WPPグループ傘下、グループエムのビジネスインテリジェンス担当グローバルプレジデントのブライアン・ウィーザー氏によると、進行中の戦争や景気後退の脅威など、規制や経済圧力が強まっているものの、広告費への影響は「多くの人が考えているほど悪くない」という。
結果、グループエムは、2022年の世界の広告費の成長率見通しを、2021年12月に予測した9.7%から8.4%へと下方修正した。なお、この新たな成長率予測は、米国の政治広告の影響は含んでいない。米国の政治広告費は、2020年には120億ドル(約1兆6350億円)だったが、今年は130億ドル(約1兆7700億円)に増加すると予測されている。
グループエムが2022年の見通しを引き下げた主な理由は、世界の広告市場の約20%を占める中国経済の減速だ。中国の広告市場は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の厳しいロックダウンの影響を受け、今年の成長率予測は、当初の10.2%から3.3%へと下方修正されている。
ただし、ブラジルや日本など他の市場は、昨年12月時点の予測を上回り、中国市場の影響を緩和するものとみられている。2022年にはインドが22%以上と、最も高い成長率を達成すると見込まれており、これにフランス、ドイツ、ブラジル、カナダが続き、いずれも1桁台後半の成長率が予測されている。米国、オーストラリア、英国は成長がやや鈍化し、1桁台半ばに留まるものと推定される。
グループエムの予測では、米国の今年の広告費は9.3%増となっており、昨年12月の推計値の9.8%増よりわずかに下方修正されている。
広告と経済の乖離
ウィーザー氏は、グループエムの広告予測中間レポートに関するプレス向けブリーフィングの中で、ウクライナ戦争とプライバシー強化による経済的影響に対する企業の懸念は、やや誇張されていると示唆した。
ウィーザー氏によると、2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、現地の広告業界には多大な影響を与えているが、世界の広告業界のトレンドを左右するような「大きな要因ではない」という。
一方、アップルとグーグルによるプライバシー関連機能の変更は、第1四半期の業績に悪影響を及ぼしたと指摘するプラットフォームも複数あったが(スナップとメタの四半期業績を参照)、業界全体の広告費には影響していないという。
アップルやグーグルなどのハイテク企業によるプライバシー規制の強化と消費者追跡の制限によって、データの利用が困難になっているものの、これが広告予算の増減に直接影響を与えることはないと、ウィーザー氏は指摘する。プライバシー規制の強化により、広告予算を投じる先は変化したが、広告予算の総額は変化していないからだ。
不況に直面しても、一部の広告主の予算削減が他の広告主の予算拡大で相殺されるため、グループエムとしては、広告市場の基本的な成長率は2019年の数字を上回ると予想している。ウィーザー氏は、これを「実体経済と広告の断絶の拡大」と表現している。
世界の広告費に占めるデジタルの割合は増え続け、今年は、世界の広告費全体の67%、2027年には73%を占めると予想されている。しかし、デジタル広告市場も成熟化に伴い、その成長は鈍化している。グループエムは、今年のデジタル広告費の成長率を12%と予測しているが、これは2021年に達成された32%の半分にも満たない。
テレビ広告は、2022年に世界で4%成長するとの予測だが、ストリーミング業界の継続的な成長により、コネクテッドTVへの支出が前年比24%増となり、世界のテレビ広告費全体に占めるCTVの割合は12%になると予測されている。
OOH(屋外広告メディア)は、多くの市場でコロナ禍前の水準を超えると予想されるため、2022年中の成長率は、12%に達する見込みだ。