スタム 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
PRWeek

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