デジタル分野で確固たる地位を築くという目標を掲げ、昨年は幅広い事業に取り組んだ博報堂。海外での積極的な活動や、外部企業との提携によるイノベーションの加速化も目立った。
11月にはタイのデジタルエージェンシー「ウィンター・イージェンシー(Winter Egency)」の株式を取得、同国で新たなスタッフを100人以上獲得した。1月にはドイツの「サービスプラン」、英国の「アンリミテッド」社と業務提携。3社は「合同チームを結成、一つのユニットとしてグローバルビジネスに乗り出す」と声明を発表した。
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ベトナムとミャンマーで事業を展開し、2018年に博報堂の子会社となった「スクエアコミュニケーションズ」は昨年、カンボジアにも進出。同じく昨年、博報堂が株式を取得したフィリピンの「IXM」と「BCI」社、インドネシアの「Hデジタル・インドネシア」は「クライアントに貢献し、地域での認知度を高めている」と博報堂スポークスパーソンは語る。
中国では「広東省広告集団股份」と戦略的パートナーシップを締結。両社は従来型メディアとデジタルメディア、ブランディング、スポーツマーケティングなどで協業を進める。また、2018年にバイドゥと設立した「Hakuhodo×Baidu Japan プランニングスタジオ」は、「中国をターゲットとするクライアントから高い評価を得ている」(同スポークスパーソン)。同スタジオは、バイドゥの検索データと中国消費者のテレビ視聴に関する定量調査データをかけ合わせ、新たなプランニングツールを開発した。
A-: 昨年、水島CEOは弊社のコミュニティーに対し、「デジタル時代の到来に向け、我々自身を変革する」と約束した。弊社のクリエイティビティーを生かし、斬新な手法で新たな価値を創造していく。 |
デジタルエージェンシー「アイレップ(IREP)」は昨年、博報堂DYホールディングスの完全子会社となった。「博報堂グループのデータとツール、資金や人材を活用することで、アイレップはさらに競争力を高めている」(同スポークスパーソン)。
確かにこれらの取り組みは意義がある。だが、断片的な印象は拭えない。博報堂は「国境を超えたサービス提供力の強化が優先」というが、説得力に乏しい。
昨年4月には、博報堂が事業主となり、分野を超えたクライアントやパートナーと新規事業を創出する組織「ミライの事業室」を設立。アイデアは明快で将来性を感じさせるが、今のところ目に見える成果は出ていない。
加えて、ブロックチェーンとAIにも注力する。昨年10月にはソフトバンクとともに合弁会社「インキュデータ(Incudata)」を設立。両社のデータを活用し、クライアントの戦略立案・実施をサポートする。また、日本テレビとはテクノロジー面で協働、MR(複合現実)を活用したテレビCMのプロトタイプコンテンツを開発。米テクノロジー企業「インストリーマティック(Instreamatic)」とは、インタラクティブな音声広告の研究を進める。
残念ながら、こうした新しいビジネスとそのクライアント、収益に関して博報堂は詳細を一切公表しないので、その業績は評価できない。いずれにせよ、全体的評価には大きく影響しないので、我々は昨年同様「C+」を付けた。確かに前記の取り組みは賢明で、将来性を感じるものだ。しかしながら、実際どのようにビジネスにつなげていくかというインサイトに乏しく、「マネジメント」や「イノベーション」の項で高い評価を下すのは難しい。
クリエイティビティーに関しては、自信を持って評価を上げたい。昨年、博報堂は各地の広告賞で平年以上の成績を収めた。その中心となったのはやはりTBWA HAKUHODOだが、博報堂ケトルなど他の組織も貢献。カンヌライオンズではデザイン部門でゴールドとシルバー、ブランドエクスペリエンス&アクティベーション部門でシルバー、エンターテインメント・ライオンズ・フォー・ミュージック、メディア、インダストリークラフトの各部門でブロンズを獲得した。
スパイクスアジア2019では、カー用品量販店「ジェームス」のために制作した愉快な連続10秒ドラマ「愛の停止線」が2つのグランプリを受賞。さらに7つのゴールド、8つのシルバー、14のブロンズを獲得した。D&AD(ブリティッシュ・デザイン&アートディレクション)賞では博報堂インドネシアがグラファイトペンシル(シルバーに相当)、博報堂とTBWA HAKUHODOが3つのウッドペンシル(ブロンズ)を受賞した。
年末にCampaignが主催する「日本/韓国 エージェンシー・オブ・ザ・イヤー」では合計8つの賞を獲得。2年連続で受賞した「クリエイティブエージェンシー・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、そのうち7つがゴールドだった。また、個人では清水恵介氏が「クリエイティブパーソン・オブ・ザ・イヤー」、赤星貴紀氏が「ストラテジック/ブランドプランナー・オブ・ザ・イヤー」に輝いた。
働き方改革への取り組みでは、昨年のエージェンシー・レポートカードで「明確な方針がなく、落胆させる」と記したが、その後具体的ルールを導入。例えば「スラッシュ7」は午後7時以降の会議や打合せ、「サイレント10」は午後10時以降の仕事に関する連絡を控えるというもの。こうした対策は、「総労働時間を減らす上でまずまずの効果を発揮している」(同スポークスマン)。
ダイバーシティとインクルージョン(包摂性)に関しても、データを公開していない。グループ会社である博報堂DYアイ・オーは特に障がい者の雇用に力を入れるが、これは法令遵守の側面が強い。「育児休暇から復帰する従業員を対象としたプログラムを強化した」(同スポークスパーソン)ことは一つの進歩だろう。新たな人事では、博報堂ケトルの共同CEOに太田郁子氏が、博報堂生活総合研究所アセアン(HILL ASEAN)所長にデヴィ・アッタミミ氏が就任した。
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(文:Campaign Asia-Pacific編集部 翻訳・編集:水野龍哉)