最近のトランプ米大統領のアジア歴訪が如実に示すように、世界中で社会や経済の両極化が確実に進行している。ていねいな言葉づかい、礼節や他者への配慮、長期的な物の見方をよしとする国々においても、トランプ氏は個人攻撃を繰り広げ、ネクタイを変えるかのごとく頻繁に態度を変えるなど、世界で重要な役割を果たすには至らなかった。
もちろんトランプ氏の基準によれば、歴訪は大成功であった。大統領就任からまだ1年に満たないが、騒動の連続だったため、物事の基準が今とは大きく違っていた時代を思い出すのはもはや困難だ。世界は確かに変わった。そして、世界は否応なしに良い方向へ変わっていると、多くの人が考えている。グローバル化は後退し、自分たちの地域や国家を偏重する傾向はますます強まっている。
ブランドの世界も、明らかに変わった。世界の主要市場では、大手ブランドが成長の難しさに直面しており、その様子は各企業の決算報告書からも見て取れる。大手ブランドの成長がかなわない理由を、データで客観的に示すことはできない。だが主要ブランドの存在感が、ニッチな魅力を放つローカルなブランドに取って代わられていることは間違いない。今や消費者は自分たちが使うものを、誰が、何を使って作ったのかを知りたいと考えている。従来のテレビショッピングもまた、よりスピーディーで便利なテクノロジーに戦いを挑まれている格好だ。オバマ前米大統領の優しく思慮深い政治と同様に、かつてのマーケティングの世界の秩序は忘却の彼方に消え去りつつある。
大手ブランドは難局に直面している。マスマーケティングや、彼らの存在感を弱めて古臭いものにしたテクニックから離れることができない。なぜなら、それは大切な競争力である「広告のリーチ」を脅かすことになるからだ。「広告のリーチ」があるからこそ、消費者は大手ブランドの存在を認識し続けることができる。だが予算を大きく増やさずに、ますます脅威となりつつある「ローカルな」競争相手と戦うための建て直しを、どのように図ることができるのだろうか。
大手ブランドはマーケティングの新しいモデルを必死に求めている。その模索が続く間、大手ブランドに依存する「ビッグエージェンシー」の仕組みは機能せず、他にも資金を使う必要のある投資家たちはやきもきすることとなるだろう。
文:ジェームズ・トンプソン 編集:田崎亮子)
ジェームズ・トンプソン氏は、ディアジオ・ノース・アメリカのチーフ・マーケティング・イノベーション・オフィサー。