あなたが、あらゆるブリーフに画期的なアイデアを出せるクリエイターであると、誰もが信頼を置いているとしよう。
ありとあらゆる主要広告賞で、受賞経験がある。
周りが嫉妬するようなアイデアを生み出すことができる。
エージェンシーにとってあなたは秘密兵器であり、あなた無しでやっていくことは想像できない。
そしてあなたは、この仕事を非常に愛している。
当然のことながら、昇給に値する人物だ。だが賃金バンドの上限に達してしまい、収入は頭打ちとなる。
昇給を得るためには、あなたが愛しているもの――それは斬新なアイデアを出すクリエイターであることや、カフェにふらっと立ち寄ったり、誰もが思わずクスッと笑ってしまうシナリオを書き上げたりといったこと――を手放さなくてはならない。そして、クリエイティブディレクターへと昇進するべき時なのだ。
素晴らしい。もしそれがあなたの望む仕事なのであれば。
だが、人材の能力を最大限に引き出すマネジメントの仕事を、誰もが望んでいるとは限らない。リスクに身をさらしたり、数々の提案の中からアイデアを選び出すスキルを持ち合わせているとも、それを望んでいるとも限らない。財務関連の会議に参加したり、ワークフローについて議論したり、エージェンシーのビジョンを定めたいと願っているとも限らない。チームメイトの個人的な不平不満に耳を傾けたい、人材の採用や(時には)解雇に責任を持ちたいと考えているとも限らない。
では、クリエイターとしては非常に優秀だが昇進は望まないという人財を、なぜ不利な立場に置くのか? なぜそのような組織構造になっているのか? これが、才能あるクリエイターの数多くがフリーランスであることの理由なのではないか?
実際に、うらやましくなるような作品を生み出す卓抜したクリエイターの中には、酷いクリエイティブリーダーになる者がいる(全員ではない)。素晴らしい作品を作るデザイナーもいる。異なるスキルセットが求められる、別々の仕事だからだ。
一握りの成功したクリエイティブリーダーの裏には、何百人もの落伍者がいるものだ。それがどんなタイプのリーダーなのかは、ご存じだろう。意思決定できない者、フィードバックせずに「このまま続けて」とだけ言う者、別案を作っておいて結局最後にそれを通してしまう者などだ。
クリエイティブディレクターになることだけが、クリエイターのキャリアパスではない。傑出したクリエイターが、CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)やクリエイティブディレクター、ECD(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)、権力者よりも多くの報酬を受け取ってならない理由など、あるだろうか?
組織を率いたくない、あるいは率いることができないという理由で、優秀なクリエイティブの人財が脱落していくような組織構造を、我々は作ってしまったのだ。
解決策は必ずしも、報酬や給与である必要はない。勝てるアイデアに対するボーナスや、追加の休暇という形で労ったり、案件を継続的に獲得できているような場合には(給与を減らさずに)勤務日数を減らすという方法もあるだろう。
適切にリードする方法を知り、それを心の底から楽しむクリエイティブリーダーがいるエージェンシーは、一体どんな雰囲気だろうか? きっと卓越した創造性を発揮するクリエイティブ部門を抱えることとなるだろう。優れた意思決定が迅速に下され、そこに働く人々は自分の価値を認めてくれると感じ、愛する仕事に誰もが取り組むエージェンシーになるだろう。そして何よりも、素晴らしい作品を生み出すことだろう。
さて、いかがだろうか?
ベン・ダ・コスタ氏は、広告会社「Now」のチーフ・クリエイティブ・オフィサー。
(文:ベン・ダ・コスタ、翻訳・編集:田崎亮子)