カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルが今年も6月に開催される。Campaignは著名なオブザーバー数名に、今年のカンヌで高い評価を集めると期待される日本ならびにアジア太平洋地域の作品を3点選んでもらった(自社が制作したものは除く)。TBWA博報堂の細田高広ECDが選んだのは、以下の3点だ。
1. 香港バレエ団「Hong Kong Cool」
このグラフィックシリーズは「香港バレエ団」を、一つのバレエ団の名前ではなく、一つの芸術ジャンルの名前に押し上げたのではないか。
アジア人であることで委縮するどころか、むしろそれを楽しむ様子を前面に打ち出している。アジアの地域性を消すことで「グローバル」なコンテンツにするのではなく、むしろ地域性を強固な土台にした作品こそ、カンヌで評価されてほしい。そのような期待を込めて、この作品を選ばせてもらった。
なお、バレエ団の創立40周年を記念した動画も話題になっている。
2.日清食品「アクマのキムラー篇」
長年ブランドを支えてきたマスコットキャラクターは、ちょっとした変更を加えるのも勇気が要るものだ。ところが日清食品は「ちょっとした変更」どころか、性格を180度反転させ、日本中の話題をさらった。
半世紀以上日本で愛されてきた、チキンラーメンのキャラクター「ひよこちゃん」。ラブリーな彼が、スパイシーな味わいの新商品が登場したのを機に、なんともサディスティックな悪魔に化けてしまったのだ。
ポイントとなるのは、このCMが単なる悪ノリで終わらず、ち密に考え抜かれている点。ツイッター公式アカウントやウェブサイト、テレビCMを使った立体的なコミュニケーションアーキテクチャーで、ミレニアル世代を巻き込むことに成功している。
3.カーセールス「AutoAds」
「高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」という有名な言葉がある(英出身のSF作家、アーサー・クラークによるもの)。これを広告の世界に置き換えると、「高度に発達したプロモーションは、サービスと見分けがつかない」と言えるだろう。
豪州の中古車販売サイト「カーセールス」によるこの作品は、中古車を売りたいと考える利用者一人ひとりが、唯一無二のCM(それも予算が潤沢にあるかのような作品)を制作できるというサービス。しかもこのサービスで作れるCMが決して退屈ではなく、絶妙に笑えるのがポイントだ。
カンヌライオンズは今やCMだけでなく、eコマース部門などで最新のイノベーションや事業アイデアも評価する場になりつつある。それでも仕組みの新しさだけでなく、表現のユーモア、クラフトマンシップ、そして人間性を大切にしている姿勢を感じる。そういう意味では、最近のカンヌの目指す方向性に、実にふさわしいエグゼキューション(施策)だと思う。