アンルーリーのインサイト担当グローバルVPのイアン・フォレスター氏は2月21日、都内で開催された顧客向けのプレゼンテーションで、過去3回のオリンピックで出稿された動画広告への情緒反応を分析し、コンテンツを意図した文脈で発信する方法を提案した。分析の対象となったのは、2012年ロンドン大会、2014年ソチ大会、2016年リオ大会の3つだ。
アンルーリーは、広告のグローバルでのビュー(視聴)とシェアの回数を分析。3大会を通じて最もシェアされた動画は、2012年のP&Gによる「Best Job」だった。P&Gは同大会の公式スポンサーだったが、スポンサーではなかったナイキも健闘し、2社の合計シェアは75%にも上る。
フォレスター氏によれば、P&Gは2012年の大会に向けたキャンペーンを、他ブランドに先駆け4月から実施していたという。しかし大会開催中は、ナイキの感動的なコンテンツの独壇場に。大会とのスポンサー契約は露出の必須条件でも、広告効果を保証するわけでもないことを裏付けるものとなった。
さらに、2012年大会も終盤になると、英国代表選手の健闘を称えるアディダスの動画がトップに躍り出たことが分析から分かった。国民の高揚感をうまく活用してブランドボイスを発信した「非常に巧みな手法」だとフォレスター氏は評する。
P&Gは2014年大会でも、ビューとシェアの両方で首位に立ったが、2012年と比べるとその影響力は衰えた。キャンペーン開始から冬季オリンピック開催までの期間が短かったことが原因だとフォレスター氏は考えている。多少変わったところでは、ダイバーシティー(多様性)とインクルージョン(包括)を推進するカナダの団体「CIDI」が、同性愛に不寛容なロシアを「いつの時代もちょっとゲイっぽいのがオリンピック。その伝統を守ろう」とユーモラスに批判した動画が注目を浴びた。「社会問題と連動して何ができるかを示す好例だ」とフォレスター氏は言う。
同調査によると、P&Gの優位性は2016年大会までに覆されている。2014年のSOV(シェア・オブ・ボイス=広告出稿量シェア)は49%(ビュー)と47%(シェア)だったが、それぞれ8%と5%にまで急落。代わりに人気を博したのは、英テレビ局「チャンネル4」がパラリンピックの「超人たち」にフォーカスした動画だ。動画自体の素晴らしさに加え、他のブランドがオリンピックに全力投入していた時にパラリンピックに目をつけたことが勝因だったと、フォレスター氏は言う。パラリンピックには、情緒に訴求するポイントがオリンピックと同じようにあり、それが手付かずの状態で残っていたのである。
フォレスター氏は、差別化の方法もいくつか紹介した。分析によると、オリンピックでは「感動的なコンテンツに依存しすぎる傾向」が見られるという。多くのブランドが似たようなアプローチを取るため、特に優れたコンテンツ以外は埋没してしまう。その例として、感動的なコンテンツが反響を呼んだもののブランド想起がうまくいかなかったヨーグルトブランド「チョバニ」を挙げた。
「感動させることを意図していない動画を、探す方が難しいほどです。懐かしさや悲しさ、陽気さなど、比較的使い古されていない感情に働きかけることも選択肢でしょう。他とは違ったアプローチが成功すれば、メッセージを届けることができます。動画広告を埋没させないためには、他とは異なる感情を引き出すことを考えてみては」とフォレスター氏。さらに、ユーモアと驚きを訴求した好例として、ナイキの「Unlimited Youth」を挙げた。
特に、驚きの要素は「愛着や自尊心を増幅させる」という。また、高額な制作費や有名人の起用は、情緒反応を呼び起こすための必須条件ではないとも付け加えた。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)