コロナ禍から1年が経ち、変容した広告業界。今、どのような課題が浮かび上がっているのか。最新調査からわかったのは、新規事業獲得のためのピッチのあり方を各エージェンシーが早急に見直し、社員のメンタルヘルスと真剣に向き合わねばならないということだった。
これは、英国のピッチコンサルティング会社グレートピッチカンパニー(ピュブリシスのディレクターなどを務めたマーカス・ブラウン氏が2018年に設立)が行った調査。英大手エージェンシーを対象に、事業成長に関する諸問題について尋ねた。
その結果、人手不足や過重労働、社員への配慮の欠如などから、ピッチに携わる社員のストレスが増している実態が明らかになった。
調査は今年初めに実施され、回答者は80名。その8割がシニアディレクターの職にある人で、うち3分の1がマネジメント、約半数が新規事業とマーケティングの担当。
調査結果の要点を以下にまとめる。
事業獲得における課題
昨年1年を振り返り、ピッチにおける課題として挙げられたのは「膨大な仕事量」(61%)、「ピッチをバーチャルで行うことの難しさ」(52%)、「人手不足」(51%)、「リモートワークの難しさ」(48%)。
さらに、「クライアントからの要求が増え、ピッチが複雑化した」(37%)、「市場でのピッチ数が減った」「他社との競争の激化」(ともに35%)などが続いた。
今年の課題としては、昨年の上位4項目に続き「他社との競争の激化」(43%)が挙げられた。
メンタルヘルスの重要性
回答者のほとんどは「社員のメンタルヘルスを真剣に受け止めている」と答えたが、同時に多くは「ピッチに関してはそれがおろそかになっている」とも。
メンタルヘルスに関して「社員と定期的なコミュニケーションを図っている」と答えた人は72%。メンタルヘルス対策で「大きく前進した」(51%)、「対策をスタートさせた」(40%)という結果も。
だが、「新規事業獲得に関して十分なサポートを受けているか」との問いに対し、「自分が尊重されていないと感じる」と答えた人は36%。「上司からのサポートがない」と答えた人は45%で、「適切な仕事量が考慮されていない」(58%)、「メンタルヘルスに関する定期的なチェックがない」(56%)という声は半数以上に及んだ。
そして8割以上が、ピッチや事業獲得により集中できるよう「現行の仕事量を見直してほしい」と答えた。
メンタルヘルスケアの最善策としては、68%が「週末の電子メールを禁ずるなど、働き方改革を実施する」と回答。次いで「メンタルヘルスケアを制度化する」「社員に特別休暇を与える」(ともに59%)などが挙げられた。
また、「経営者は個々の社員を尊重してほしい」(85%)、「現行の仕事量の多さを理解してほしい / 見直してほしい」(84%)という声が圧倒的だった。
グレートピッチカンパニーのマーカス・ブラウンCEOは、「残業したり、週末を返上したりしてピッチと取り組むことは、以前は名誉の印とみられていました」と話す。
「メンタルヘルスへの意識が広がり、理解が深まったことで、幸い我々の業界ではこうした慣行が少なくなってきた。それでもまだまだ多くの課題があります。社員のメンタルヘルスを維持することは、エージェンシーにとってピッチの結果に直結するのです」
同氏がこれまで協働した中でも生産性の高いエージェンシーは、「週末に働くことをやめて人材力やプランニング力を向上させた」。こうした企業は定期的に社員のメンタルヘルスのチェックや、各人の仕事量の調整を行っているという。
「ピッチについての課題は理解しています。しかし、個人の尊厳とメンタルヘルスを無視することはできない。会社としての責任を全うし、プロフェッショナルな手法でピッチと取り組んでいくよう、業界全体が協働していかねばなりません」
ダイバーシティー
調査ではダイバーシティーに関しても意見を尋ねた。すると、現状への不満がはっきりと表れた。
回答者の約8割(79%)は「ピッチに取り組むチームはもっと多様であるべき」と答え、4分の3(75%)は「より多様でインクルーシブ(包摂的)なオーディエンスからの反応が知りたい」と答えた。
これらの回答者からは、「もっと様々な年齢層や人種・民族、障がい者などからの意見が必要」という声が上がった。
最も実施してほしい社員教育は「戦略 / ストーリーテリング」(75%)で、「プレゼンテーション / パフォーマンスの指導」(58%)、「新規クライアントの見つけ方」「営業力」(ともに47%)などが続いた。
(文:ケイト・マギー 翻訳・編集:水野龍哉)