David Blecken Robert Sawatzky
2017年4月07日

オンライン広告に潜む、ブランドのリスク

オンライン広告を使ったブランディングが活発になるにつれ、その「安全性」が取り沙汰されている。マーケターが考慮しなければならないリスクとは何なのか。

オンライン広告に潜む、ブランドのリスク

ごく最近まで、広告をグローバル展開する媒体としてユーチューブの勢いはとどまるところを知らないかに見えた。だが、大手ブランドの広告がテロリストの動画やポルノ画像と並列して配信されているという報道を機に、状況は一変。英タイムズ紙は2月9日、数ある例の1つとしてメルセデスの広告が「イスラム国(IS)」の動画と共に表示されていることを報じた。

これをきっかけに、世界中の広告界のステークホルダー(利害関係者)たちはオンライン広告の安全性に疑念を抱くようになった。ジョンソン・エンド・ジョンソンやトヨタ自動車など多くの企業がユーチューブへの広告掲載を一時的に停止、昨年度800億米ドル(約8兆8000億円)を計上したグーグルの広告収入に打撃を与えた。

多額の損失が生じる恐れに直面したグーグルは今週、第三者と提携してユーチューブ上の安全性を確保していくと発表。「インテグラル・アド・サイエンス」「ダブルベリファイ」「コムスコア」といった企業と共に、不適切なコンテンツから広告を守るための対策を講じていくとした。

グーグルはまた、広告ポリシーの制約も強化。ヘイトスピーチ関連の広告にとどまらず、「危険かつ誹謗中傷を目的とするコンテンツ」も禁じていくとした。これには国際法上の保護対象となる性別・年齢・宗教・性的指向などの異なる個人と集団や、社会的弱者である難民・移民・ホームレスなどに対する差別的コンテンツ、特定集団に対して不適切なジョークや侮辱的表現でネガティブなイメージを与えようとするコンテンツ、またナチス・ドイツによるユダヤ人大虐殺のようなデリケートな歴史的出来事を否定しようとするコンテンツも含まれる。さらに、衝撃的かつ過激なコンテンツも広告配信先から除外。ただし、ブランドの価値に見合うと広告主が判断した場合は選択肢に入れるという。
その他の新たな安全対策として、これまでのようなキャンペーンごとの設定ではなく、ユーチューブとグーグル上の全ての配信先から特定のサイトやチャンネルをブランドのアカウントレベルで除外できる管理プロセスの導入を図る。

グーグルの広報担当者は、「システムは100%安全ではなく、ブランドにとって依然リスクは残る」と前置きしつつも、「不適切なコンテンツの除外に全力を傾け、今後も安全性を高める努力を続けていきます」と話す。

新ポリシーの導入によってどれほどの広告収入減となるか、グーグルは言及を避けたが、何らかの影響が出ることは認めている。

「今回の一件は、世界中の広告主たちへの警鐘となりました」と話すのは、ロンドンを拠点にブランドのデジタル・マーケティングの監査支援を行うコンサルタント会社「アプレーズ・デジタル」のニール・イートソンCEO。透明性の問題は何もグーグルに限ったことではなく、「広告プラットフォームを提供するどの企業も抱える課題」と同氏は語る。プログラマティック広告が誕生した当初はその透明性の高さが魅力だったが、今や「泥水のように濁ってしまった」。これまでは、システムを実際よりも複雑に見せることが広告代理店やプラットフォームを提供する側の利益にかなっていた。これからはブランドが「オンライン広告のバイイングをより理解し、主導権を発揮していく必要があります」。こうした動きは既に始まっており、多くのブランドがメディアのテクノロジーに不信の念を持つことで、プログラマティック・バイイングを自社で行う企業も出てきたという。

日本ではまだ、こうした段階には至っていないようだ。元グーグルの社員で現在は「シェアスルー」日本代表を務める高広伯彦氏は、「国内のオンライン広告市場は海外と比べ、安全性やプレースメントの質を重視していない」と語る。その理由は、国内市場ではいまだにブランディング目的の広告が少なく、「欧米市場よりも2〜3年ほど遅れているから」。「国内でもブランディング目的で出稿予算を増やす企業が増えつつあるので、今後はより厳しい安全対策が必要となるでしょう」。特にリターゲティング広告が不適切な動画などと共に配信されているケースが数多く見られるという。

では、今後は誰がより安全な環境作りを主導していくのか。高広氏は、その役割を担うのは「広告主以外にない」と言う。だが国内に限らず世界でも、クライアントやベンダー、パブリッシャー、広告代理店といった全てのステークホルダーが協力して取り組まない限り、進歩は望めないだろう。

「この点はグーグルやフェイスブックに限らず、全てのパブリッシャーやアドテク企業にとっての課題です」と高広氏。だからこそ、インテグラル・アド・サイエンスや「モート」など第三者による検証が不可欠になる。ただ、ユニークユーザーやビューアブルインプレッションが露呈することで新たな問題を引き起こしかねず、「検証に難色を示すパブリッシャーが出てくるかもしれません」。

イートソン氏はプログラマティック・バイイングを詐欺とまでは言わなかったが、メディア監査業務を行う英国の企業「エビクイティ」のマイケル・ヒギンズ会長は先週、世界のプログラマティック広告の「最大で6割が役に立っていない」と発言した。年次業績報告会の席上で同氏は、「今日、プログラマティック広告への投資の約4割しか機能していないというのは衝撃的な事実。不正やビューアビリティの欠如、人間の手を経ないトラフィックによってその価値が蝕まれているのです」と語った。

「取締役や株主たちに、最大で6割もの無駄な投資をしていると打ち明けざるを得ない経営者は、実に気の毒です。問題は、それを先に言うべき多くのCMOたちが何もしていないということなのです」。

(文:デイビッド・ブレッケン、ロバート・サワツキー  翻訳:高野みどり  編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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