今、かつてないほど多くのブランドがインハウス化を進めており、デジタルマーケットプレイスも分散化が進んでいる。そのため、ブランドが成功を収めるには、専門的なガイダンスやサポートとともに、機敏性も欠かせない。しかし、ブティック型エージェンシーには十分な規模がなく、持株会社やコンサルティング会社には、今日の広告主の期待に応えるだけの柔軟性がないのが現状だ。
エージェンシーが今後どのように進化していくかは、他のステークホルダーである「クライアント」と「パブリッシャー」の進化に大きく左右される。クライアントは、インハウス化する業務をさらに増やす可能性が高い。これに対してパブリッシャーは、おそらく、個々のニーズに合わせてますますコンテンツをキュレーションする(チャネルに合わせてコンテンツを最適化する)ようになるだろう。
さらに新たなプレイヤーやプラットフォームがこのマーケットプレイスに参入してくることで、おびただしい数のチャネルが生まれることになる。巨大プラットフォーム5社(GAFA+Microsoft) が統合する可能性はまず無く、パブリッシャー向けのマーケットプレイスは断片化し、市場には多くのテクノロジー製品があふれている。もはや、広告主がすべてのチャネルをインハウスで運用することは不可能となってきた。
このような動きの中できわめて重要となるのが、新しいパートナーモデルだ。そこで、エージェンシーをめぐる今後の状況を筆者なりに予測してみよう。
専門性の高い独立系エージェンシーは、理想的な買収先になる
フルサービスを提供する独立系エージェンシーがあまり採用されなくなりつつあるのに対し、特定のチャネルについて深い知識を持つ小規模な独立系エージェンシー(たとえば、アマゾンやユーチューブのみを専門とするエージェンシー)が活用される傾向が高まっている。こうした小規模で専門的なエージェンシーが持つ確かな知識が、一般的で、コモディティ化したチャネルの運用を主に担ってきたインハウスチームの関心を強く惹きつけているようだ。
このような専門エージェンシーは、企業を買収し、成長させ、高く売却するプライベート・エクイティ・ファンドにとって、理想的な買収先のように思える。だが、歴史が証明しているように、独立系エージェンシーの「買収」がうまくいくことはめったにない。たいていの場合、エージェンシーはただ吸収されてしまい、それまで持っていたユニークな特徴をあっという間に失ってしまう。より効果的なやり方は、パートナーシップを締結することだ。「買収」したエージェンシーの、オーナーの持ち株は残したまま、事業だけを統合し、起業家精神溢れるオーナーが、今後の新規ビジネス拡大に対しても、その権利や影響力を保持し続けられるようにするのだ。
持株会社は、クライアントの要望に応じて垂直統合を進める
大手持株会社は、オフラインメディア向けのレガシーなビジネス基盤の存在にいまも悩まされている。オフラインの売上が着実に減少している(いまだ年数%の減少)にもかかわらず、その減少がオフライン専従スタッフの人数に反映されることはない。デジタルサービスへの需要がますます高まるなか、持株会社は旧態依然としたアナログな運用から脱却し、24時間365日休むことのないデジタルの世界で顧客に(より良い)サービスを提供する方向に完全にシフトする必要がある。しかし、彼らのほとんどが出遅れているのが現状だ。
さらに持株会社は、自分たちが実務作業を担う組織であるという認識(そうありたいとは思っていない)と、コンサルタントとして認識されたいという願望(実際にはそうではない)のあいだで揺れ動いている。世界中が混乱している状況の中で、グローバルクライアントのニーズに応えるサービスを提供するには、いまの持株会社が提供している以上の柔軟性と機敏性が必要だ。消費者がローカルなブランドや製品に引き寄せられる傾向が強まるなか、グローバルブランドはローカルの価値観とグローバルニーズとのバランスを取るよう努めるだろう。つまり、データとテクノロジーにクリエイティビティを組み合わせ、複数の地域をまたぐ業務の流れをつくり、ローカルを越えた関連性を提供することで、世界各地で消費者の行動を喚起しようとするのだ。
だが、これからの数年間で目にする最も大きな変化は、持株会社による大規模な垂直統合の動きだろう。なぜなら、クライアントがこれを求めるようになっているからだ。ピュブリシス・ワンや電通ワンは、個々のレーベル戦略を放棄した持株会社の例と言えるだろう。また、5~10年の内には、IPG(インターパブリック・グループ)が抱える複数のメディアレーベルとクリエイティブレーベルは完全に統合され、ユニバーサル・メディアとマッキャン・ワールドグループが再び1つになるだろう。これは、企業が社内調整に注力することを余儀なくされ、顧客に100%のエネルギーを注ぐことができなくなるという、多くの合併につきものの不幸な側面を伴う。
しかし、真に将来性のあるビジネスを手がけているメディアパートナーやクリエイティブパートナーであれば、完全に統合された1つの組織構造の中で、より幅広いサービスや人材へのシームレスなアクセスをクライアントに提供できるようになるはすだ。
コンサルティング会社は、買収によってアジリティの獲得を目指す
コンサルティング会社は、税務サービスやM&A戦略、コンプライアンスといった分野を得意としている。また、彼らのほとんどが非常に優れたシステムインテグレーターでもある。だが、マーケティングサービスに関しては、エージェンシーと違い、ブランドにサービスを提供する上で必要な機敏性は持ち合わせていない。
そのため、コンサルティング会社が次のステップとして、エージェンシー持株会社を買収し始めたとしても不思議ではない。アクセンチュアはこの点で最も有利な立場にある。同社は、どの持株会社よりも時価総額が高いことから、ある日の午前中に、とある持株会社を買収し、同じ日の午後にもっとインパクトのある戦略を発表するといったことも可能だ。ただし、顧客のニーズに最大限に応えるには、先ほど述べたルールに従うことが必要だ。すなわち、垂直統合を完成させ、さまざまな機能やサービスをシームレスに連携できるようにしなければならない。
将来に向けた新しいモデル
独立系か持株会社か、あるいはコンサルティング会社かにかかわらず、現在の「エージェンシー」の中で、今日のデジタルファーストの環境でクライアントが求めるスピード、品質、価値を適切に提供できる組織はない。とりわけ、新しいチャネルが次々と生まれて成長を続けていることを考えれば、ブランドがより専門性の高いチームにすばやくシームレスにアクセスできるようにするための新しいモデルは欠かせない。その上、オンラインでもオフラインでも混乱が続いているため、世界中のあらゆる場所でオーディエンスに効果的にリーチする必要性が高まっている。そのためには、地域の価値観や文化的な関連性を重視しながらも、グローバル企業のニーズとのバランスも取らなければならない。
真に将来性のあるクリエイティブパートナーシップは、完全に統合された組織構造の中で、その能力を発揮し、組織と連携する必要がある。そうすれば、クライアントが必要とし求めているサービスを適切に提供できるだろう。革新的なデジタルファーストソリューションを迅速かつ適切に提供するには、蓄積されたスキルや深い知識とのコラボレーションへの意思が必要なのだ。
リチャード・スムーレンブルグ氏は、メディアモンクスのデータおよびデジタルメディア担当マネージングディレクター。