現代の広告業界を描いたドキュメンタリー映画『キル・ユア・ダーリンズ(Kill Your Darlings)』は、カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでプレミア上映された。
同作品(下の動画はその予告編)は、26歳にしてドイツで最も若いクリエイティブディレクターとなったアヌーク・ヤンス氏に密着し、エージェンシーのビジネスモデルが限界に近づいているのかを業界の識者に尋ね、業界における自身の未来について思索する彼女の姿を追っている。
ヤンス氏は世界各地を訪れ、業界のベテランたちにインタビューしている。マーケティングを専門とする大学教授のスコット・ギャロウェイ氏や、メイク・ラブ・ノット・ポルノの最高経営責任者、シンディ・ギャロップ氏、WPPのグローバル最高クリエイティブ責任者、ロブ・ライリー氏など、そうそうたる顔ぶれだ。
同作品では、広告に未来はあるのか(ギャロウェイ氏は「ない」と語る)、これまで男性優位だった業界により多様性をもたらすにはどのような変化が必要か、といった話題が取り上げられている。
「最初にこの業界に足を踏み入れた時、私は何も疑問に思わなかった。業界構造も、ヒエラルキーも、労働時間も」と、ヤンス氏は言う。
「しかし何年も働くうちに、周囲のクリエイターたちが苦悩し、業界に対し次第に冷笑的になっていくのを目の当たりにした。私自身もそうだった。この映画は、業界の識者たちの見解に触れることができる素晴らしい機会となった」
「けれども、最初の何人かのインタビューを終えた時点で気づいたことがすべてを一変させた。今、広告業界に必要なのは新たな方向性ではなく再出発だ。ゼロから考え直し、悪循環から抜け出さなくてはならない。そう悟ったのだ。これは誰かひとりに任せられる仕事ではない──我々みなが、力を合わせなくては実現できないことだ」
カンヌでのプレミア上映イベントでは、作品で取り上げられた問題に関して、パネリストによるディスカッションもおこなわれた。
リフトのクリエイティブ担当バイスプレジデントを務めるカリン・オンセジャー=バーチ氏は次のように述べている。「クライアントが求めているのは素晴らしく情熱にあふれた才能だ。我々はこうした才能を、あらゆる障壁を取り払い、組織やプロセスによる制約が何もない状態で見つけ出したい」
「我々が知りたいのは、クライアントの目的は何か、インサイトは何か、どうすればその作業に加われるのかだ。どうすれば一緒に仕事ができるのか、我々は、もっともっと緊密なコラボレーションを求めている」
ビームサントリーのブランド担当プレジデント、ジェシカ・スペンス氏は、未来にチャンスを見いだすことができるだろうと語る。「世界には素晴らしいクリエイティブ人材がいるから」というのが、その理由だ。
「我々にとっての課題は、その人材をどうやって見つけ出すかだ。ある人から『大手エージェンシーが才能を独占してきたと思うか』と質問されたことがあるが、正直なところ、おそらくそんな事実はないだろう」と、スペンス氏は述べた。
「そして現在、明らかにそうではない。我々の才能の見い出し方は、本当に大きく変わったのだと思う。だからこそ、私は創造性の力について、今も非常に楽観的でいる」
オンセジャー=バーチ氏とスペンス氏は、映画の中でもインタビューを受けている。
このドキュメンタリーを提供するトゥギャザーは、クリエイティブチームと世界的ブランドやエージェンシーをつなぎ、新たなクリエイティブチームを立ち上げるための新しいプラットフォームだ。この映画では、制作をドライブスタジオが、監督をアダム・ボンク氏とクリスチャン・ボンク氏が務めた。
トゥギャザーのゼネラルマネージャー、アミール・ガイ氏は次のように語る。「本格的に制作に入る前に、我々はクリエイターやエージェンシー幹部、ブランド幹部などに、業界が抱える課題についてさまざまな質問をした」
「そこから始まった我々の旅は、知っているつもりでいたことを改めて問い直す、とても刺激に満ちたものだった。そこで、業界の核心に触れつつも、同時に広告の未来についても熟考を促すような内容を1つのコンテンツとして練り上げたいと考えたのだ」
『キル・ユア・ダーリンズ』のエグゼクティブクリエイティブディレクターを務め、バイ・ザ・ネットワークのクリエイティブチェアマンでもあるペル・ペデルセン氏は、次のように語った。「トゥギャザーのチームが築きあげた作品は、非常に画期的で、創造的破壊をもたらすものだ。彼らが本作品への参加を私に打診してくれた時、この映画が、旧態依然とした現状にノーを突きつけるものだとすぐに理解できた」
「この映画は物議をかもし、業界人の怒りを買うこともあるだろう。しかし、見る人にはぜひとも色眼鏡なしで受け止めてほしい。この作品は、率直に、他の人が口をつぐんでしまいがちなことも恐れずに発信しているが、同時にこの業界と我々クリエイティブの仕事に、これ以上ないくらいの敬意と愛をもって向き合っている」